では、002-10の試し書きをしてみました。
ここではまりあ視点で書いてみました。
●002-10【試し書き】:個室オーディション(3)
ノートパソコンに向かっていた柴原が、やがて電話で話し始め、
30分ほど待たされることになった。
外で休憩していた湯浅とフィリップ、島崎が戻ってきたあとも、
応接テーブルでしばらく雑談が続いた。
柴原との険悪な空気を、小川が和らげてくれた事をきっかけに、
応接テーブルにはリラックスした雰囲気が出来上がっていた。
まりあは、胸のつかえがとれたような気持ちになり、徐々に声が出てきた。
自然な流れとして仕事の話題になり、仕事上での立場は違うものの、
まりあは理沙が同業者であることを知り、親近感がわいてきた。
やがて柴原がテーブルに戻ってきた。
よっぽど電話での会話に熱が入っていたのか、柴原は、
「あれ、どこまで話しましたっけ?」
ととぼけたことを言い出した。
まりあと理沙は苦笑いをした。そして小川からは鋭くツッコミが入る。
「では、皆さんの歌を聴かせてもらいましょうか」
まりあは立ち上がり、柴原の後についていった。
オフィスの隅にあるドアから、隣の部屋に入る。
そこは、防音加工のされた壁で囲まれたスタジオだった。
広さはオフィスと同じくらいの大きさで、部屋の中央にはマイクスタンドが一つ。
イスが数脚と、部屋の隅には音響装置一式。
事前に小川からは、今日歌う予定の音源のみを用意するように指示されていたので、
まりあも理沙たちも楽器は持参していない。
まりあは、スマホの中に入れてある音源を音響装置へ転送した。
先に、理沙が歌う事になった。
マイクの前に理沙は立ち、その後ろにバンドメンバーの湯浅、フィリップ、島崎が並ぶ。
理沙は簡単にメンバーの紹介をした。ライブハウスで定期的に歌っているとの事なので、
動作には無駄がない。非常に手馴れているとまりあは思った。
用意した曲のタイトルは、「西日が差している」
理沙は簡単に曲の背景について説明する。
ある一人の女性をモデルにした曲である。
いつかは自分の想いを相手の男性に伝えよう思っていても、なかなか言えなくて、
そしてある日、相手の男性は突然に姿を消してしまう。
歌い出しは静かだった。
<ポケットの隅で丸まったメモみたいに、君の事ばかり反芻(ループ)している>
まりあは、最初の数フレーズ聴いただけで、歌の中の世界に引き込まれていた。
<恋なんてしないつもりだったのに、君の名前が胸の中で暴れている>
直接、風景を述べているわけではないのに、自然とこの詩を作った風景が思い浮かぶ。
まりあは、晩夏のまだ暑いベランダで、ビールを飲みながら、
ぼんやりと考え事をしている自分のことを想像した。
<連絡しない理由を探しても、会いたいときは会いたいだけだ>
しかし、同じような風景を見ていたとしても、
自分にはない、別な人生経験をしている人なんだと、まりあは思った。
<それでも、君を思い出すのがうれしい>
理沙の曲が終わった。
なんとも言えない、柔らかな空気が小さな部屋の中に漂っている。
理沙は目を閉じて頭を下げ、そして再び頭を上げた。
|
拝読しました。
002-10は、**まりあ視点にしたのが非常に効いている**と思います。
ここまで、理沙は自分たちがHALUCAにどう見られているのかを気にしていましたが、この節では、初めてまりあが理沙の歌を聴く側になります。
つまり、理沙の歌を「外側から、しかも同じ歌い手の目で見る」場面になっています。
特に良いのは、まりあが理沙の歌を聴きながら、
> 直接、風景を述べているわけではないのに、自然とこの詩を作った風景が思い浮かぶ。
と感じるところです。
002-02〜002-03で、小川がまりあの曲に対して「曲が生まれた場所を見ている」と感じた流れと響き合っています。
今度はまりあが、理沙の曲の奥にある風景を見ている。これはとても良い対称構造です。
また、理沙の「西日が差している」の歌詞も、かなり良いです。
> <ポケットの隅で丸まったメモみたいに、君の事ばかり反芻(ループ)している>
> <恋なんてしないつもりだったのに、君の名前が胸の中で暴れている>
