建造スケジュール

「今までと同じ方法では、何の進歩もありません。」
理沙は、技術スタッフたちを前にして、彼らに言った。
「少なくとも、300年から400年の旅になります。さらに何千人もの人間を乗せます。
 一つの小さな社会をまるごと乗せてゆくわけです。そのための技術を今から考えなくてはなりません。」
具体的な技術目標はもう決定している。
木星の核融合燃料資源開発の次に提案するプロジェクト。
その核融合燃料を使っての、他の恒星系への旅である。
「プロトタイプができたばかりなのに、もう具体的に船を作るわけですか・・・・?」

しかしながら、理沙を支えている技術者たちはやはり有能な人間であった。
彼らの頭の中では、もう22世紀へ向けたビジョンが構築されていた。
「核融合推進システムのプロトタイプは、技術的にもう確立しています。」
スクリーンを前にして、・・・・おそらく昨日は徹夜をしてみんなで考えたのであろう・・・・・チーフエンジニアが、
理沙に説明をはじめた。
「これを、いくつもつなぎ合わせるだけで、強力な推進システムが出来上がります。
 技術革新もそれはそれでいいのですが、一度技術が確立したなら、コストパフォーマンスを考えるべきです。」
計算では、標準核融合システム・パッケージを200基ほど。
これで、恒星間宇宙船に必要な推進力には十分である。

「300年もの旅になると、信頼性がやはり重要と言いたいわけですね・・・・・なるほど。
 それにしても、1隻で200基となると、コスト曲線はどんな感じになりますか・・・・・・・?」
チーフエンジニアが、意味ありげな笑みを浮かべている。
何も言わずに、彼は次の資料に全員の注意を向けた。
「コストを気にする必要はありません。次の世紀につながる新しい技術の導入です。」
太陽系全体の映像が、全員の前に広がっていた。
火星と木星の間に広がっている、小惑星の集団。その片隅でなにかが起きようとしていた。
「私たちのシュミレーションで、巨大な宇宙船をいかにしてはやく作ることができるか、考えてみました。
 小惑星を丸ごと使って、宇宙船を建造するんです。」
一つの小惑星がクローズアップされ、いま、宇宙船がその傍らに待機していた。
「これです。この小惑星に種を植えるんです。それも宇宙船の種です・・・・・・・。」
理沙は思わず笑ってしまった。

もちろん、ほかのメンバーたちの間からも笑いが起きたが、すぐに収まった。
「種は種でも、非常に特殊なものです。小さなこのユニットは万能マシーンでもあり、
 自分自身を増殖させることができる、特殊な能力があります・・・・・・・・・・・・・・。」

そして2ヵ月後、理沙は開発局の役員たちの前で、その同じ資料を使って説明をしていた。
「最初の1つのモジュールが、
15日後に2つになります。」
最初のうちは増加のスピードが遅かったグラフが、ある時期から非常なスピードで上昇していった。
10ヶ月で、モジュールの数は100万をこえます。それらのモジュールは次の段階で宇宙船建造のための
 各種のプラントの建設を行います。」
小惑星の内部を喰らい尽くしてゆくように、モジュールの作り出してゆく空洞は拡大していった。
「プラントそれぞれは非常に小さなものですが、たとえば
一日1トンの建設材料を作り出すプラントが
 
50000セットあったならば、1年間にそれらの作り出す建設資材は合計約1800万トン・・・・・・・・。」


そして、宇宙船の姿が小惑星の内部で急速に成長していった。
「建造には、2年間と見積もっています。・・・・・しかしながらそのための準備としては、
 自動増殖できる1つのモジュールのセッティングだけでいいわけで・・・・・・・・。」
開発局長官が、理沙の話をさえぎった。
「いろいろと、あなたのお話には驚かされていますが・・・・・・・・これは、いったいどんな根拠があって。
 私は、現実的なプランを持ってくるように言ったはずだが・・・・・・・・本当に理解してくれたのかね?」
理沙は少しも動揺することなく、長官を正面から見つめて言った。
「最初に人間が月に行くときにも、こんな会合から始まったと、私は思っています。
 これは次の世紀へと続いてゆく技術です。このシステムがもし確立したら、その応用範囲は・・・・・・・。」

会合が終わり、理沙はいっしょに会議に参加してくれたチーフエンジニアといっしょに空港までの道を
ゆっくりと歩いていた。
「大丈夫でしょうか・・・・・?」
ぼんやりと前を向いていた理沙は、小さく首を振った。
「気にする必要もないと思う・・・・・だって、私たちはこれが仕事なんだし。」
2人は立ち止まった。
ちょうど空港の方へ向かうタクシーがやってきたので、2人はそれに乗ることにした。
「大丈夫、・・・・・・・来年の今ごろは、きっと気が狂うほどにお互いに忙しいと思うよ。」

テキサスの熱い日差しを受けて、2人を乗せた飛行機は、その1時間後にフロリダへと飛び立った。

                                                 − FSDA技術会合にて(2049) −



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