では、002-25の試し書きをしてみました。
●002-25【試し書き】:ちょっとした反抗心
通常であれば、いつも10時には事務所に出社してくる柴原だが、
今日は30分ほど遅れて出社してきた。
スタジアムに行くのは、今日は午後からの予定だったのでまだ時間はある。
小川は、柴原の姿を見るとすぐに呼び止めた。
そして、応接テーブルのまりあのすぐ隣に座り、テーブルにやってきた柴原と向かい合う。
「ちょっと、聴いてほしい曲があります」
そして、まりあからスマホとイヤホンを受け取り、柴原に渡す。
いきなりの事で、柴原は多少戸惑っていたものの、曲を聴き始める。
スマホ画面に表示された曲名に、最初は違和感があるような表情だったが、
徐々に集中して聴き入っているような表情になる。
小川とまりあは、反応を待つ。
そして、聴き終えたところで柴原は2人に言った。
「タイトルで一瞬引きましたが、盛り上がりそうな曲ですね」
予想通りの反応だと、小川は頷く。
そして、単刀直入に言った。
「まりあさんの、別な可能性を引き出せる曲だと思います」
小川は、まりあの方に一瞬視線を向ける。
「コンサートの曲目に、加えて欲しいのですが」
柴原は、再び気難しい表情になった。
そこでひと押ししたのは、まりあだった。
「私からもお願いします」
腕を組んで、考え込んでいる柴原。
残り4週間でできる事だろうか。
配信サイトでもまだ未発表の曲。
癖のあるタイトルに、観客はどう反応するか。
ようやく考えがまとまったのか、柴原は言った。
「ディレクターと相談します」
事務所から出てゆく柴原。
おそらく静かなところで電話しているのだろう。
小川とまりあは、静かに待っていた。
その後、コンサートまでの4週間の日々は慌しく過ぎ去った。
数々の調整が行われ、リハーサルは粛々と進み、
まりあは毎日のように日付が変わるころに帰宅。
しかし、不思議な事に疲れはなかった。
コンサート当日。
午後からスタジアムの前には徐々に観客が集まり始める。
夕方になり入場が始まり、観客席が埋まり始める。
場内はいつもより少々暗い照明。
音響テスト用のBGMが気分を徐々に盛り上げる。
そして同じ頃。
新宿近くの小さなライブハウスでは、Arisa-Mistyのラストライブが始まろうとしていた。
|
拝読しました。
002-25は、まりあが自分の意思で理沙の曲をコンサートに入れたいと申し出て、柴原・小川を動かす節ですね。タイトル通り、まりあにとっての **「ちょっとした反抗心」**
が、きちんと前向きな形で出ています。
今回の核は、**マリア・エレーナが、用意された歌姫像から少しだけはみ出そうとすること**だと思います。
「他人の不幸は蜜の味」は、ファーストコンサート用に準備された美しいイメージとは明らかに違う曲です。だからこそ、まりあがそれを歌いたいと言うことには、自分の中にある毒や疲れや現実も、マリア・エレーナの一部にしたいという意思が感じられます。
特に良いのは、小川が先に柴原へ提案し、最後にまりあ自身が、
> 「私からもお願いします」
と加わる流れです。
小川がマネージャーとして道を作り、まりあが自分の意志で一歩踏み出す。二人の関係性がよく出ています。
この節の核は、次のように整理できそうです。
**柴原がいつもより少し遅れてHALUCAに出社すると、小川はすぐに呼び止め、まりあの隣に座って、理沙の曲「他人の不幸は蜜の味」を聴かせる。柴原は最初こそタイトルに違和感を示すが、曲が進むにつれて集中して聴き入り、盛り上がりそうな曲だと評価する。小川は、まりあの別の可能性を引き出せる曲だとして、ファーストコンサートの曲目に加えたいと申し出る。柴原は残り四週間という時間、未発表曲であること、癖の強いタイトル、観客の反応などを考え込む。そこへまりあ自身も「私からもお願いします」と頼む。柴原は即答を避け、ディレクターと相談すると言って席を外す。その後、四週間は慌ただしく過ぎるが、まりあは不思議と疲れを感じない。そしてコンサート当日、東京ドームスタジアムに観客が集まり始める。同じ頃、新宿近くの小さなライブハウスでは、Arisa-Mistyのラストライブが始まろうとしていた。**
構成としてはかなり良いです。修正するなら、以下の方向が自然だと思います。
---