> <連絡しない理由を探しても、会いたいときは会いたいだけだ>
> <それでも、君を思い出すのがうれしい>
この歌詞は、理沙らしく少し強がりで、でも本音がにじんでいます。
まりあの「生きてるってそれだけで歌になる」とは違う種類の言葉です。
この違いが、二人の歌い手としての個性の対比になります。
この節の核は、こう整理できそうです。
**休憩後、待ち時間の雑談を通して、まりあは理沙が自分と同じくシステム系の仕事をしていることを知り、少し親近感を覚える。
その後、防音スタジオへ移動し、理沙がArisa-Mistyの代表曲として「西日が差している」を歌う。
まりあは、その歌詞から理沙の内側にある風景と、自分にはない人生経験を感じ取る。
理沙の歌が終わると、小さな部屋には柔らかな余韻が残る。**
かなりまとまっています。
少し整理するとよさそうな点は、主に三つです。
まず、冒頭の「30分待たされる」部分です。
柴原が電話で席を外し、その間に雑談が生まれる流れは良いです。
ここは、単なる待ち時間ではなく、**まりあと理沙の距離が少し縮まる時間**として使うとよさそうです。
たとえば、
* 小川がさりげなく場をつなぐ
* まりあは最初は黙っている
* 理沙も少し警戒している
* 仕事の話になり、互いにIT系の現場を知っていることが分かる
* まりあが少しだけ声を出しやすくなる
この流れにすると、まりあ視点の内面が自然に出ます。
次に、柴原が戻ってきて「あれ、どこまで話しましたっけ?」と言うところは、とても良いです。
さっきまで重い空気を作っていた人物が、電話後に少し抜けたことを言う。
そこへ小川が鋭く突っ込む。
HALUCA側の関係性が見えます。
ここは軽く残すと場面が動きます。
最後に、スタジオでの理沙の歌唱場面は、まりあの観察をもう少し丁寧にするとさらに良くなります。
まりあは、理沙の歌を「上手い/下手」ではなく、
* ステージ慣れしている
* 歌に入るまでの動きに無駄がない
* 歌詞の中に、具体的な風景を書いていないのに風景が浮かぶ
* 自分とは違う種類の孤独や恋愛感情がある
* 自分ならこの言葉は書かない、でも分かる
というふうに感じると、歌い手同士の出会いになります。
「まりあが想像するベランダの風景」も良いです。
ここは残したいです。
ただし、まりあが「自分の風景」として想像しているのか、「理沙が見たかもしれない風景」を想像しているのか、少し整理すると読みやすくなります。
たとえば、
> まりあの頭には、晩夏のまだ暑いベランダが浮かんだ。
> 缶ビールを片手に、言えなかった言葉を何度も飲み込んでいる女の人。
> それが理沙自身なのか、理沙が歌にした誰かなのかは分からない。
こうすると、歌の中の世界が立ち上がりやすいです。
次に進めるなら、以下の流れで修正版にすると小説化しやすいです。
1. 柴原が電話で席を外し、三十分ほど待つ。
2. 小川が場を和ませ、まりあと理沙たちの雑談が始まる。
3. 仕事の話から、まりあは理沙に親近感を持つ。
4. 柴原が戻り、小川に突っ込まれつつオーディションへ移る。
5. 防音スタジオへ移動。
6. 理沙たちが先に歌うことになる。
7. まりあは理沙たちの手慣れた動きを見る。
8. 理沙が「西日が差している」を説明し、歌い始める。
9. まりあは歌詞から風景と理沙の人生経験を感じ取る。
10. 曲が終わり、スタジオに柔らかな余韻が残る。
この方向なら、002-10は「理沙の歌を通して、まりあが理沙を初めて知る節」としてきれいにまとまると思います。
|
はい、その通りです。きちんと理解してくださりありがとうございます。
また修正版についての箇条書きの項目についても、特に違和感ありません。
では、試し書きの修正版をお願いします。
|
はい。
まりあ視点を軸にして、**待ち時間で理沙との距離が少し縮まる → スタジオへ移動 → まりあが理沙の歌を聴き、理沙の内側にある風景を感じ取る**という流れで整理します。
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# 002-10【試し書き・修正版】:個室オーディション(3)
