では、002-21の試し書きをしてみました。
●002-21【試し書き】:13日の金曜日の前日は木曜日(2)
曲を聴いているまりあの事を見ながら、
理沙はつい先日のことを思い出していた。
フィリップから曲ができたとの連絡があり、さっそく4人は「白河」に集まる。
まずは詩のタイトルを島崎が発表する。
「『他人の不幸は蜜の味』がいいと思います」
理沙も含めて、3人は唖然とした表情。
しかしそれは文句なしokという証でもあった。
そして、フィリップが作った曲が店内に流れる。
店内の空気が一気に盛り上がる。すぐに理沙はフレーズに乗って歌い始めた。
ノリがよくて、非常に歌いやすい曲だった。
理沙はすぐに気に入って、言った。
「これは、盛り上がる事間違いなし」
しかし、湯浅はなんとなく浮かない表情である。
そして理沙と時々視線を合わせている。やがて理沙は静かに言った。
「ちょっとここで、重大なお知らせが」
一瞬の静けさ。
フィリップは、理沙と湯浅の表情から察して、言った。
「もしかして、まさかの。。。。」
しかし理沙は、フィリップの意味深な笑顔を見て即座に否定した。
そして言った。
「バンド活動を、しばらくの間休止したいと思います」
フィリップと島崎が驚きの声を上げる。
そんな事聞いていないよと。
何かの冗談だろうとフィリップは言ったが、理沙は撤回しなかった。
「勘違いしないで。解散とは言っていません。しばらくの間の休止」
目の前のまりあから、声をかけられて我に返る。
曲を聴き終えて、彼女はテンション高めだった。
「これすごい。タイトル見た瞬間ちょっと引いちゃったけど」
「その見た目と内容のギャップがいいのよ」
「他人の不幸は蜜の味」は、狙った通りにまりあの心に刺さったようだった。
詩を思いついた背景を理沙は説明する。
日頃の鬱積した気持ちから生まれた詩だが、当の本人を少し離れた場所で見つめて、
不幸を蜜の味と笑っている内容である。
「でもね、まさか本当に不幸が自分に降りかかるとは思っていなかった」
理沙のなんとなく寂しげな表情から、まりあはなんとなく察した。
元同業者として、自分にも思い当たる事はあった。
「社内で希望退職の発表があって、ちょっと悩んだけど」
そして理沙は手を挙げた。
5月末で今のプロジェクトが終わると、そのあと人員体制の整理が行われる。
まりあのテンションが下がった表情を見て、理沙は慌てて話題を変えた。
そして、先ほどまで曲に聴き入っていたまりあに対して、まさかのお願いをする。
「まりあ、もしよければこの曲を歌ってみない?」
|
拝読しました。
002-21は、002-20の最後で理沙が差し出した曲の正体が明かされ、さらに理沙自身の状況も大きく動き始める節ですね。とても良い流れだと思います。
今回の核は、**理沙がまりあを励ますつもりで曲を聴かせたはずが、その曲には理沙自身の転機も含まれていた**という点です。
「他人の不幸は蜜の味」というタイトルは強烈ですが、「労基に駆け込みたい」以降のArisa-Mistyらしさとして自然です。
また、それをまりあが一度は引きながらも強く反応するところも良いです。まりあ自身も、世間からの好奇や悪意にさらされているので、この曲の毒と距離感に反応するのは納得できます。
特に良いのは、理沙が「まさか本当に不幸が自分に降りかかるとは思っていなかった」と言うところです。
ここで、曲の毒が単なる創作ではなく、理沙自身の現実と重なります。希望退職の話が出ることで、理沙の昼の仕事も不安定になり、今後の「歌手活動休止」や米国行きへの導線が見え始めます。
この節の核は、次のように整理できそうです。