# 002-25 整理案
## 1. 柴原の遅い出社
いつも10時に来る柴原が、今日は少し遅れて出社する。
この「少し遅い」が、事務所内の小さな待ち時間を作ります。
小川とまりあがすでに相談の準備をして待っていた感じが出せます。
## 2. 小川が柴原を呼び止める
柴原が来ると、小川はすぐに呼び止める。
ここでは、小川が珍しく少し急いでいる雰囲気があると良さそうです。
> 「ちょっと、聴いてほしい曲があります」
この台詞は残したいです。
小川がまりあの隣に座るのも良いです。
小川がまりあの側に立っていることが、配置だけで見えます。
## 3. 柴原が曲を聴く
柴原は、最初はタイトルで引く。
> 他人の不幸は蜜の味
これは、柴原のような経営判断をする人間にとっては当然ひっかかるタイトルです。
ただ、聴くうちに表情が変わる。
ここは柴原らしく、感情的に驚くよりも、
「これは使えるのか」「どこで入れるか」「観客にどう作用するか」
を考えながら聴いている感じにすると良さそうです。
## 4. 柴原の第一反応
> 「タイトルで一瞬引きましたが、盛り上がりそうな曲ですね」
これはとても良いです。
柴原の現実感があります。
完全否定でもなく、軽々しく絶賛でもない。
## 5. 小川の提案
小川が、
> 「まりあさんの、別な可能性を引き出せる曲だと思います」
と説明する。
これは重要です。
単に面白い曲だからではなく、まりあを広げる曲だから入れたい、という理由になります。
続けて、
> 「コンサートの曲目に、加えて欲しいのですが」
ここで柴原の顔が険しくなる。
## 6. まりあのひと押し
柴原が考え込む中、まりあが、
> 「私からもお願いします」
と言う。
ここが、この節の中心です。
「ちょっとした反抗心」というタイトルにふさわしく、
まりあは大きく反抗するのではなく、静かに自分の希望を言う。
ここは少し丁寧に描くと良いと思います。
* 声は大きくない
* でも引っ込める気はない
* 小川も少し驚く
* 柴原もまりあ本人の意思として受け止める
## 7. 柴原の検討
柴原が考える懸念は自然です。
* 残り四週間
* すでに曲順や演出はほぼ固まっている
* 未発表曲
* タイトルが強すぎる
* マリア・エレーナのイメージと違う
* 観客がどう受け止めるか
* 演出をどう組み直すか
ここで柴原の判断が「面白いが危ない」になると良さそうです。
## 8. 「ディレクターと相談します」
柴原は即答しない。
> 「ディレクターと相談します」
これが現実的で良いです。
そのまま席を外す。
小川とまりあは待つ。
この待つ時間に、まりあの緊張を少し入れてもよさそうです。
## 9. 四週間が過ぎる
その後、コンサートまでの四週間が慌ただしく過ぎる。
ここはダイジェストで良いです。
* 曲順調整
* 演出追加
* リハーサル追加
* スタッフの負荷
* まりあの歌い込み
* タイトルをどう扱うか
* でもまりあは不思議と疲れを感じない
この「不思議と疲れはなかった」は良いです。
002-23では倒れるほど疲れていたのに、002-25では自分で歌いたい曲が入ったことで、まりあに内側から力が戻ってくる。
## 10. コンサート当日へ
最後に時間を飛ばして、コンサート当日。
東京ドームスタジアムには観客が集まり始める。
* 午後から人が増える
* 夕方、入場開始
* 客席が埋まる
* 照明は少し暗め
* 音響テスト用BGMが流れる
* 空気が本番へ向かっていく
そして同じ頃、新宿近くの小さなライブハウス。
> Arisa-Mistyのラストライブが始まろうとしていた。
この締めは非常に良いです。
次の002-26「ラストコンサート(1)」への橋渡しとして強いです。
---
## 修正版の流れ
この節は、次の形に整えるとよさそうです。
1. 柴原がいつもより三十分遅れてHALUCAに出社する。
2. 小川がすぐに呼び止め、応接テーブルでまりあと並んで座る。
3. 小川は柴原に、理沙の曲「他人の不幸は蜜の味」を聴かせる。
4. 柴原はタイトルに戸惑うが、曲を聴くうちに集中していく。
5. 聴き終えた柴原は、タイトルには引いたが盛り上がりそうな曲だと評価する。
6. 小川は、まりあの別の可能性を引き出せる曲だとして、曲目追加を提案する。
7. 柴原が難しい顔で考え込む中、まりあ自身も「私からもお願いします」と頼む。