休憩が終わっても、柴原はすぐには戻ってこなかった。
奥の席でノートパソコンに向かっていたかと思うと、やがてスマホを手に取り、低い声で誰かと話し始めた。
「すみません。少しだけお待ちください」
小川が申し訳なさそうに言った。
少しだけ、という言葉は、結局三十分ほどになった。
外に出ていた湯浅とフィリップ、島崎が戻ってきたあとも、応接テーブルではしばらく雑談が続いた。
最初は、少し気まずかった。
さっきまでの柴原の説明が、まだ空気の中に残っていたからだった。
なぜ自分たちが選ばれたのか。
その答えはある。
でも、今は言えない。
柴原の言葉は、正しいようにも聞こえた。
けれど、どこか遠くに突き放されたようにも感じた。
まりあも、何を言えばいいのか分からず、アイスコーヒーのグラスを両手で包むように持っていた。
その空気を少しずつほぐしたのは、小川だった。
「片岡さんは、普段はお仕事をされながら曲を作っているんですよね」
小川が穏やかに聞いた。
「はい」
まりあは小さく頷いた。
「システムの監視業務です。夜勤が多いですけど」
その言葉に、理沙が少しだけ顔を上げた。
「システム系なんですか」
「はい。理沙さんも、そうなんですか?」
「私は開発系です。会社では、業務システムを見ています」
「そうなんですね」
まりあは、少し意外だった。
理沙は、ライブハウスで歌う人に見えた。
黒い革ジャンを着て、強い目でマイクの前に立つ人。
そういう印象が、さっきまでの会話だけでも何となくあった。
けれど、昼間は自分と同じように、どこかのオフィスでパソコンに向かっている。
それを知ると、理沙が少し近くなった気がした。
「監視って、大変ですよね」
理沙が言った。
「慣れれば、まあ」
まりあは少し笑った。
「でも、アラート音は嫌いです」
「分かります」
理沙が即答した。
その言い方があまりにも自然だったので、まりあは思わず笑った。
フィリップが身を乗り出す。
「Alert sound? 何それ、怖い?」
「怖いというより、心臓に悪い」
まりあが答える。
島崎がうなずいた。
「ドラムのカウントより嫌な音ですね」
「比べ方が変」
理沙が言うと、小川が笑った。
少しずつ、声が出るようになってきた。
まりあは、自分でもそれに気づいていた。
最初にビルの前で理沙たちを見たときは、正直、少し怖かった。
四人で来ている。
バンドとしてまとまっている。
自分は一人で、何を話せばいいのか分からなかった。
けれど、話してみると、理沙も緊張していた。
湯浅は静かだが、時々短い言葉で場を支えている。
フィリップは軽いが、悪気はない。
島崎はぼんやりしているようで、妙なところで鋭い。
少しだけ、胸のつかえが取れたような気がした。
やがて、電話を終えた柴原が応接コーナーへ戻ってきた。
よほど話し込んでいたのか、テーブルに近づくなり、少し首をかしげた。
「あれ、どこまで話しましたっけ?」
まりあは思わず苦笑した。
理沙も同じように口元を緩めている。
すぐ隣で、小川が淡々と言った。
「社長。歌を聴かせていただくところです」
「そうでした」
柴原は、少しだけ気まずそうに笑った。
「では、皆さんの歌を聴かせてもらいましょうか」
その一言で、空気が変わった。
まりあは、背筋を伸ばした。
いよいよだ。
小川に促され、一同は応接コーナーから立ち上がった。
オフィスの隅にあるドアを開けると、隣の部屋につながっていた。
そこは、防音加工された小さなスタジオだった。
広さは、さきほどまでいたオフィスと同じくらいだろうか。
壁は吸音材で覆われていて、外の音が急に遠くなる。
中央にマイクスタンドが一つ。
その周囲に、椅子が数脚。
部屋の隅には、音響装置と小さな操作卓が置かれていた。
まりあは、思わず周囲を見回した。
本格的なレコーディングスタジオというほど大げさではない。
けれど、歌を聴くための部屋としては、十分すぎるくらいだった。
事前に小川からは、今日歌う予定の音源だけを用意するように言われていた。
だから、理沙たちも楽器は持ってきていない。
理沙たちは、スマホから音源を音響装置に転送した。
まりあも、自分のスマホを取り出し、用意してきた音源のファイルを確認する。