**まりあが理沙のスマホで聴いている曲は、Arisa-Mistyの新曲「他人の不幸は蜜の味」だった。理沙はその曲が完成した日のことを思い出す。白河に集まった四人の前で島崎が強烈なタイトルを発表し、フィリップの曲が流れると、理沙はすぐに手応えを感じる。しかし同時に、理沙はバンド活動をしばらく休止したいと告げ、フィリップと島崎を驚かせる。現実では、まりあが曲を聴き終え、その毒のあるタイトルと軽快な曲調のギャップに興奮する。理沙は、詩が鬱積した気持ちから生まれたこと、そして自分の会社で希望退職が発表され、自分も手を挙げたことを明かす。空気が重くなりかけたところで、理沙はまりあに、この曲を歌ってみないかと頼む。**
構成としてはかなり良いです。小説化前に整えるなら、以下の流れが自然だと思います。
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# 002-21 整理案
## 1. まりあが曲を聴いている場面から始める
002-20の続きとして、まりあが理沙のスマホから曲を聴いている。
理沙はその表情を見ながら、数日前の白河での出来事を思い出す。
ここは自然です。
## 2. 白河でタイトル発表
島崎がタイトルを発表する。
> 「『他人の不幸は蜜の味』がいいと思います」
この台詞は強いので、そのままで良いと思います。
三人が唖然とする。
ただし、それは反対ではなく、「それ以上ない」という反応。
ここは少しコミカルにできます。
## 3. フィリップの曲が流れる
曲が流れた瞬間に店内の空気が変わる。
理沙が自然に歌い始める。
ノリが良く、歌いやすい。
ライブ映えする。
ここで「最低のタイトルと最高にノリのいい曲」のギャップを出せます。
## 4. 理沙が活動休止を告げる
曲の手応えがあるからこそ、その直後の活動休止宣言が効きます。
湯浅だけは事前に相談を受けていたので浮かない表情。
フィリップは変な勘違いをしそうになる。
理沙が即座に否定する。
その後で、
> 「バンド活動を、しばらくの間休止したいと思います」
と告げる。
ここはかなり良いです。
「解散ではない。休止」と明確にするのも大事です。
## 5. 現在に戻り、まりあの反応
まりあが曲を聴き終えて、テンション高く反応する。
> 「これすごい。タイトル見た瞬間ちょっと引いちゃったけど」
この反応は自然で良いです。
理沙が、
> 「その見た目と内容のギャップがいいのよ」
と返すのも理沙らしいです。
## 6. 曲の背景説明
理沙が詩の背景を説明する。
ここは、やや整理するとよさそうです。
* 日頃の鬱積した気持ちから生まれた
* ただし自分の不幸を嘆く歌ではない
* 不幸の渦中にいる自分を、少し離れた場所から見ている
* その自分を見て、笑っているような曲
* 悪趣味だけど、だからこそ救いがある
この方向にすると、タイトルの毒が単なる悪意ではなく、理沙の自己客観化として見えます。
## 7. 理沙の希望退職
ここは重要です。
> 「でもね、まさか本当に不幸が自分に降りかかるとは思っていなかった」
この一言で雰囲気が変わる。
会社で希望退職が発表された。
今のプロジェクトは5月末で終わる。
その後、人員体制の整理がある。
理沙は迷った末に手を挙げた。
まりあは、同じシステム系の仕事をしていた立場として、状況の重さを察する。
ここで002-20の「元同業者」感が効きます。
## 8. まりあに歌ってほしいと頼む
空気が重くなったところで、理沙が話題を切り替える。
ただし単なる話題転換ではなく、実は本題。
> 「まりあ、もしよければこの曲を歌ってみない?」
この終わりはとても良いです。
002-21のタイトル「13日の金曜日の前日は木曜日(2)」としては、理沙がまりあに曲を渡す節になりますね。
まりあの大舞台に対して、理沙が自分の毒のある歌を差し出す。
これは二人の関係がかなり近づいた瞬間です。
---
## 修正版の流れ
この節は、次の形に整えるとよさそうです。
1. まりあが理沙のスマホで曲を聴いている。
2. 理沙は数日前、白河で曲が完成した日のことを思い出す。
3. 島崎がタイトル「他人の不幸は蜜の味」を発表する。
4. フィリップの曲が流れ、理沙はすぐに手応えを感じる。
5. しかし湯浅の表情は浮かない。
