では、002-17の試し書きをしてみました。
●002-17【試し書き】:違和感
季節は秋から冬になり、年末が近くなっていた。
「Next Frontier」の初公開から1ヶ月と少々になるが、まりあを取り巻く世界は大きく変わった。
「HALUCA」が渋谷ウォールスクリーンでPVを流す契約は2週間。
毎日3回、夜の7時から9時の枠でPVを流すので、公開は合計で42回。
最初に流した日の翌日から、反応についての分析が始まった。
ネット上のすべてのニュース/広告情報から、さらにはネット上を流れるさまざまな公の会話情報から、
キーワードでの分類/分析を、1時間ごとに行う。
「マリア・エレーナ」または「Next Frontier」というキーワードで分類/分析を行った結果では、
PVを流した初日は、反応ゼロ。
しかし、その翌日から数字に表れ始める。
おそらく渋谷でPVを直接見た人の感想と思われ、その感想や撮った動画が拡散、共有される。
まりあは、小川が見せるパソコン上の数字の増加を、毎日高揚した気分で見つめる。
「Next Frontier」のPVは3種類作成されていて、3日目から2つ目のバージョンが流される。
その翌日には、さらに数字が増える。
「HALUCA」のアカウントで用意された、音楽/動画ダウンロード用サイトのアクセス数が、
公開5日目から一気に増える。「HALUCA」にとっての初めての営業収入が入りはじめる。
PV公開からちょうど1週間がたち、柴原は次の計画についてのゴーサインを出した。
しかし、具体的な内容をまりあはまだ知らない。
一方、ライブ活動に今まで以上に熱が入ってきた理沙たちArisa-Mistyは、
年末のクリスマスライブに向けて準備を進めていた。
10月に公開した「労基に駆け込みたい」が好評で、ライブ活動開始以来、活動の中心としていたライブハウスの他に、
2か所の別なライブハウスでも活動を始めていた。
バンドに入る収入が増え始める。とはいえ、音楽だけで食べていける金額にはまだ足りないが。
12月上旬、ライブハウスで歌っていると、
最後尾の席に、「HALUCA」の小川の姿を見つけた。
ライブが終わると、理沙の方から小川の方に近づいて行った。
「お久しぶりです」
今の理沙には、半年前に小川の姿をライブハウスで初めて見た時の警戒心はなかった。
小川もまた、堅苦しいビジネススーツではなく、Tシャツとジーンズのラフな格好だった。
「いい曲ね」
理沙が期待していた言葉だったが、やはり言われると嬉しかった。
ライブ後の片づけが終わると、半年前のように小川と一緒に食事に行く。
そして、皆が期待した通りに今回も小川持ちで最寄り駅の居酒屋で飲んで食べる。
最近のバンドの状況について、ひととおり話が終わると、自然な流れとして「HALUCA」の近況話になる。
嬉しそうな表情で小川は言う。
「おかげさまで、食べていけるだけの営業収入が入りました」
しかし、食べていけるだけという、控えめな収入でないことは理沙もわかっていた。
公のニュース情報では時々話題になる程度だが、
実際のネット上での口コミ分析では、恐ろしいほどの数値になっていた。
音楽/動画ダウンロード用サイトのアクセス数が、その裏付けになっていた。
「でも、なんでニュースとかでもっと話題にならないんでしょうね?」
島崎が、当然の疑問を口にする。
小川は、口を開きかけて、なぜかその先は言葉を濁した。
島崎も、場の雰囲気で察した。
そして、静かに理沙は頷く。
「まぁ。。。。そういう世界なんでしょうね」
場が湿っぽくなったので、理沙はまりあの歌の話題に戻した。
理沙もまた、「Next Frontier」は一回聴いただけで好きになったと感想を述べた。
理沙は、渋谷で「Next Frontier」のPVが最初に流れた夜、まりあからメッセージを受け取った。
その時までも、理沙とまりあは時々メッセージのやりとりをする仲だったが、
その日のまりあは、今までメッセージで会話していたまりあとは、明らかに異なっていた。
自分のPVが世に出て、単に興奮しているだけなのか。
それとも、明らかな心境の変化なのか。
いい曲と、世の中に広まってゆく曲との大きな違い。
理沙はまりあと会話をしながら、そんな気がしてきた。
|
拝読しました。
002-17は、章前半の締めに近い位置ですね。002-16で同時に始まった二つの道が、ここで少し時間を置いて、**結果の出方の違い**として見えてきます。