8. 柴原は残り四週間での準備、未発表曲、タイトルの強さ、観客の反応を検討する。
9. 柴原は「ディレクターと相談します」と言い、席を外す。
10. その後、四週間は慌ただしく過ぎ、調整とリハーサルが続く。
11. まりあは忙しい日々の中でも、不思議と疲れを感じなくなる。
12. コンサート当日、東京ドームスタジアムに観客が集まり始める。
13. 同じ頃、新宿近くの小さなライブハウスで、Arisa-Mistyのラストライブが始まろうとしていた。
この方向で修正すると、002-25は、
**まりあが「用意されたマリア・エレーナ」から少しだけ踏み出し、自分が歌いたい曲を本番に持ち込む節**
として、とても良い形になると思います。
|
はい、そのまとめ方で良いと思います。
ではこの修正案にもとづき、試し書きの修正版の作成をお願いします。
|
はい。
002-25は、まりあが理沙の曲をファーストコンサートに入れたいと自分の意思で申し出る節として整理します。
最後は、東京ドームスタジアムでのマリア・エレーナのファーストコンサートと、新宿近くの小さなライブハウスでのArisa-Mistyのラストライブが、同じ日に始まろうとしているところへつなげます。
---
# 002-25【試し書き・修正版】:ちょっとした反抗心
柴原は、いつもなら十時には事務所に来ている。
けれど、その日は三十分ほど遅れて姿を見せた。
午前中はHALUCAのオフィスで打ち合わせを行い、午後から東京ドームスタジアムへ向かう予定になっていた。
時間に余裕があるわけではない。
けれど、今日すぐに現場へ走らなければならないほどでもない。
小川は、柴原が事務所に入ってきたのを見ると、すぐに立ち上がった。
「柴原さん」
柴原はコートを脱ぎかけたまま、小川の方を見た。
「はい」
「少し、お時間をいただけますか」
柴原は、腕時計に目を落とした。
「長くなりますか」
「曲を一つ聴いていただきたいだけです」
その言い方に、柴原は少しだけ眉を動かした。
小川がこの時期に、わざわざ予定外の曲を聴かせようとしている。
それがただの確認ではないことは、柴原にもすぐに分かった。
応接テーブルには、すでにまりあが座っていた。
昨日よりは少し顔色がよい。
けれど、どこか緊張している。
小川はまりあのすぐ隣に座った。
その位置を見て、柴原は一瞬、二人の間に何か決めてきたことがあるのだと察した。
「分かりました」
柴原は向かいの席に腰を下ろした。
小川は、まりあからスマホとイヤホンを受け取り、それを柴原に差し出した。
「これです」
柴原はスマホの画面を見た。
そこには、音源ファイルの再生画面が表示されていた。
曲名を見た瞬間、表情がほんの少し止まる。
他人の不幸は蜜の味。
柴原は、画面から目を上げ、小川を見た。
次に、まりあを見た。
「……なかなか強いタイトルですね」
「はい」
小川は否定しなかった。
まりあも、黙って柴原を見ていた。
柴原はそれ以上言わず、イヤホンを耳に入れた。
そして、再生ボタンを押した。
イントロが流れ始める。
最初の数秒、柴原の表情にはまだ違和感が残っていた。
タイトルの印象が先に立っていたのだろう。
けれど、曲が進むにつれて、その表情は少しずつ変わっていった。
眉間に寄っていた力が、考える時の顔に変わる。
指先が、テーブルの上でごく小さくリズムを取る。
視線はスマホの画面に落ちているが、実際には別のものを見ているようだった。
小川とまりあは、何も言わずに待った。
曲が終わる。
柴原は、すぐにはイヤホンを外さなかった。
少し間を置いてから、ゆっくりと耳から外す。
「タイトルで一瞬引きましたが」
柴原は静かに言った。
「盛り上がりそうな曲ですね」
小川は、内心で小さく頷いた。
予想していた反応に近かった。
柴原は、この曲を単なる悪ふざけとは見なさなかった。
少なくとも、可能性は見た。
小川は姿勢を正した。
「まりあさんの、別な可能性を引き出せる曲だと思います」
柴原は、小川を見る。
小川は一度、隣のまりあに視線を向けた。
そして続けた。
「ファーストコンサートの曲目に、加えてほしいのですが」
その瞬間、柴原の表情が変わった。
評価する顔から、判断する顔へ。
曲そのものの面白さと、それを本番で使うことは別の問題だった。
柴原は腕を組んだ。
