建造の目的

「つまり・・・・・・。」
理沙は立体スクリーンを背にして、会議室の全メンバーを見回した。
「これが、私たちの今いるところ。」
スクリーン中央に、小さな赤い点が一つ輝いている。
そこから2本の白い線が延び始める、その線はお互いに反対方向に向かっていた。

「2つの船団を、10光年離れた恒星に向かわせます。約400年かけてね。」
正面に座っているマコーリフ大佐が、少しだけまゆをひそめている。
2本の線がそれぞれ止まった先には、赤い小さな光る点があった。
「到達した恒星系で、生活基盤を確立して、定住します。・・・・・・・・そしてその100年後。」
それぞれの光る点からさらに2本の白い線が延び始めた。
それぞれの線がまた赤い点で止まる。
「再び400年かけて別の恒星系を目指します。・・・・・・そして100年かけて生活基盤を確立して。」
光の線が再びそれぞれの赤い点から延びてゆく、
まるで光の線が増殖しているように、次々と、
増殖のスピードは次第に速まってゆき、それは全体として木の枝のような形をとり始めていた。
「2000年後には、移民グループは30の恒星系に生活の場を広げており、生活の範囲は50光年に及びます。」
理沙の話の間にも生き物のようにスクリーンの上で光の線が増殖していた。
木の枝の段階はすでに終わり、もはや雲のような様相を呈していた。

「500年を、増殖の1世代にたとえるなら、2000年で4世代、5000年で10世代。
 10世代目には、生活範囲は100光年ですが、生活拠点のある構成は約1000。
 そのあとは指数関数的に急激にその数を増やしてゆきます。そして1万世代目の500万年後には・・・・・。」

スクリーンには、銀河系全体が映し出されていた。
光の線はその銀河系をすべて覆い尽くしていた。
・・・・・ばかげている・・・・・・・。
・・・・・本気かね・・・・・・・?
会議室のあちこちから、ため息とともにそんな声が聞こえてきた。
「不可能ではありません。今の技術レベルでも十分に。」
銀河系の姿は中央に小さくなってゆき、周辺の銀河がスクリーンのなかに入ってきた。
理沙はスクリーンの表示を消した。

「500万年もの先の話を、ばかげていると言うのも結構。・・・・・・・ですが。」
自分の席に戻り、長官の目をしっかりと見つめた。
開発局長官は、彼女に小さくうなずいた。
「物事は、皆さんの想像以上に急速に変化しています。・・・・・置いてゆかれるのはあなた方です。
 技術レベルではもう10万人単位の人間を太陽系外に送り出すことは可能なのです・・・・・・。
 だからこそ、今ここで大事な決定をしなくてはなりません。本当にやるべきなのか、やめるべきなのか。
 私たちの社会全体をそのまま移住させるわけにはいかないのです。」

理沙はそこで一息ついた。
「社会制度が古いままで移住しても、それでは古い社会制度の悪い部分の繰り返しです。
 新しい考え方、価値観、社会哲学・・・・・・・・そうしたものを確立するのが先と考えます。」
そして、彼女はテーブルの右側・・・・・・プロジェクト推進メンバーたちにも目を向けた。
「先に進むもよし、立ち止まって考えるもよし。でも私は今は十分に話し合いをすべき時である考えます。」

理沙は席に着いた。
開発局長官の方に目を向け、彼女は小さくうなずいた。

                                                
− FSDA定例会にて(2067) −
                                              



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