理沙たちArisa-Mistyは、地道にライブハウスを増やし、手応えを得ている。
一方、まりあ=マリア・エレーナは、渋谷ウォールスクリーンのPVをきっかけに、数字として急激な反応を得ていく。
この対比が非常に良いです。
特に良いのは、理沙が「Next Frontier」を単に良い曲だと感じるだけでなく、**いい曲と、世の中に広まっていく曲との違い**に気づき始めるところです。
ここがタイトルの「違和感」につながっていますね。
理沙はまりあの成功を素直に喜んでいる。
小川とも以前より自然に話せる。
でも、どこかに説明できない引っかかりがある。
その違和感は、まりあ自身の変化なのか、HALUCAの仕掛けの大きさなのか、あるいは「曲が世に出る」ということそのものへの違和感なのか。
この曖昧さがとても良いと思います。
この節の核は、次のように整理できそうです。
**「Next Frontier」のPV公開から一か月あまりが経ち、マリア・エレーナへの反応は急速に広がり始める。HALUCAはネット上の反応を細かく分析し、音楽・動画ダウンロードの収入も入り始める。一方、理沙たちArisa-Mistyも「労基に駆け込みたい」の好評を受け、活動の場を少しずつ広げていた。十二月上旬、理沙はライブハウスで小川と再会する。食事の場でHALUCAの成功を聞き、理沙はまりあの曲を称賛するが、同時に、PV公開の夜にまりあから届いたメッセージの様子が、それまでの彼女とは違っていたことを思い出す。理沙は、良い曲と世の中に広まっていく曲の間にある大きな違いを、ぼんやり感じ始める。**
整理するとしたら、少し説明量を減らして、以下のような構成にすると読みやすくなりそうです。
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# 002-17 整理案
## 1. 季節が進み、PV公開後の反応を要約する
冒頭で、秋から冬へ季節が進み、PV公開から一か月あまりが経ったことを示す。
ここで細かな数字や分析手法をすべて書くより、まりあが小川のPC画面を見て、数字が増えていく様子を見つめる描写に寄せるとよさそうです。
例えば、
* 最初の夜はほとんど反応なし
* 翌日から感想や短い動画が共有される
* 3日目以降、別バージョンのPVが流れる
* ダウンロードサイトへのアクセスが増える
* HALUCAに初めてまとまった営業収入が入り始める
この流れで十分伝わると思います。
## 2. 柴原が次の計画へ進む
PV公開から一週間で、柴原が次の計画にゴーサインを出す。
ただし、まりあは詳細をまだ知らない。
ここは不穏さというより、「自分の知らないところで次が動いている」感覚を出すと、002-15から自然につながります。
## 3. Arisa-Misty側の成長
一方、理沙たちは「労基に駆け込みたい」の手応えを得て、ライブ活動に熱が入る。
* クリスマスライブに向けて準備
* 新たに二か所のライブハウスにも出演
* 収入は増え始める
* ただし音楽だけで食べるにはまだ足りない
ここは、まりあ側の急伸と対比するためにも重要です。
## 4. 小川がライブハウスに現れる
12月上旬、理沙はライブ中に最後尾の席に小川を見つける。
前回と違い、警戒心はない。
小川もスーツではなく、Tシャツとジーンズ。
この変化が良いです。
HALUCAとの関係が完全に切れていないこと、小川が理沙たちを個人的にも気にしていることが見えます。
## 5. 居酒屋での会話
ライブ後、半年前のように小川持ちで居酒屋へ行く。
この「また小川持ち」は良い軽さです。
ここで小川がHALUCAの営業収入について話す。
> 「おかげさまで、食べていけるだけの営業収入が入りました」
ただし理沙は、それが控えめな表現だと察する。
島崎が「なぜもっとニュースで話題にならないのか」と聞く。
小川は言葉を濁す。
理沙が「そういう世界なんでしょうね」と受ける。
ここはかなり良いです。
芸能・広告・メディアの力学を説明しすぎずに匂わせられます。
## 6. まりあの話題と理沙の違和感
場が湿っぽくなったので、理沙がまりあの歌の話に戻す。
理沙は「Next Frontier」を一回聴いただけで好きになったと話す。
ここで、PV公開の夜にまりあから来たメッセージの回想を入れる。