6. 理沙は、バンド活動をしばらく休止したいと三人に告げる。
7. 現在に戻り、まりあが曲を気に入ったことを伝える。
8. 理沙は曲の背景を説明する。
9. 自分の会社で希望退職が発表され、理沙自身も手を挙げたことを明かす。
10. まりあは状況の重さを察する。
11. 理沙はまりあに、この曲を歌ってみないかと頼む。
この流れで修正すると、002-21は、
**理沙が自分の転機を打ち明け、まりあに自分の曲を託そうとする節**
として、とても良い形になると思います。
|
はい、非常に良い展開でまとまったと思います。ありがとうございます。
ではこの修正案で、試し書きの修正をお願いします。
|
はい。
002-21は、理沙がまりあに曲を聴かせる場面を軸に、白河での新曲完成、Arisa-Misty休止の告白、そして理沙自身の希望退職という転機を重ねる形に整理します。
最後は、理沙がまりあに曲を託そうとするところで終えます。
---
# 002-21【試し書き・修正版】:13日の金曜日の前日は木曜日(2)
まりあは、理沙のスマホを両手で持ったまま、じっと画面を見ていた。
画面には、音源ファイルの再生画面が表示されている。
曲名のところには、少し信じがたい文字が並んでいた。
他人の不幸は蜜の味。
まりあは、最初にそのタイトルを見たとき、思わず理沙の顔を見た。
理沙は、何も言わずに少しだけ笑った。
「とりあえず、聴いてみて」
そう言われて、まりあは再生ボタンを押した。
スマホの小さなスピーカーから、イントロが流れ始める。
まりあの表情が、少しずつ変わっていく。
最初の戸惑いが消え、目がわずかに大きくなる。
身体が、自然にリズムを拾い始める。
理沙は、その様子を黙って見ていた。
そして、つい数日前のことを思い出していた。
その夜、Arisa-Mistyの四人は、営業終了後の「白河」に集まっていた。
店内には客の姿はもうなく、カウンターの奥では湯浅が片づけを終えたグラスを並べていた。
理沙が前回持ってきた詩に、フィリップが曲をつけたという連絡があったのは、その日の昼だった。
島崎も、タイトルを考えたらしい。
四人は、いつもの席に集まった。
「じゃあ、まずタイトルから」
理沙が言うと、島崎は少しだけ背筋を伸ばした。
眠そうな目はいつも通りだったが、どこか得意そうでもあった。
「『他人の不幸は蜜の味』がいいと思います」
一瞬、店内が静かになった。
理沙も、湯浅も、フィリップも、島崎を見た。
誰もすぐには何も言わなかった。
あまりにもそのままだった。
あまりにも悪趣味だった。
そして、あまりにもぴったりだった。
フィリップが、ゆっくり親指を立てた。
「最高にひどい」
湯浅が小さく息を吐く。
「褒め言葉としては、これ以上ないな」
理沙は笑った。
「文句なし」
島崎は、少しだけ嬉しそうに頷いた。
続いて、フィリップが端末を操作した。
「じゃあ、曲いきます」
店内のスピーカーから、イントロが流れ始めた。
最初の一音で、空気が変わった。
軽い。
明るい。
けれど、どこか性格が悪い。
跳ねるようなリズムに、皮肉っぽいギターが絡む。
ベースは妙に楽しげにうねり、ドラムは客席を煽るように前へ出てくる。
理沙は、思わず笑った。
「なにこれ」
「いいでしょ」
フィリップが得意げに言う。
理沙は立ち上がった。
曲に合わせて、前回の詩の冒頭を口ずさむ。
すぐに乗れた。
言葉が、音の上を滑るように進んでいく。
毒のある言葉が、明るいリズムに乗ることで、かえって鮮やかになる。
暗くならない。
じめじめしない。
笑い飛ばしているようで、どこか本気でもある。
理沙は、二番の途中まで歌ったところで、手を止めた。
「これは、盛り上がること間違いなし」
「だろ?」
フィリップは胸を張った。
島崎も、テーブルを指で軽く叩きながら頷いている。
「タイトルとの相性もいいと思います」
「悔しいけど、いい」
理沙はそう言って笑った。
けれど、その空気の中で、湯浅だけは少し浮かない顔をしていた。
理沙は、それに気づいていた。