「残り、四週間を切っています」
「はい」
「曲順も演出も、ほぼ固まっている。立体プロジェクターの調整も、今の時点でまだ完全とは言えない」
「分かっています」
「しかも、配信サイトでも未発表の曲です」
柴原はスマホの画面にもう一度目を落とした。
「このタイトルを、ファーストコンサートで初めて出す」
小川は答えなかった。
柴原の言っていることは、すべて正しかった。
マリア・エレーナのファーストコンサートは、ただのライブではない。
HALUCAにとっても、まりあにとっても、大きな勝負だった。
そこに、予定外の曲を入れる。
しかも、マリア・エレーナの明るく前向きなイメージからは、かなり外れた曲を。
反対意見が出るのは当然だった。
スポンサーがどう見るか。
宣伝チームがどう扱うか。
演出をどう組み直すか。
観客が、タイトルを聞いた瞬間にどう反応するか。
考えなければならないことは多かった。
小川は、それでも引かなかった。
「危ない曲だとは思います」
柴原は顔を上げた。
「ですが、ただ危ないだけではありません」
小川の声は、いつもより少しだけ強かった。
「この曲は、綺麗なマリア・エレーナだけでは出せないものを出せると思います。明るいだけではなく、痛みも、毒も、笑い飛ばす力もある。今のまりあさんが歌うなら、意味があります」
まりあは、小川の横顔を見た。
小川が、自分の言いたかったことを代わりに言ってくれている。
そう思った。
けれど、それだけでは足りない。
これは、小川の提案ではない。
自分の希望でもある。
まりあは、膝の上で軽く握っていた手をほどいた。
そして、柴原を見た。
「私からもお願いします」
小川が、ほんの少しだけ驚いたようにまりあを見た。
柴原も、まりあへ視線を移した。
まりあの声は大きくなかった。
けれど、途中で引っ込めるつもりのない声だった。
「この曲を、歌ってみたいです」
柴原は、何も言わなかった。
まりあは続けた。
「今までの曲が嫌なわけじゃありません。どの曲も大事です。でも、それだけだと、少し怖いんです」
「怖い?」
柴原が聞き返す。
まりあは頷いた。
「マリア・エレーナが、綺麗なものだけでできているみたいに見えてしまうのが」
言葉にしてみると、胸の奥が少し震えた。
それでも、まりあは続けた。
「私は、そんなに綺麗な人間じゃないです。疲れるし、怖くなるし、嫌なことを考えることもあります。でも、それでも歌えるなら、その方が本当のマリア・エレーナに近い気がします」
部屋の中が静かになった。
小川は、何も言わなかった。
柴原は腕を組んだまま、まりあを見ていた。
やがて、視線をスマホへ戻す。
考えている。
残り四週間。
未発表曲。
強すぎるタイトル。
既存の曲順。
演出の組み直し。
観客の反応。
世間の評価。
投資リスク。
そして、その全部の向こう側にある、可能性。
しばらくして、柴原は小さく息を吐いた。
「面白いです」
それは承認ではなかった。
けれど、拒絶でもなかった。
「ただ、私一人で即答する話ではありません。演出上、どこに入れるかで意味が変わる曲です。使い方を間違えると、ただの悪目立ちになる」
「はい」
小川が頷く。
柴原はスマホをテーブルに置いた。
「ディレクターと相談します」
まりあは、少しだけ息を止めた。
「すぐにですか」
「すぐにです」
柴原は立ち上がった。
「午後のスタジアム入りまでには、いったん方向性を出します」
そう言って、柴原はスマホを小川に返した。
「音源、こちらに送っておいてください」
「分かりました」
柴原はそのまま事務所の奥へ向かった。
おそらく、静かな場所で電話をするのだろう。
小川とまりあは、応接テーブルに残された。
しばらく、二人とも何も言わなかった。
まりあは、カップの中のコーヒーを見つめていた。
湯気はもう薄くなっている。
「言えましたね」
小川が、小さく言った。
まりあは顔を上げた。
「はい」
「昨日、言おうとしていたのは、このことですか」
まりあは少し迷ってから、頷いた。
「たぶん」
「たぶん?」
「昨日は、まだ自分でもよく分かっていなかったので」
小川は、静かに頷いた。
「今は?」
まりあは、少しだけ笑った。
「今は、少し分かります」
小川も小さく笑った。
「それなら、よかったです」
その日の午後、柴原は東京ドームスタジアムへ向かう車の中で、短く結果を伝えた。