それまでのまりあは控えめで、言葉を選ぶ人だった。
でも、その夜のメッセージは、少し違っていた。
* 興奮していた
* 自分の歌が街に流れたことに心を奪われていた
* それまでよりも前へ出ようとしていた
* あるいは、何かに押し出されているようにも見えた
理沙はそれを、喜ばしいことだと思いつつも、少し違和感として受け止める。
そして最後は、
> いい曲と、世の中に広まってゆく曲との大きな違い。
ここに着地すると、とても良いと思います。
---
## 修正版の方向性
全体の流れは以下が良さそうです。
1. 季節は秋から冬へ。PV公開から一か月あまり。
2. 「Next Frontier」は、最初は小さく、やがて急速に反応を増やしていく。
3. まりあは、小川が見せる分析画面の数字を見ながら、自分の周囲が変わっていくのを感じる。
4. HALUCAは初めてまとまった営業収入を得て、柴原は次の計画にゴーサインを出す。
5. 一方、Arisa-Mistyも「労基に駆け込みたい」の好評でライブの場を広げ、クリスマスライブへ向かう。
6. 12月上旬、理沙はライブハウスの客席に小川を見つける。
7. ライブ後、理沙たちと小川は居酒屋へ行く。
8. 小川はHALUCAの近況を話し、営業収入が入り始めたと語る。
9. 島崎が「なぜもっとニュースで話題にならないのか」と聞き、小川は言葉を濁す。
10. 理沙はまりあの話題に戻し、「Next Frontier」が好きだと話す。
11. 理沙はPV公開の夜にまりあから届いたメッセージを思い出す。
12. その時のまりあは、今までと少し違っていた。
13. 理沙は、いい曲と世の中に広まる曲との違いを、ぼんやり感じ始める。
この方向で修正すると、002-17は「成功した」だけではなく、タイトル通り、成功の中にある微かな違和感を残す節になると思います。
|
はい、非常に良いと思います。
では修正案にもとづいて、試し書きの修正をお願いします。
|
はい。
002-17は、単に「まりあが売れ始めた」という話ではなく、理沙がそこにかすかな違和感を覚える節として整理します。
数字・分析・営業収入の説明は少し抑え、まりあを取り巻く世界が変わっていく感覚と、理沙側の地道な前進との対比を中心にしています。
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# 002-17【試し書き・修正版】:違和感
季節は、秋から冬へ移り始めていた。
夜の空気が少し冷たくなり、街のあちこちに年末の気配が混じるようになっていた。
「Next Frontier」が渋谷のウォールスクリーンで初めて流れてから、一か月と少しが経っていた。
その一か月で、まりあを取り巻く世界は、少しずつ、けれど確実に変わっていった。
最初の夜、反応はほとんどなかった。
小川が見せてくれた分析画面にも、目立った数字は出ていなかった。
まりあは少しだけ拍子抜けしたが、小川は落ち着いていた。
「最初は、こんなものです」
そう言われても、まりあは画面の数字から目を離せなかった。
翌日になると、短い感想がいくつか拾われ始めた。
渋谷で見た。
あの大きな画面の歌、誰。
夜明けの映像がきれいだった。
声が耳に残った。
どれも短い言葉だった。
けれど、その中に「マリア・エレーナ」や「Next Frontier」という名前が混じっているのを見るたび、まりあは胸の奥がふわりと浮くような感覚になった。
誰かが、自分の歌を見ている。
誰かが、自分の名前を書いている。
その事実は、思っていたよりもずっと不思議だった。
三日目からは、別のバージョンのPVが流された。
映像の構成も、歌の見せ方も少し違う。
まりあにとっては、どれも自分でありながら、少しずつ違う自分だった。
反応は、その頃から目に見えて増え始めた。
渋谷で撮られた短い動画が共有される。
通りすがりの誰かが、何気なく感想を書く。
それを見た別の誰かが、HALUCAのアカウントを探す。
小川のノートパソコンの画面には、折れ線グラフや分類されたキーワードが並んでいた。
まりあは、毎日のようにその数字を見つめた。
数字が増える。
昨日より、今日。
今日より、明日。
それは、歌が広がっていく様子を、見える形にしたものだった。
