明日へとどく

「何か・・・・・・・そうね。」
理沙はそこで一息ついてから、
「現状維持といった考えを打破しなくては、前進はないでしょう。」
しかし見渡すかぎり、技術者たちの顔色は曇っていた。

壁に突き当たっていた。
拡大する需要にこたえることが出来なくては、進展はない。
深宇宙への開発が、単なる金食い虫と言われてばかりもいられない。
しかし、大きな可能性があると言っているだけでは、何も進まないのも事実であった。
説得するだけの大きな理由、そして論理的な根拠が必要だった。

「巨大な生産施設・・・・・・エネルギー施設・・・・・・そして、輸送のための手段・・・・・・・。」
理沙は事あるごとに、そのことを呪文のように繰り返す。
彼女は、単なる軍人ではない。
しかし彼女もまた、既成概念を突破しようと苦しんでいた。
戦争で戦うだけが軍人ではない・・・・・・・・・・将来へ向けての戦略を立案し、ヴィジョンを示す。

次の目標は、木星を中心としたエネルギー資源の開発。

「では、こう考えてみたことは・・・・・・・・?」

ヴィジョンを作った、開発局の上層メンバーと、政策チーム。
自分たちの仕事は、絵に描いただけのヴィジョンの具体化。

「巨大な生産施設・・・・・・必須の条件でしょうか・・・・・・・・?」やがて、技術者の一人が口を開いた。
「小さな生産プラントを、たくさん作ったら・・・・・・・・?」
ボードを前にして、彼らの一人が熱く語り始めた。
「こうしましょう。小さなプラントです。これをたくさん作ります・・・・・・・・1万とか、10万とか。」

やがてその考えは、発展してひとつの資料が完成した。
「小さな生産プラントをたくさん用意します。例えば・・・・・・・10万とかいうオーダーで。」
結果につなげたい技術者たちの気持ちそのままに、理沙はプレゼンを始めた。
「これらの各々のプラントが一日1トンの構造材を生産しただけで、年間3600万トンのオーダーになります。」
しかし、それだけでは終わらない。
「その10万のプラントを、彼ら自身に作らせるのです。」
彼ら自身・・・・・・・・自分で自分を生み出し、さらに数を増やしてゆく。
生物が何十億年も続けていた営みを、人間の手で作り出そうというのである。

しかし、開発局長の一言で、理沙の気持ちは押さえつけられた。
「そんなことは、実現不可能じゃないか。論議するだけ時間の無駄だ・・・・・・・・・。」

それでもまだチャンスはあった。
「巨大プラントをひとつ作るのと、増殖可能な小さなプラント・・・・・・・・どちらに将来性がありますか・・・・・?」
そのあと、理沙にはこの計画をさらに具体化するための考える時間が与えられた。とりあえずだが。

やがて、プラント自体を作るための工作機械が考えられた。
かなりの柔軟性をもった工作機械。
これを増殖させ、ある時点まで数を増やしたところで、小さなプラントの製造にとりかかる。
絵は、かなり具体的になってきていた。
「基本仕様がまとまったので、いよいよ具体的な設計にブレイクダウンします。」

技術者ブレーンの集まりも、結成からもう2年になろうとしていた。
理沙の気持ちは、最初のころの単なる焦りから、とにかく先に進みたいという欲求に変っていた。
まだ、結果は形にはなっていない。
それでも、考えが具体的になっただけでもかなりの前進と思っている。
「このような段階を踏んで、ユニットの各部品は増殖プロセスを稼動させます。・・・・・・・・・まずは・・・・・・。」

そして・・・・・・・・システムを具体化するためのプロセスができあがった。
道は開けた。理沙の・・・・・・・回数を忘れるくらいたくさん行った・・・・・・・プレゼンが始まった。


「これは、生産工程に革命をもたらすほどの大発明です。
 いくら生産に投資しなくてはいけないと、常に考えている必要もありません。
 一度増殖をはじめたプラントは、はかりしれないほどの生産能力をもった巨大プラントにも匹敵します。」

立体スクリーンには、サンプルとしてシミュレーションに使った小惑星の映像があった。
「すべてのことが可能です。巨大な宇宙船しかり、エネルギー供給ステーションもまたしかり。
 惑星の環境改造も可能です。それだけの巨大な潜在能力があります。」



プレゼンも終わり、理沙は開発局の長い廊下を秘書と一緒に歩く。
しゃべりたくないほどに、今日は疲れていた。
しかし、心地よい疲れだった。
長い廊下のはるか先に、春先の暖かい光の差し込んでいる庭が見える。
「もう春なのね・・・・・・・・地上を離れていると、季節感もわからなくなるのよね・・・・・・。」
秘書は、理沙の腕から情報パッドを優しく受け取った。
「じゃあ、ちょっと歩きません?」
玄関前で待っていた運転手に、理沙は片手でサインをした。
「川のそばでもちょっと散歩して・・・・・・・・そうね、お茶しませんか?」
まぶしい陽射しに理沙はちょっと目を細め、そして久しぶりの笑顔を見せる。
「そうね・・・・・・・・。」


                                                − 管理者として(2048) −



項目一覧に戻る