自動建造システム

「このようなアイディアはどうでしょう?」
ノートの片隅に、彼は絵を描き始めた。
それは、一つの点を頂点として、下に行くにつれて次第に枝分かれしている図であった。


「A、B、Cの3つのユニットがここにあります。これらは自分自身を複製できるという点で、過去のどんな機械とも
 異なっています。これによって・・・・・・・・・。」
スクリーンを背にして、開発担当者が話し始めた。
「今まで不可能と思われていたすべてのことが可能となります。そのプロジェクトの規模や、予算に気を取られることなく、
 自由に計画することができます。」
しかし・・・・・・・。彼のテーブルの向かいの席に座っていた男が言った。
「とはいえ、・・・・・・机上の空論ではないのかね?」

「ユニットAは、自分のまわりから必要な資源を採取し、自分の複製を構築するための材料を作ります。
 ユニットBは、その材料を加工して、ユニットA/B/Cの複製品を作ります。そしてユニットCは他の2つのユニットを
 制御し、他のユニットグループとの連絡をとりながら、全体との協調をはかります。」
最初のメモから始まって10年、システムの具体的な仕様はできあがった。
そして予算もついた。技術的なメドについても先が見えてきた。
しかし・・・・・・・・・・。


地球から5億キロ離れた宇宙空間。
小惑星帯の中にあるとある小さな小惑星、といっても直径は5キロメートルあるのだが。
2隻の宇宙船が、その小惑星にアンカーケーブルを下ろした。
続いて工作機械を載せたパレットが表面に下ろされ、工作機械は着陸と同時にすぐに作業をはじめた。
太陽光はここに来ると非常に弱々しい。
「エネルギーの問題がありますが、安全上、ここしかないと思います。」
1年前、実験となる場所を選定するにあたって、もう少し太陽に近い場所を技術者サイドは提案したが、
彼女の冷たい一言に、全員は従うしかなかった。
「何があるかわかりません。何かが起きてしまってからでは、もう遅いのです。」
彼女は司令室の窓から工作機械の様子を見守った。
工作機械は、まず地表に直径5メートルほどの穴を開け始めた。スクリューのような形の工作機械が、
10メートルまで穴を掘ると、そこでいったん機械は穴から出てゆき、かわりに3体の小さな箱型のユニットが
その穴の底に据え付けられた。
そして、小惑星から工作機械は撤収し、アンカーケーブルが慎重にはずされていった。
「ユニット、始動します。」

「まず、何に使うか・・・・・・・そうですね、宇宙船の建造から惑星の改造まで、どのような用途でも使えます。
 ユニットが増殖すればするほど、工期は短縮されます。
 計算では全長10キロメートルのコロニィならば5年、惑星改造でも400年あれば完了します。」
でも・・・・・・・。理沙は少し声のトーンを落として、
「なんにでも使えるからこそ、悪用される可能性を考えなくては。」
そしてそのためにこの場所が選定されたのである。
彼女、・・・・・・・計画実施責任者は今日もいつものように船の計画実施本部であるコントロール室にやってきた。
「問題なしね?」
これが彼女の朝の挨拶である。そして自分の席に座った。
< 開始312日目 / 第21増殖シークエンス / 実施率78パーセント >
表示に目をやり、ちょうど目の前を通りかかる実施主任を呼び止める。
「欠損率は・・・・・?」
彼はすぐに答える。
「現在のところ・・・・・・・3.2パーセントです。」
予定では、100万ユニットを超えているはずなのに、98万ユニットである。
しかし、・・・・・悪くない。わずか300日と少しで、何の手助けもしないでこれだけの増殖をしているのだ。
あと数日で、これらの数はほぼ倍増するはずである。


<私たちは、いつ自分たちが消される運命にあるか・・・・・・そんな覚悟の元にここにいるのです。>
航海の前に、実施責任者は、クルーたちを前にこう言った。
計画が順調に進んでいる今であっても、それは変わらない。
<いつこれらが暴走して、私たちの敵にならないとは、否定できないからです。>
400万近くに増殖したユニットは、その増殖をやめた。
それらは小惑星の中心に大きな空洞を作り始めていた。そしてその削りだした成分をもとに生産ユニットを生み出していた。
そして今ではその生産ユニットの建設も終わって、メインの仕事である宇宙船の建造を始めていた。
「木星の生産基地からメールです。タンカーの発進は予定通りとのことです。」
スクリーンを見つめる彼女に、システムは言った。
さて・・・・・・と、彼女は席を立ち上がった。
スクリーンの進捗状況もいいが、やはり生の姿を見るのがいい。

さしわたし5メートルの確認用の窓。
そこからは小惑星の全体が見渡せる。彼女は原型はまだとどめているものの、
すっかり変わり果ててしまったその小惑星を見つめていた。
表面には、生産ユニット、そしてそれらを有機的に結びつけるパイプラインやケーブル。
ちょうど中央のあたりにはタンカーが接岸するための設備群、そしてエネルギー供給プラント。
そして芯の部分は円筒形にくりぬかれて、そこでは全長1800メートルの宇宙船がもう完成間近であった。


彼女は、軍服のポケットから、いつでも肌身離さず持ち歩いているコミュニケーターを取り出した。
一見、乗組員全員が持ち歩いているものと変わりはない。
しかしながら、キーからある特別なパスワードを入力することによって、作業はすべて終了するのである。
500メガトンの核爆弾が爆発し、宇宙船や小惑星もろとも吹き飛ばし、計画の存在までも消し去ってしまうのである。


誰もが知ってはいるものの、具体的なスイッチの場所は彼女以外は誰も知らない。

                                                  −指揮官語録(2067)−



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