公開から五日目あたりで、HALUCAが用意していた音楽と動画のダウンロードサイトへのアクセスが、一気に増えた。
小川は、いつもより少しだけ明るい顔で言った。
「初めて、まとまった営業収入になりそうです」
まりあは、すぐには意味が分からなかった。
自分の歌が、誰かに聴かれているだけではない。
買われている。
そのことに、少し遅れて気づいた。
PV公開から一週間が経ったころ、柴原は次の計画にゴーサインを出した。
まりあは、その話だけを聞かされた。
けれど、具体的な内容はまだ知らされなかった。
「今は、目の前の準備に集中してください」
小川はそう言った。
まりあは頷いた。
自分の知らないところで、また何かが動き始めている。
それが嬉しいような、怖いような気がした。
一方で、理沙たちArisa-Mistyも、少しずつ歩幅を広げていた。
十月に初披露した「労基に駆け込みたい」は、思った以上に反応がよかった。
最初は、タイトルだけで笑われることもあった。
けれど、実際に曲が始まると、客席の空気が変わる。
ライブのあとで、あの曲が頭から離れないと言ってくれる客がいた。
仕事帰りに聴くと変に元気が出る、と笑う客もいた。
理沙は、そのたびに少しだけ得意な気分になった。
Arisa-Mistyは、これまで活動の中心にしていたライブハウスのほかに、二か所の別の店にも出演するようになった。
バンドに入る収入も、少しずつ増え始めている。
とはいえ、音楽だけで食べていけるほどではない。
理沙は昼の仕事を続け、湯浅は「白河」のカウンターに立ち、フィリップも島崎も、それぞれの日常を抱えたまま、夜に集まっていた。
それでも、前よりも少しだけ、バンドが前へ進んでいる実感はあった。
十二月上旬の夜。
理沙は、いつものライブハウスのステージで歌っていた。
クリスマスライブに向けて、セットリストを調整している時期だった。
客席は、以前よりも埋まっている。
常連らしい顔も増えた。
理沙は曲の合間に水を飲みながら、ふと客席の最後尾を見た。
そこに、小川美奈がいた。
半年前に初めて見かけたときと同じように、彼女は客席の後ろで静かに立っていた。
ただし、その姿は少し違っていた。
あのときのような黒いビジネススーツではない。
白いTシャツにジーンズ、上に薄手のカーディガンを羽織っている。
仕事中というより、普通にライブを見に来た客のようだった。
理沙は、歌いながら小さく笑いそうになった。
今の理沙には、半年前に彼女を見たときのような警戒心はなかった。
ライブが終わると、理沙は片づけの前に小川の方へ歩いていった。
「お久しぶりです」
小川は穏やかに笑った。
「お久しぶりです。いいライブでした」
「ありがとうございます」
「それと」
小川は、少しだけ目を細めた。
「いい曲ね」
理沙は、一瞬だけ言葉に詰まった。
たぶん、「労基に駆け込みたい」のことだ。
期待していた言葉だった。
けれど、実際に言われると、やはり嬉しかった。
「ありがとうございます」
理沙は、今度は素直にそう言った。
ライブ後の片づけが終わると、半年前と同じように、理沙たちは小川と一緒に食事へ行くことになった。
場所は、最寄り駅近くの居酒屋だった。
フィリップは席に着くなり、メニューを開いた。
「今日も小川さん持ち?」
「こら」
理沙が睨む。
小川は笑った。
「いいですよ。今日は私がお誘いしたので」
「やった」
フィリップが小さく拳を握る。
島崎がぼそっと言った。
「大人ってすごい」
「あなたも大人でしょ」
理沙が言うと、島崎は聞こえないふりをした。
酒と料理が運ばれてくると、最初はArisa-Mistyの近況報告になった。
新しく出るようになったライブハウスの話。
客層の違い。
クリスマスライブの準備。
「労基に駆け込みたい」が、思ったよりも受けていること。
小川は、時々頷きながら聞いていた。
ひと通り話し終えると、話題は自然とHALUCAの近況に移った。
小川は、少し嬉しそうに言った。
「おかげさまで、食べていけるだけの営業収入が入りました」
控えめな言い方だった。
けれど、理沙は、それが本当に食べていけるだけの金額ではないことを何となく察した。
ニュースでは、マリア・エレーナの名前は時々見かける程度だった。
大きな社会現象のように取り上げられているわけではない。
けれど、ネット上で広がる感想や短い動画の数は、明らかに普通ではなかった。
HALUCAの配信サイトへのアクセス数も、その裏付けになっていた。