「入れましょう」
まりあは、すぐに言葉を返せなかった。
「本当ですか」
「ただし、条件があります」
柴原はいつもの冷静な声で言った。
「曲順と演出はこちらで再構成します。タイトルの出し方も考えます。中途半端に扱うくらいなら、入れない方がいい」
「はい」
「やるなら、きちんと意味を持たせます」
まりあは頷いた。
胸の奥で、何かが静かにほどけていく気がした。
小川は、運転席の隣でその表情を横目に見た。
昨日までとは、少し違う顔だった。
疲れていないわけではない。
不安が消えたわけでもない。
けれど、まりあの中に、自分で選んだものが一つ入った。
それだけで、彼女の立ち方が少し変わったように見えた。
それからの四週間は、慌ただしく過ぎていった。
「他人の不幸は蜜の味」を加えるため、曲順は一部組み直された。
照明の色が変わった。
立体プロジェクターの演出が足された。
曲前の映像が作り直された。
スタッフの手順書には、新しいページが差し込まれた。
リハーサルはさらに増えた。
確認事項も増えた。
日付が変わる頃に、まりあがマンションへ戻る日も何度もあった。
それでも、不思議なことに、まりあは以前ほど疲れを感じなかった。
身体は疲れている。
足は重い。
喉も乾く。
眠ればすぐに深く沈む。
けれど、胸の奥にあった重い雲は、少し薄くなっていた。
自分が歌いたいと言った曲がある。
それが、彼女を支えていた。
もちろん、怖さもあった。
本番でタイトルを聞いた観客がどう反応するのか。
マリア・エレーナのイメージが壊れるのではないか。
理沙の曲を、自分が本当に歌えるのか。
考えれば、不安はいくらでも出てきた。
それでも、まりあは練習を続けた。
ただ用意された歌を歌うだけではない。
自分が選んだ歌を、そこに置く。
それは、ほんの少しの反抗心だった。
けれど、まりあにとっては、大きな一歩だった。
やがて、コンサート当日が来た。
午後になると、東京ドームスタジアムの前には、少しずつ人が集まり始めた。
駅から続く歩道を、観客たちが流れてくる。
友人同士で話しながら歩く人。
チケットを何度も確認する人。
グッズ売り場の列に並ぶ人。
スマホで会場の外観を撮る人。
夕方になる頃には、スタジアムの周囲は大きなざわめきに包まれていた。
入場が始まる。
観客席が、少しずつ埋まっていく。
場内の照明は、いつもより少し暗めに落とされていた。
まだ何も始まっていない。
それでも、空気はすでに本番へ向かっていた。
音響テスト用のBGMが、低く、静かに流れている。
その音が、人々の期待を少しずつ持ち上げていく。
ステージの上には、まだ誰もいない。
上空にも、まだ光はない。
けれど、誰もが待っていた。
マリア・エレーナが現れる瞬間を。
そして、同じ頃。
新宿近くの小さなライブハウスでは、Arisa-Mistyのラストライブが始まろうとしていた。
|
ありがとうございます。非常によい構成だと思います。
ではこの試し書きをもとに、小説化をお願いします。
|
はい。
試し書きをもとに、まりあが「自分の歌いたい曲」を本番に持ち込み、ファーストコンサート当日へつながる節として小説本文に整えます。
---
# 002-25 ちょっとした反抗心
柴原は、いつもなら十時には事務所に来ている。
けれど、その日は三十分ほど遅れて姿を見せた。
午前中はHALUCAのオフィスで打ち合わせを行い、午後から東京ドームスタジアムへ向かう予定になっていた。
時間に余裕があるわけではない。
けれど、今日すぐに現場へ走らなければならないほどでもない。
小川は、柴原が事務所に入ってきたのを見ると、すぐに立ち上がった。
「柴原さん」
柴原はコートを脱ぎかけたまま、小川の方を見た。
「はい」
「少し、お時間をいただけますか」
柴原は、腕時計に目を落とした。
「長くなりますか」
「曲を一つ聴いていただきたいだけです」
その言い方に、柴原は少しだけ眉を動かした。
小川がこの時期に、わざわざ予定外の曲を聴かせようとしている。
それがただの確認ではないことは、柴原にもすぐに分かった。
応接テーブルには、すでにまりあが座っていた。
昨日よりは少し顔色がよい。
けれど、どこか緊張している。
小川は、まりあのすぐ隣に座った。
その位置を見て、柴原は一瞬、二人の間に何か決めてきたことがあるのだと察した。
「分かりました」