指先が少し冷たかった。
先に歌うのは、理沙だった。
マイクの前に立つ理沙の後ろに、湯浅、フィリップ、島崎が並ぶ。
楽器はない。
それでも、三人は自然に立ち位置を決めた。
理沙が軽く振り返る。
湯浅が小さく頷く。
フィリップが肩の力を抜き、島崎が少し眠そうな顔のまま立つ。
その動きには、無駄がなかった。
定期的にライブハウスで歌っている人たちなのだと、まりあは思った。
一人で部屋にこもって録音してきた自分とは違う。
少しだけ、うらやましかった。
理沙はマイクの前で、柴原と小川、そしてまりあの方を見た。
「曲のタイトルは、『西日が差している』です」
声は落ち着いていた。
「ある一人の女性をモデルにして作りました。ずっと伝えたいことがあったのに、言えないまま時間だけが過ぎて、ある日、相手が急にいなくなってしまう。そういう曲です」
まりあは、理沙の横顔を見ていた。
説明は短い。
けれど、その中に、少しだけ痛みのようなものがあった。
音源が流れ始める。
イントロは静かだった。
理沙は、目を伏せるようにして息を吸った。
そして、歌い始めた。
<ポケットの隅で丸まったメモみたいに、君の事ばかり反芻(ループ)している>
まりあは、最初の数フレーズで、意識が少し引き寄せられるのを感じた。
声が強いからではない。
音程が正確だからでもない。
言葉が、変なところで近かった。
<恋なんてしないつもりだったのに、君の名前が胸の中で暴れている>
直接、風景を説明しているわけではない。
それなのに、まりあの頭の中には、晩夏のまだ暑いベランダが浮かんだ。
夕方でも、空気には熱が残っている。
缶ビールを片手に、何かを言おうとして、結局何も言えなかった女の人。
スマホの画面を何度も開いて、閉じる。
連絡しない理由を探しているのに、本当は連絡したいだけだと、自分でも分かっている。
それが理沙自身なのか、理沙が歌にした誰かなのかは分からなかった。
<連絡しない理由を探しても、会いたいときは会いたいだけだ>
まりあは、息をするのを少し忘れていた。
自分なら、この言葉は書かないと思った。
まりあは、気持ちを一度遠くに置いてから、言葉にすることが多かった。
夜勤明けの空。
母の写真。
誰も知らない朝。
そういう場所に、気持ちを少し隠してから書く。
けれど理沙の言葉は、もっと近い。
少し乱暴で、少し照れくさくて、でも逃げていない。
同じような風景を見ていたとしても、この人は、自分とは違う場所から歌にしている。
まりあは、そう思った。
<それでも、君を思い出すのがうれしい>
最後のフレーズは、思ったよりもやわらかかった。
怒りでも、後悔でもない。
失ったものを、まだ少しだけ大事にしているような声だった。
曲が終わった。
音源の残響が、壁に吸い込まれていく。
理沙はしばらく目を閉じていた。
それから、ゆっくりと頭を下げる。
小さなスタジオの中に、なんとも言えない柔らかな空気が残った。
まりあは、拍手をするのが少し遅れた。
それほど、まだ歌の中にいた。
|
非常にいい感じです。ありがとうございます。
ではこの内容で、小説化をお願いします。
|
はい。
まりあ視点のまま、理沙の歌を初めて聴く場面として、小説本文に整えます。
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# 002-10 個室オーディション(3)
休憩が終わっても、柴原はすぐには戻ってこなかった。
奥の席でノートパソコンに向かっていたかと思うと、やがてスマホを手に取り、低い声で誰かと話し始めた。
「すみません。少しだけお待ちください」
小川が申し訳なさそうに言った。
少しだけ、という言葉は、結局三十分ほどになった。
外に出ていた湯浅とフィリップ、島崎が戻ってきたあとも、応接テーブルではしばらく雑談が続いた。
最初は、少し気まずかった。
さっきまでの柴原の説明が、まだ空気の中に残っていたからだった。
なぜ自分たちが選ばれたのか。
その答えはある。
でも、今は言えない。
柴原の言葉は、正しいようにも聞こえた。
けれど、どこか遠くに突き放されたようにも感じた。