島崎が、焼き鳥の串を皿に置きながら言った。
「でも、なんでもっとニュースとかで話題にならないんですかね」
自然な疑問だった。
小川は口を開きかけた。
けれど、すぐには言葉が出なかった。
「それは……」
そこで、少しだけ言葉を濁す。
島崎は、それ以上聞かなかった。
場の空気で、何かを察したのだろう。
理沙も静かに頷いた。
「まあ……そういう世界なんでしょうね」
小川は、小さく苦笑した。
「すみません」
「いえ」
少しだけ、場が湿っぽくなった。
理沙は、話題を変えるようにグラスを置いた。
「でも、『Next Frontier』、私は好きですよ」
小川が理沙を見る。
「本当に?」
「はい。一回聴いただけで、残りました」
それは、お世辞ではなかった。
初めて聴いたときから、あのサビの広がりは耳に残っている。
羽ばたいて、高く高く。
その言葉は、少し恥ずかしいくらいまっすぐだった。
けれど、まりあが歌うと、不思議と嘘には聞こえなかった。
理沙は、PVが初めて流れた夜のことを思い出した。
その夜、まりあからメッセージが届いた。
理沙とまりあは、オーディション後に連絡先を交換してから、ときどきメッセージを交わすようになっていた。
仕事のこと。
曲のこと。
夜勤明けの眠さ。
ライブの予定。
どれも短いやりとりだった。
まりあの文章は、いつも控えめだった。
言葉を選び、相手の反応を少し気にしているような文面だった。
けれど、その夜のまりあは、少し違っていた。
画面に流れました。
本当に流れました。
自分じゃないみたいでした。
でも、たしかに自分でした。
何人か、立ち止まってくれました。
短いメッセージが、いつもより続けて届いた。
興奮しているのは分かった。
当然だと思った。
自分のPVが、あの巨大な画面に流れたのだから。
けれど、理沙はそこに、ほんの少しだけ違うものも感じた。
前へ出ようとしているのか。
それとも、何かに押し出されているのか。
まりあ自身が変わり始めているのか。
それとも、周囲の大きな流れが彼女を変えているのか。
そのときは、うまく言葉にならなかった。
今も、はっきりとは分からない。
ただ、理沙は小川と話しながら、少しずつ感じ始めていた。
いい曲と、世の中に広まってゆく曲とのあいだには、大きな違いがある。
その違いの向こう側に、まりあはもう足を踏み入れ始めているのかもしれなかった。
|
ありがとうございます。
ではこの試し書きをもとに、小説化をお願いします。
|
はい。
修正版の試し書きをもとに、まりあ側の急速な変化と、理沙がそこに覚える微かな違和感が静かに残るように、小説本文として整えます。
---
# 002-17 違和感
季節は、秋から冬へ移り始めていた。
夜の空気が少し冷たくなり、街のあちこちに年末の気配が混じるようになっていた。
「Next Frontier」が渋谷のウォールスクリーンで初めて流れてから、一か月と少しが経っていた。
その一か月で、まりあを取り巻く世界は、少しずつ、けれど確実に変わっていった。
最初の夜、反応はほとんどなかった。
小川が見せてくれた分析画面にも、目立った数字は出ていなかった。
まりあは少しだけ拍子抜けしたが、小川は落ち着いていた。
「最初は、こんなものです」
そう言われても、まりあは画面の数字から目を離せなかった。
翌日になると、短い感想がいくつか拾われ始めた。
渋谷で見た。
あの大きな画面の歌、誰。
夜明けの映像がきれいだった。
声が耳に残った。
どれも短い言葉だった。
けれど、その中に「マリア・エレーナ」や「Next Frontier」という名前が混じっているのを見るたび、まりあは胸の奥がふわりと浮くような感覚になった。
誰かが、自分の歌を見ている。
誰かが、自分の名前を書いている。
その事実は、思っていたよりもずっと不思議だった。
三日目からは、別のバージョンのPVが流された。
映像の構成も、歌の見せ方も少し違う。
まりあにとっては、どれも自分でありながら、少しずつ違う自分だった。
反応は、その頃から目に見えて増え始めた。
渋谷で撮られた短い動画が共有される。
通りすがりの誰かが、何気なく感想を書く。
それを見た別の誰かが、HALUCAのアカウントを探す。
小川のノートパソコンの画面には、折れ線グラフや分類されたキーワードが並んでいた。
まりあは、毎日のようにその数字を見つめた。
