道を譲るとき

「こう考えてみたことは・・・・・・・?」と、長官は言った。
何を言われても理沙には答えのオプションはそろっている。
少なくともそのつもりでここにやってきた。
「要するに、逃げているばかりでは話にならんのだよ。正面向かって取り組む気にはならないのかね・・・・?」
はぁ・・・・・・・。理沙は小さくため息をついたが、心の中では笑っていた。
シナリオそのままだった。

「では、私が引き受けないとしたら?」
長官は視線を全く動かさない。
「いや、あなたはすでにやる気になっている。」
理沙は再びソファーにゆっくりともたれかかった。足を組んでひざの上で両手を組んでみる。
「真意はどうなんですか・・・・・・・?」

「適任になる人物がいない。」
「それだけ・・・・・・?」

開発局をやめてもう4年。現場の状況は知らないそぶりを理沙は見せていた。
しかし、局長はそんなことは関係ないように、あくまでも自分のペースで交渉したいようである。
「軍から開発局に出向になって、何年になる・・・・・?」
「37年間勤めました。」
「木星の仕事に携わって、何年になる・・・・・・?」
「準備期間を含めると、25年になりますが。」
「核融合燃料開発事業には・・・・・・・?」
「12年です。」
局長は小さくうなずいた。
「十分じゃないか。」

「では、軍を懲戒免職になった私を、なぜここに・・・・・・?」
説明をさんざん聞かされて、木星での現状の映像を見せられること30分。
「何か、隠してません・・・・・・?」
長官の表情は、少しも変わらない。
理沙は彼の表情の変化を待った・・・・・・・・・そして理沙は口元に笑みをうかべる。
「もし、無罪放免される可能性があるとすれば・・・・・・?」
「何の事でしょう・・・・・・?」

「証明されるかもしれないとしたら、どうする・・・・・・・?君のあの時の仮定が。」

理沙は開発局のロビーを歩きながら、まだ動揺を押さえきれなかった。
いつかはわかる時がくると思っていた。しかし、誰にも信じてもらえずにあの時は孤独だった。
システムの信頼性の根幹を揺るがせることになったタイタンでの事件。
そして、その真相に一番近いところに理沙はいた。
暴走を止めるのであれば今しかない・・・・・・・・・未熟なシステムを改善し、取り返しのつかない事態が起こる前には・・・・・・。
そして、16年の月日が流れた。
しかし、理沙にとって時効などはなかった。


事態をコントロールできるのは、果たしてあたしだけなのかしら・・・・・・・・。
理沙は再び自分自身に問いかけた。


                                                          − 管理職として(2066) −



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