まりあも、何を言えばいいのか分からず、アイスコーヒーのグラスを両手で包むように持っていた。
その空気を少しずつほぐしたのは、小川だった。
「片岡さんは、普段はお仕事をされながら曲を作っているんですよね」
小川が穏やかに聞いた。
「はい」
まりあは小さく頷いた。
「システムの監視業務です。夜勤が多いですけど」
その言葉に、理沙が少しだけ顔を上げた。
「システム系なんですか」
「はい。理沙さんも、そうなんですか?」
「私は開発系です。会社では、業務システムを見ています」
「そうなんですね」
まりあは、少し意外だった。
理沙は、ライブハウスで歌う人に見えた。
黒い革ジャンを着て、強い目でマイクの前に立つ人。
そういう印象が、さっきまでの会話だけでも何となくあった。
けれど、昼間は自分と同じように、どこかのオフィスでパソコンに向かっている。
それを知ると、理沙が少し近くなった気がした。
「監視って、大変ですよね」
理沙が言った。
「慣れれば、まあ」
まりあは少し笑った。
「でも、アラート音は嫌いです」
「分かります」
理沙が即答した。
その言い方があまりにも自然だったので、まりあは思わず笑った。
フィリップが身を乗り出す。
「Alert sound? 何それ、怖い?」
「怖いというより、心臓に悪い」
まりあが答える。
島崎がうなずいた。
「ドラムのカウントより嫌な音ですね」
「比べ方が変」
理沙が言うと、小川が笑った。
少しずつ、声が出るようになってきた。
まりあは、自分でもそれに気づいていた。
最初にビルの前で理沙たちを見たときは、正直、少し怖かった。
四人で来ている。
バンドとしてまとまっている。
自分は一人で、何を話せばいいのか分からなかった。
けれど、話してみると、理沙も緊張していた。
湯浅は静かだが、時々短い言葉で場を支えている。
フィリップは軽いが、悪気はない。
島崎はぼんやりしているようで、妙なところで鋭い。
少しだけ、胸のつかえが取れたような気がした。
やがて、電話を終えた柴原が応接コーナーへ戻ってきた。
よほど話し込んでいたのか、テーブルに近づくなり、少し首をかしげた。
「あれ、どこまで話しましたっけ?」
まりあは思わず苦笑した。
理沙も同じように口元を緩めている。
すぐ隣で、小川が淡々と言った。
「社長。歌を聴かせていただくところです」
「そうでした」
柴原は、少しだけ気まずそうに笑った。
「では、皆さんの歌を聴かせてもらいましょうか」
その一言で、空気が変わった。
まりあは、背筋を伸ばした。
いよいよだ。
小川に促され、一同は応接コーナーから立ち上がった。
オフィスの隅にあるドアを開けると、隣の部屋につながっていた。
そこは、防音加工された小さなスタジオだった。
広さは、さきほどまでいたオフィスと同じくらいだろうか。
壁は吸音材で覆われていて、外の音が急に遠くなる。
中央にマイクスタンドが一つ。
その周囲に、椅子が数脚。
部屋の隅には、音響装置と小さな操作卓が置かれていた。
まりあは、思わず周囲を見回した。
本格的なレコーディングスタジオというほど大げさではない。
けれど、歌を聴くための部屋としては、十分すぎるくらいだった。
事前に小川からは、今日歌う予定の音源だけを用意するように言われていた。
だから、理沙たちも楽器は持ってきていない。
理沙たちは、スマホから音源を音響装置に転送した。
まりあも、自分のスマホを取り出し、用意してきた音源のファイルを確認する。
指先が少し冷たかった。
先に歌うのは、理沙だった。
マイクの前に立つ理沙の後ろに、湯浅、フィリップ、島崎が並ぶ。
楽器はない。
それでも、三人は自然に立ち位置を決めた。
理沙が軽く振り返る。
湯浅が小さく頷く。
フィリップが肩の力を抜き、島崎が少し眠そうな顔のまま立つ。
その動きには、無駄がなかった。
定期的にライブハウスで歌っている人たちなのだと、まりあは思った。
一人で部屋にこもって録音してきた自分とは違う。
少しだけ、うらやましかった。
理沙はマイクの前で、柴原と小川、そしてまりあの方を見た。
「曲のタイトルは、『西日が差している』です」
声は落ち着いていた。