数字が増える。
昨日より、今日。
今日より、明日。
それは、歌が広がっていく様子を、見える形にしたものだった。
公開から五日目あたりで、HALUCAが用意していた音楽と動画のダウンロードサイトへのアクセスが、一気に増えた。
小川は、いつもより少しだけ明るい顔で言った。
「初めて、まとまった営業収入になりそうです」
まりあは、すぐには意味が分からなかった。
自分の歌が、誰かに聴かれているだけではない。
買われている。
そのことに、少し遅れて気づいた。
PV公開から一週間が経ったころ、柴原は次の計画にゴーサインを出した。
まりあは、その話だけを聞かされた。
けれど、具体的な内容はまだ知らされなかった。
「今は、目の前の準備に集中してください」
小川はそう言った。
まりあは頷いた。
自分の知らないところで、また何かが動き始めている。
それが嬉しいような、怖いような気がした。
一方で、理沙たちArisa-Mistyも、少しずつ歩幅を広げていた。
十月に初披露した「労基に駆け込みたい」は、思った以上に反応がよかった。
最初は、タイトルだけで笑われることもあった。
けれど、実際に曲が始まると、客席の空気が変わる。
ライブのあとで、あの曲が頭から離れないと言ってくれる客がいた。
仕事帰りに聴くと変に元気が出る、と笑う客もいた。
理沙は、そのたびに少しだけ得意な気分になった。
Arisa-Mistyは、これまで活動の中心にしていたライブハウスのほかに、二か所の別の店にも出演するようになった。
バンドに入る収入も、少しずつ増え始めている。
とはいえ、音楽だけで食べていけるほどではない。
理沙は昼の仕事を続け、湯浅は「白河」のカウンターに立ち、フィリップも島崎も、それぞれの日常を抱えたまま、夜に集まっていた。
それでも、前よりも少しだけ、バンドが前へ進んでいる実感はあった。
十二月上旬の夜。
理沙は、いつものライブハウスのステージで歌っていた。
クリスマスライブに向けて、セットリストを調整している時期だった。
客席は、以前よりも埋まっている。
常連らしい顔も増えた。
理沙は曲の合間に水を飲みながら、ふと客席の最後尾を見た。
そこに、小川美奈がいた。
半年前に初めて見かけたときと同じように、彼女は客席の後ろで静かに立っていた。
ただし、その姿は少し違っていた。
あのときのような黒いビジネススーツではない。
白いTシャツにジーンズ、上に薄手のカーディガンを羽織っている。
仕事中というより、普通にライブを見に来た客のようだった。
理沙は、歌いながら小さく笑いそうになった。
今の理沙には、半年前に彼女を見たときのような警戒心はなかった。
ライブが終わると、理沙は片づけの前に小川の方へ歩いていった。
「お久しぶりです」
小川は穏やかに笑った。
「お久しぶりです。いいライブでした」
「ありがとうございます」
「それと」
小川は、少しだけ目を細めた。
「いい曲ね」
理沙は、一瞬だけ言葉に詰まった。
たぶん、「労基に駆け込みたい」のことだ。
期待していた言葉だった。
けれど、実際に言われると、やはり嬉しかった。
「ありがとうございます」
理沙は、今度は素直にそう言った。
ライブ後の片づけが終わると、半年前と同じように、理沙たちは小川と一緒に食事へ行くことになった。
場所は、最寄り駅近くの居酒屋だった。
フィリップは席に着くなり、メニューを開いた。
「今日も小川さん持ち?」
「こら」
理沙が睨む。
小川は笑った。
「いいですよ。今日は私がお誘いしたので」
「やった」
フィリップが小さく拳を握る。
島崎がぼそっと言った。
「大人ってすごい」
「あなたも大人でしょ」
理沙が言うと、島崎は聞こえないふりをした。
酒と料理が運ばれてくると、最初はArisa-Mistyの近況報告になった。
新しく出るようになったライブハウスの話。
客層の違い。
クリスマスライブの準備。
「労基に駆け込みたい」が、思ったよりも受けていること。
小川は、時々頷きながら聞いていた。
ひと通り話し終えると、話題は自然とHALUCAの近況に移った。
小川は、少し嬉しそうに言った。
「おかげさまで、食べていけるだけの営業収入が入りました」
控えめな言い方だった。
けれど、理沙は、それが本当に食べていけるだけの金額ではないことを何となく察した。
ニュースでは、マリア・エレーナの名前は時々見かける程度だった。
