自動増殖システム

「木星の核融合資源開発に向けて、今まで長い時間をかけて準備を進めてきました。
構想段階から数えると20年以上になります。
地球のエネルギー資源が枯渇し、さらには温室効果ガス削減のための再生可能エネルギー開発はもちろんの事ですが、
原子力エネルギーの利用も効果的ではあると考え、さらなる効率化と安全性の向上に努力が進められてきました。
とはいえ、さらにエネルギー発生量が多い核融合は、夢のエネルギー資源であります。
もし実用化できれば水の中の重水素を利用するもよし、現在考えられる無限に近いエネルギーです。
宇宙開発においてはさらに魅力的なエネルギー源になります。
地球、火星付近まではまだ太陽エネルギーが十分利用できますが、
さらに遠い木星、土星、太陽系外縁ともなると、もっと効率のよいエネルギーが必要になります。
私はかつて20年以上も前に、木星が太陽系のエネルギー供給基地になり、
物流の中心拠点になるのではないかとのレポートを作成したことがありました。
レポートは当時の開発局長官の目に留まり、事業化を命じられ、今日この日に至っています」


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「事業化のための中心となる、作業用プラットフォーム、核融合燃料生産プラント、
木星大気中から重水素/ヘリウム3を採取する、原子力ラムジェット機についてはまもなく建造が始まり、
何年か後に完成すれば木星に向かうjことになります。
今日この日の説明会は、さらにその先の世の中を見据えた新しいシステムについての要求仕様の説明になります。
生産プラントや原子力ラムジェット機と比較すると、技術的なハードルははるかに高いです。
夢のような事をご説明することになるかもしれません。
とはいえ、ここでブレークスルーを実現すれば世の中は劇的に変わるでしょう。
それほどの可能性を秘めた技術です」


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「私たちは、今までもそうですが、事業化にあたり巨額の予算を計上し、準備にあたっては巨大な資本を投入してきました。
事あるごとに議会からは事業化にあたっての投資対効果の説明を求められます。
損益分岐点はいつになるのかと。
その損益分岐点に到達することなく、巨額の赤字を抱えて消え去ったプロジェクトは今までに沢山ありました。
このプロジェクトについても、同じような危険を孕んでいないとは言い切れません。
ここでそんなジンクスから脱出して、新しい方法論のもと、広い世界に向かって足を踏み出すべきです。
これはその第一歩です。
私たちは今まで何事においても、事業を始めるためには必ず準備を進めてきました。
工場を作り、大量の資源を投入して製品を大量生産する。
18世紀の産業革命以来、技術革新はあったものの、根本的には何も変わっていません。
事前準備にはどれほどの時間がかかってきたか。
何千、時には何万の人月をかけて準備をして、生産により投資を回収する。
でも、私達人間に置き換えてみれば果たしてどうでしょう。
今や100億人以上の人間を作るために工場を作り、大量生産が行われてきたのかと。
神はそのような手間のかかる手法は取りませんでした。
一組の男女を創造して、たったひとつの命令を下しただけです。
産めよ、増えよ、そして地上に満ちあふれるまでと」


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「これはまだ机上の空論でしかありません。
有名なフォン・ノイマン博士が思考実験の中で作り上げたオートマトンと呼ばれるものです。
最初に神が作られた人間と同じように、一組のロボットを作り上げて、自分を複製して増えるようにとスイッチを入れるだけです。
一組が二組に、倍々ゲームで増殖を繰り返して、数万から数百万、億単位の数も不可能ではありません。
もちろん、増殖にはエネルギーと原料となる物質が必要なので、
太陽エネルギーがふんだんに利用できる地球近辺の宇宙区間で行います。
小惑星を太陽/地球のラグランジュ点まで曳航してきて、一組のロボットを植えつけます。
ちょうど種のようです。
なので私たちはこのシステムを[Metal Seed System]と名前をつけました。
種から芽が出て植物がどんどん増殖するのと同じです。
増殖がある程度まで進んだならば、彼らロボットに仕事をさせればよいのです。
あらかじめプログラミングして組み込むか、
または遠隔操作で指示しても良い。
エネルギープラントを作らせるも良し、スペースコロニーを作らせるも良し、
移住用の巨大な宇宙船を作らせてもよいでしょう。
可能性は無限大です。
もちろん、悪用すればとてつもない危機的な状況に人類を陥れるかもしれません。
なのでこの公の場で説明して、公の監視のもとに事を進めたいと考えました。
これは人類の可能性を拡大する夢のような技術です」


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「技術仕様の詳細は、お手元で資料として参照可能となっています。
この仕様をもとに、実現可能なプランを示してくださることを皆様に期待しています。
では、これから要求仕様についてご説明いたします」



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