湯浅とは、事前に話していた。
この曲のことだけではない。
これからのことも。
フィリップと島崎は、まだ知らない。
理沙は、深く息を吸った。
「ちょっとここで、重大なお知らせがあります」
言った瞬間、場が静かになった。
フィリップが、理沙と湯浅の顔を交互に見る。
そして、なぜか意味深に口元を緩めた。
「もしかして、まさかの……」
「違う」
理沙は即座に切った。
「まだ何も言ってない」
「顔がそういう顔だった」
「どんな顔よ」
「いや、ほら。バンド内恋愛的な」
「違うって言ってるでしょ」
湯浅が苦笑し、島崎が少しだけ首を傾げた。
理沙は、わざと咳払いをした。
「真面目な話」
フィリップの表情から、冗談の色が消える。
理沙は、三人を見た。
「バンド活動を、しばらくの間休止したいと思います」
今度こそ、本当の沈黙が落ちた。
「え?」
最初に声を出したのは島崎だった。
「休止?」
フィリップが眉を寄せる。
「ちょっと待って。冗談だよね?」
「冗談じゃない」
理沙は静かに言った。
「勘違いしないで。解散とは言ってない。しばらくの間の休止」
「なんで」
フィリップの声には、少し強い色が混じっていた。
「今、いい感じじゃん。この曲だって絶対いける。ライブも増えてる。なんで今?」
その問いは、当然だった。
理沙も分かっていた。
だから、すぐに言葉が出なかった。
湯浅は黙っていた。
島崎も、いつもの眠そうな顔ではなく、真剣な目で理沙を見ていた。
理沙は、テーブルの上に置いた自分の端末を見た。
画面には、「他人の不幸は蜜の味」というタイトルが表示されたままだった。
皮肉なものだと思った。
他人の不幸を笑う歌を作っていたら、自分のところにも、ちゃんと不幸らしきものが来た。
「理由は、ちゃんと話す」
理沙は言った。
「でも、今日はまず、この曲を形にするところまで決めたい」
フィリップはまだ何か言いたそうだったが、口を閉じた。
島崎も、ゆっくり頷いた。
湯浅は、何も言わずに理沙を見ていた。
そこで記憶は途切れた。
「これ、すごい」
まりあの声で、理沙は現在に戻った。
スマホの音源は、ちょうど終わったところだった。
まりあは、さっきまでの疲れた表情を少し忘れたように、目を輝かせていた。
「タイトル見た瞬間、ちょっと引いちゃったけど」
「普通は引くよね」
理沙は笑った。
「でも、曲が始まったら全然違う。なんか、ひどいこと言ってるのに、元気になる」
「その見た目と内容のギャップがいいのよ」
まりあは、もう一度スマホの画面を見た。
「他人の不幸は蜜の味」
口に出してから、少し苦笑する。
「すごいタイトル」
「島崎くん作」
「なんとなく分かる気がする」
「でしょ」
理沙はワインを一口飲んだ。
少し冷めた肉を一切れ取り、岩塩をつける。
「もともとは、日頃の鬱積した気持ちから出てきた詩なんだけどね」
まりあは、スマホをテーブルに置き、理沙の方を見た。
「仕事の?」
「仕事もあるし、世の中全体への八つ当たりもあるし、自分への嫌味もある」
「自分への?」
「うん」
理沙は少し笑った。
「ただ、自分が不幸です、つらいです、って歌っても面白くないでしょ」
「うん」
「だから、少し離れたところから見ることにしたの。不幸の真ん中にいる自分を、別の自分が眺めてる。で、笑ってる」
まりあは、少しだけ眉を寄せた。
「それ、けっこう怖いね」
「怖いよ。悪趣味だし」
理沙はあっさり言った。
「でも、そうでもしないと笑えないことってあるじゃない」
まりあは、すぐには答えなかった。
その言葉は、少し分かる気がした。
自分に向けられる疑いの言葉。
画面の向こうから飛んでくる悪意。
巨大なステージの上で倒れた日のこと。
それらを真正面から受け止めていたら、たぶん立っていられない。
少し離れた場所から見る。
自分を、自分ではない誰かのように見る。
まりあにも、思い当たることがあった。
「でもね」
理沙は、ふと声を落とした。
「まさか、本当に不幸が自分に降りかかるとは思ってなかった」