大きな社会現象のように取り上げられているわけではない。
けれど、ネット上で広がる感想や短い動画の数は、明らかに普通ではなかった。
HALUCAの配信サイトへのアクセス数も、その裏付けになっていた。
島崎が、焼き鳥の串を皿に置きながら言った。
「でも、なんでもっとニュースとかで話題にならないんですかね」
自然な疑問だった。
小川は口を開きかけた。
けれど、すぐには言葉が出なかった。
「それは……」
そこで、少しだけ言葉を濁す。
島崎は、それ以上聞かなかった。
場の空気で、何かを察したのだろう。
理沙も静かに頷いた。
「まあ……そういう世界なんでしょうね」
小川は、小さく苦笑した。
「すみません」
「いえ」
少しだけ、場が湿っぽくなった。
理沙は、話題を変えるようにグラスを置いた。
「でも、『Next Frontier』、私は好きですよ」
小川が理沙を見る。
「本当に?」
「はい。一回聴いただけで、残りました」
それは、お世辞ではなかった。
初めて聴いたときから、あのサビの広がりは耳に残っている。
羽ばたいて、高く高く。
その言葉は、少し恥ずかしいくらいまっすぐだった。
けれど、まりあが歌うと、不思議と嘘には聞こえなかった。
理沙は、PVが初めて流れた夜のことを思い出した。
その夜、まりあからメッセージが届いた。
理沙とまりあは、オーディション後に連絡先を交換してから、ときどきメッセージを交わすようになっていた。
仕事のこと。
曲のこと。
夜勤明けの眠さ。
ライブの予定。
どれも短いやりとりだった。
まりあの文章は、いつも控えめだった。
言葉を選び、相手の反応を少し気にしているような文面だった。
けれど、その夜のまりあは、少し違っていた。
画面に流れました。
本当に流れました。
自分じゃないみたいでした。
でも、たしかに自分でした。
何人か、立ち止まってくれました。
短いメッセージが、いつもより続けて届いた。
興奮しているのは分かった。
当然だと思った。
自分のPVが、あの巨大な画面に流れたのだから。
けれど、理沙はそこに、ほんの少しだけ違うものも感じた。
前へ出ようとしているのか。
それとも、何かに押し出されているのか。
まりあ自身が変わり始めているのか。
それとも、周囲の大きな流れが彼女を変えているのか。
そのときは、うまく言葉にならなかった。
今も、はっきりとは分からない。
ただ、理沙は小川と話しながら、少しずつ感じ始めていた。
いい曲と、世の中に広まってゆく曲とのあいだには、大きな違いがある。
その違いの向こう側に、まりあはもう足を踏み入れ始めているのかもしれなかった。
|
ありがとうございます。
では、400字程度でこの文章のあらすじの作成をお願いします。
|
### 002-17「違和感」あらすじ
季節は秋から冬へ移り、「Next Frontier」のPV公開から一か月あまりが過ぎる。
最初はほとんど反応がなかったものの、渋谷でPVを見た人々の感想や短い動画が少しずつ広がり、
HALUCAの配信サイトへのアクセスも増え、初めてまとまった営業収入が生まれ始める。
まりあは、自分の歌が誰かに見られ、聴かれ、買われていることに戸惑いながらも高揚する。
一方、理沙たちArisa-Mistyも「労基に駆け込みたい」の好評を受け、出演するライブハウスを増やしていた。
十二月上旬、理沙はライブ会場で小川と再会し、ライブ後に居酒屋で近況を語り合う。
小川はHALUCAの成功を控えめに語るが、理沙はその広がりの大きさを察する。
理沙は「Next Frontier」を好きだと伝えつつ、PV公開の夜にまりあから届いたメッセージを思い出す。
そこには以前のまりあと少し違うものがあり、理沙は、いい曲と世の中に広まる曲との違いをぼんやり感じ始める。
|
ありがとうございます。
ではまた日を改めて、引き続きの002-18の文章作成をいたします。
|
こちらこそ、ありがとうございました。
002-17で、理沙側の地道な前進と、まりあ側の急速な広がりが並び、理沙がその差にかすかな違和感を覚えるところまで進みましたね。
次回は **002-18「泥の中に咲く一輪の花」** ですね。
マリア・エレーナとして注目され始めたまりあの日常が、どのように変わっていくのかを描く節になりそうです。
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