「ある一人の女性をモデルにして作りました。ずっと伝えたいことがあったのに、言えないまま時間だけが過ぎて、ある日、相手が急にいなくなってしまう。そういう曲です」
まりあは、理沙の横顔を見ていた。
説明は短い。
けれど、その中に、少しだけ痛みのようなものがあった。
音源が流れ始める。
イントロは静かだった。
理沙は、目を伏せるようにして息を吸った。
そして、歌い始めた。
<ポケットの隅で丸まったメモみたいに、君の事ばかり反芻(ループ)している>
まりあは、最初の数フレーズで、意識が少し引き寄せられるのを感じた。
声が強いからではない。
音程が正確だからでもない。
言葉が、変なところで近かった。
<恋なんてしないつもりだったのに、君の名前が胸の中で暴れている>
直接、風景を説明しているわけではない。
それなのに、まりあの頭の中には、晩夏のまだ暑いベランダが浮かんだ。
夕方でも、空気には熱が残っている。
缶ビールを片手に、何かを言おうとして、結局何も言えなかった女の人。
スマホの画面を何度も開いて、閉じる。
連絡しない理由を探しているのに、本当は連絡したいだけだと、自分でも分かっている。
それが理沙自身なのか、理沙が歌にした誰かなのかは分からなかった。
<連絡しない理由を探しても、会いたいときは会いたいだけだ>
まりあは、息をするのを少し忘れていた。
自分なら、この言葉は書かないと思った。
まりあは、気持ちを一度遠くに置いてから、言葉にすることが多かった。
夜勤明けの空。
母の写真。
誰も知らない朝。
そういう場所に、気持ちを少し隠してから書く。
けれど理沙の言葉は、もっと近い。
少し乱暴で、少し照れくさくて、でも逃げていない。
同じような風景を見ていたとしても、この人は、自分とは違う場所から歌にしている。
まりあは、そう思った。
<それでも、君を思い出すのがうれしい>
最後のフレーズは、思ったよりもやわらかかった。
怒りでも、後悔でもない。
失ったものを、まだ少しだけ大事にしているような声だった。
曲が終わった。
音源の残響が、壁に吸い込まれていく。
理沙はしばらく目を閉じていた。
それから、ゆっくりと頭を下げる。
小さなスタジオの中に、なんとも言えない柔らかな空気が残った。
まりあは、拍手をするのが少し遅れた。
それほど、まだ歌の中にいた。
|
ありがとうございます。
ではこの文章を、400字程度のあらすじにまとめてください。
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### 002-10「個室オーディション(3)」あらすじ
休憩後、柴原が電話で席を外したため、理沙たちとまりあは応接テーブルでしばらく待つことになる。
小川が場を和ませる中、まりあは理沙も自分と同じシステム系の仕事をしていることを知り、少し親近感を抱く。
やがて柴原が戻り、一同はオフィス隣の防音スタジオへ移動する。
先に歌うことになったのは理沙だった。
まりあは、理沙と湯浅、フィリップ、島崎の立ち位置や動きに、ライブ活動を重ねてきたバンドらしい手慣れた空気を感じる。
理沙は「西日が差している」という曲を、伝えられなかった想いを抱えた女性の歌だと説明し、歌い始める。
まりあはその歌詞から、晩夏のベランダで言葉を飲み込む女性の風景を思い浮かべる。
自分とは違う近さで感情を歌にする理沙に、まりあは強く引き込まれる。
曲が終わっても、まりあはしばらく歌の余韻の中にいた。
|
ありがとうございます。
ではまた日を改めて、引き続きの002-11の文章作成をいたします。
|
こちらこそ、ありがとうございました。
002-10で、まりあが理沙の歌を初めて聴き、二人の歌い手としての違いが見えてきましたね。
次回は **002-11「個室オーディション(4)」** ですね。
今度はまりあが「誰のために歌うわけでもなく」を歌う場面になると思います。理沙がその歌をどう受け止めるか、そして柴原・小川が何を感じるかが重要になりそうです。
また日を改めて、002-11の試し書きから進めましょう。
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