まりあは、理沙を見た。
さっきまで笑っていた理沙の顔に、少しだけ寂しさが混じっていた。
「何かあったの?」
「会社で、希望退職の発表があった」
まりあは、息を呑んだ。
同じシステム系の仕事をしていたから、その言葉の重さは分かる。
表向きは希望。
けれど、その裏に何があるのかも、なんとなく分かる。
理沙は続けた。
「今のプロジェクトが、五月末で終わるの。そのあと、人員体制の整理があるって」
「それで……」
「うん。ちょっと悩んだけど、手を挙げた」
まりあは、言葉を失った。
理沙は、あえて軽く言うように笑った。
「まあ、自分で決めたことなんだけどね」
「でも」
まりあは何か言おうとした。
けれど、うまく言葉が出てこなかった。
励ませばいいのか。
止めればいいのか。
大丈夫と言えばいいのか。
何を言っても、薄くなってしまいそうだった。
理沙は、まりあの表情を見て、少し慌てたように手を振った。
「ごめん。そんな顔させたかったわけじゃないの」
「ううん」
「本題は、こっち」
理沙は、テーブルの上のスマホを軽く指で叩いた。
「え?」
まりあが顔を上げる。
理沙は、少しだけ姿勢を正した。
「まりあ」
「うん」
「もしよければ、この曲を歌ってみない?」
まりあは、すぐには意味が分からなかった。
理沙は、静かに言葉を足した。
「マリア・エレーナの声で」
|
ありがとうございます。
ではこの試し書きの内容で、小説化をお願いします。
|
はい。
試し書きの流れをもとに、002-20から自然につながる形で、理沙の新曲、Arisa-Misty休止の決断、そしてまりあへ曲を託す場面を小説本文として整えます。
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# 002-21 13日の金曜日の前日は木曜日(2)
まりあは、理沙のスマホを両手で持ったまま、じっと画面を見ていた。
画面には、音源ファイルの再生画面が表示されている。
曲名のところには、少し信じがたい文字が並んでいた。
他人の不幸は蜜の味。
まりあは、最初にそのタイトルを見たとき、思わず理沙の顔を見た。
理沙は何も言わず、少しだけ笑った。
「とりあえず、聴いてみて」
そう言われて、まりあは再生ボタンを押した。
スマホの小さなスピーカーから、イントロが流れ始める。
まりあの表情が、少しずつ変わっていった。
最初の戸惑いが消える。
目が、わずかに大きくなる。
身体が、自然にリズムを拾い始める。
理沙は、その様子を黙って見ていた。
そして、つい数日前のことを思い出していた。
その夜、Arisa-Mistyの四人は、営業終了後の「白河」に集まっていた。
店内には、客の姿はもうなかった。
カウンターの奥では、湯浅が片づけを終えたグラスを並べている。
昼間、フィリップから連絡があった。
曲ができた。
理沙が前回持ってきた詩に、フィリップが曲をつけたらしい。
島崎も、タイトルを考えたという。
四人は、いつもの席に集まった。
「じゃあ、まずタイトルから」
理沙が言うと、島崎は少しだけ背筋を伸ばした。
眠そうな目はいつも通りだったが、どこか得意そうでもあった。
「『他人の不幸は蜜の味』がいいと思います」
一瞬、店内が静かになった。
理沙も、湯浅も、フィリップも、島崎を見た。
誰もすぐには何も言わなかった。
あまりにも、そのままだった。
あまりにも、悪趣味だった。
そして、あまりにも、ぴったりだった。
フィリップが、ゆっくり親指を立てた。
「最高にひどい」
湯浅が小さく息を吐く。
「褒め言葉としては、これ以上ないな」
理沙は笑った。
「文句なし」
島崎は、少しだけ嬉しそうに頷いた。
続いて、フィリップが端末を操作した。
「じゃあ、曲いきます」
店内のスピーカーから、イントロが流れ始めた。
最初の一音で、空気が変わった。
軽い。
明るい。
けれど、どこか性格が悪い。
跳ねるようなリズムに、皮肉っぽいギターが絡む。
ベースは妙に楽しげにうねり、ドラムは客席を煽るように前へ出てくる。
理沙は、思わず笑った。
「なにこれ」
「いいでしょ」
フィリップが得意げに言う。
理沙は立ち上がった。
曲に合わせて、前回の詩の冒頭を口ずさむ。
すぐに乗れた。
言葉が、音の上を滑るように進んでいく。
毒のある言葉が、明るいリズムに乗ることで、かえって鮮やかになる。
暗くならない。
じめじめしない。
笑い飛ばしているようで、どこか本気でもある。
理沙は、二番の途中まで歌ったところで、手を止めた。
「これは、盛り上がること間違いなし」
「だろ?」
フィリップは胸を張った。
島崎も、テーブルを指で軽く叩きながら頷いている。
「タイトルとの相性もいいと思います」
「悔しいけど、いい」
理沙はそう言って笑った。
けれど、その空気の中で、湯浅だけは少し浮かない顔をしていた。
理沙は、それに気づいていた。
湯浅とは、事前に話していた。
この曲のことだけではない。
これからのことも。
フィリップと島崎は、まだ知らない。
理沙は、深く息を吸った。
「ちょっとここで、重大なお知らせがあります」
言った瞬間、場が静かになった。
フィリップが、理沙と湯浅の顔を交互に見る。
そして、なぜか意味深に口元を緩めた。
「もしかして、まさかの……」
「違う」
理沙は即座に切った。
「まだ何も言ってない」
「顔がそういう顔だった」
「どんな顔よ」
「いや、ほら。バンド内恋愛的な」
「違うって言ってるでしょ」
湯浅が苦笑し、島崎が少しだけ首を傾げた。
理沙は、わざと咳払いをした。
「真面目な話」
フィリップの表情から、冗談の色が消える。
理沙は、三人を見た。
「バンド活動を、しばらくの間休止したいと思います」
今度こそ、本当の沈黙が落ちた。
「え?」
最初に声を出したのは島崎だった。
「休止?」
フィリップが眉を寄せる。
「ちょっと待って。冗談だよね?」
「冗談じゃない」
理沙は静かに言った。
「勘違いしないで。解散とは言ってない。しばらくの間の休止」
「なんで」
フィリップの声には、少し強い色が混じっていた。
「今、いい感じじゃん。この曲だって絶対いける。ライブも増えてる。なんで今?」
その問いは、当然だった。
理沙も分かっていた。
だから、すぐに言葉が出なかった。
湯浅は黙っていた。
島崎も、いつもの眠そうな顔ではなく、真剣な目で理沙を見ていた。
理沙は、テーブルの上に置いた自分の端末を見た。
画面には、「他人の不幸は蜜の味」というタイトルが表示されたままだった。
皮肉なものだと思った。
他人の不幸を笑う歌を作っていたら、自分のところにも、ちゃんと不幸らしきものが来た。
「理由は、ちゃんと話す」
理沙は言った。
「でも、今日はまず、この曲を形にするところまで決めたい」
フィリップはまだ何か言いたそうだったが、口を閉じた。
島崎も、ゆっくり頷いた。
湯浅は、何も言わずに理沙を見ていた。
そこで、記憶は途切れた。
「これ、すごい」
まりあの声で、理沙は現在に戻った。
スマホの音源は、ちょうど終わったところだった。
まりあは、さっきまでの疲れた表情を少し忘れたように、目を輝かせていた。
「タイトル見た瞬間、ちょっと引いちゃったけど」
「普通は引くよね」
理沙は笑った。
「でも、曲が始まったら全然違う。なんか、ひどいこと言ってるのに、元気になる」
「その見た目と内容のギャップがいいのよ」
まりあは、もう一度スマホの画面を見た。
「他人の不幸は蜜の味」
口に出してから、少し苦笑する。
「すごいタイトル」
「島崎くん作」
「なんとなく分かる気がする」
「でしょ」
理沙はワインを一口飲んだ。
少し冷めた肉を一切れ取り、岩塩をつける。
「もともとは、日頃の鬱積した気持ちから出てきた詩なんだけどね」
まりあは、スマホをテーブルに置き、理沙の方を見た。
「仕事の?」
「仕事もあるし、世の中全体への八つ当たりもあるし、自分への嫌味もある」
「自分への?」
「うん」
理沙は少し笑った。
「ただ、自分が不幸です、つらいです、って歌っても面白くないでしょ」
「うん」
「だから、少し離れたところから見ることにしたの。不幸の真ん中にいる自分を、別の自分が眺めてる。で、笑ってる」
まりあは、少しだけ眉を寄せた。
「それ、けっこう怖いね」
「怖いよ。悪趣味だし」
理沙はあっさり言った。
「でも、そうでもしないと笑えないことってあるじゃない」
まりあは、すぐには答えなかった。
その言葉は、少し分かる気がした。
自分に向けられる疑いの言葉。
画面の向こうから飛んでくる悪意。
巨大なステージの上で倒れた日のこと。
それらを真正面から受け止めていたら、たぶん立っていられない。
少し離れた場所から見る。
自分を、自分ではない誰かのように見る。
まりあにも、思い当たることがあった。
「でもね」
理沙は、ふと声を落とした。
「まさか、本当に不幸が自分に降りかかるとは思ってなかった」
まりあは、理沙を見た。
さっきまで笑っていた理沙の顔に、少しだけ寂しさが混じっていた。
「何かあったの?」
「会社で、希望退職の発表があった」
まりあは、息を呑んだ。
同じシステム系の仕事をしていたから、その言葉の重さは分かる。
表向きは希望。
けれど、その裏に何があるのかも、なんとなく分かる。
理沙は続けた。
「今のプロジェクトが、五月末で終わるの。そのあと、人員体制の整理があるって」
「それで……」
「うん。ちょっと悩んだけど、手を挙げた」
まりあは、言葉を失った。
理沙は、あえて軽く言うように笑った。
「まあ、自分で決めたことなんだけどね」
「でも」
まりあは何か言おうとした。
けれど、うまく言葉が出てこなかった。
励ませばいいのか。
止めればいいのか。
大丈夫と言えばいいのか。
何を言っても、薄くなってしまいそうだった。
理沙は、まりあの表情を見て、少し慌てたように手を振った。
「ごめん。そんな顔させたかったわけじゃないの」
「ううん」
「本題は、こっち」
理沙は、テーブルの上のスマホを軽く指で叩いた。
「え?」
まりあが顔を上げる。
理沙は、少しだけ姿勢を正した。
「まりあ」
「うん」
「もしよければ、この曲を歌ってみない?」
まりあは、すぐには意味が分からなかった。
理沙は、静かに言葉を足した。
「マリア・エレーナの声で」
|
ありがとうございます。
では、400字程度でこの文章のあらすじの作成をお願いします。
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### 002-21「13日の金曜日の前日は木曜日(2)」あらすじ
まりあは、理沙のスマホでArisa-Mistyの新曲「他人の不幸は蜜の味」を聴く。
理沙はその様子を見ながら、数日前に白河で曲が完成した日のことを思い出す。
島崎が考えた強烈なタイトルに一同は驚くが、フィリップの明るく皮肉の効いた曲が流れると、理沙はすぐに手応えを感じる。
しかしその場で理沙は、バンド活動をしばらく休止したいと告げ、フィリップと島崎を驚かせる。
現在に戻り、まりあはタイトルと曲調のギャップに興奮し、曲を気に入る。
理沙は、この詩が日頃の鬱積や自分への皮肉から生まれたものだと説明する。
そして会社で希望退職が発表され、自分も手を挙げたことを明かす。
まりあはその重さを察し、言葉を失う。
空気が沈みかけたところで、理沙は本題として、この曲をマリア・エレーナの声で歌ってみないかとまりあに頼む。
|
ありがとうございます。
ではまた日を改めて、引き続きの002-22の文章を作成します。
|
こちらこそ、ありがとうございました。
002-21では、理沙が自分の転機を打ち明けたうえで、「他人の不幸は蜜の味」をマリア・エレーナに託そうとするところまで進みましたね。
次回は **002-22「ひと区切り」** ですね。
理沙が希望退職とArisa-Misty休止を受け入れ、歌手活動に区切りをつける方向へ気持ちを整理していく節になりそうです。
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