柴原は向かいの席に腰を下ろした。
小川は、まりあからスマホとイヤホンを受け取り、それを柴原に差し出した。
「これです」
柴原はスマホの画面を見た。
そこには、音源ファイルの再生画面が表示されていた。
曲名を見た瞬間、表情がほんの少し止まる。
他人の不幸は蜜の味。
柴原は、画面から目を上げ、小川を見た。
次に、まりあを見た。
「……なかなか強いタイトルですね」
「はい」
小川は否定しなかった。
まりあも、黙って柴原を見ていた。
柴原はそれ以上言わず、イヤホンを耳に入れた。
そして、再生ボタンを押した。
イントロが流れ始める。
最初の数秒、柴原の表情にはまだ違和感が残っていた。
タイトルの印象が先に立っていたのだろう。
けれど、曲が進むにつれて、その表情は少しずつ変わっていった。
眉間に寄っていた力が、考える時の顔に変わる。
指先が、テーブルの上でごく小さくリズムを取る。
視線はスマホの画面に落ちているが、実際には別のものを見ているようだった。
小川とまりあは、何も言わずに待った。
曲が終わる。
柴原は、すぐにはイヤホンを外さなかった。
少し間を置いてから、ゆっくりと耳から外す。
「タイトルで一瞬引きましたが」
柴原は静かに言った。
「盛り上がりそうな曲ですね」
小川は、内心で小さく頷いた。
予想していた反応に近かった。
柴原は、この曲を単なる悪ふざけとは見なさなかった。
少なくとも、可能性は見た。
小川は姿勢を正した。
「まりあさんの、別な可能性を引き出せる曲だと思います」
柴原は、小川を見る。
小川は一度、隣のまりあに視線を向けた。
そして続けた。
「ファーストコンサートの曲目に、加えてほしいのですが」
その瞬間、柴原の表情が変わった。
評価する顔から、判断する顔へ。
曲そのものの面白さと、それを本番で使うことは別の問題だった。
柴原は腕を組んだ。
「残り、四週間を切っています」
「はい」
「曲順も演出も、ほぼ固まっている。立体プロジェクターの調整も、今の時点でまだ完全とは言えない」
「分かっています」
「しかも、配信サイトでも未発表の曲です」
柴原はスマホの画面にもう一度目を落とした。
「このタイトルを、ファーストコンサートで初めて出す」
小川は答えなかった。
柴原の言っていることは、すべて正しかった。
マリア・エレーナのファーストコンサートは、ただのライブではない。
HALUCAにとっても、まりあにとっても、大きな勝負だった。
そこに、予定外の曲を入れる。
しかも、マリア・エレーナの明るく前向きなイメージからは、かなり外れた曲を。
反対意見が出るのは当然だった。
スポンサーがどう見るか。
宣伝チームがどう扱うか。
演出をどう組み直すか。
観客が、タイトルを聞いた瞬間にどう反応するか。
考えなければならないことは多かった。
小川は、それでも引かなかった。
「危ない曲だとは思います」
柴原は顔を上げた。
「ですが、ただ危ないだけではありません」
小川の声は、いつもより少しだけ強かった。
「この曲は、綺麗なマリア・エレーナだけでは出せないものを出せると思います。明るいだけではなく、痛みも、毒も、笑い飛ばす力もある。今のまりあさんが歌うなら、意味があります」
まりあは、小川の横顔を見た。
小川が、自分の言いたかったことを代わりに言ってくれている。
そう思った。
けれど、それだけでは足りない。
これは、小川の提案ではない。
自分の希望でもある。
まりあは、膝の上で軽く握っていた手をほどいた。
そして、柴原を見た。
「私からもお願いします」
小川が、ほんの少しだけ驚いたようにまりあを見た。
柴原も、まりあへ視線を移した。
まりあの声は大きくなかった。
けれど、途中で引っ込めるつもりのない声だった。
「この曲を、歌ってみたいです」
柴原は、何も言わなかった。
まりあは続けた。
「今までの曲が嫌なわけじゃありません。どの曲も大事です。でも、それだけだと、少し怖いんです」
「怖い?」
柴原が聞き返す。
まりあは頷いた。
「マリア・エレーナが、綺麗なものだけでできているみたいに見えてしまうのが」
言葉にしてみると、胸の奥が少し震えた。
それでも、まりあは続けた。
「私は、そんなに綺麗な人間じゃないです。疲れるし、怖くなるし、嫌なことを考えることもあります。でも、それでも歌えるなら、その方が本当のマリア・エレーナに近い気がします」
部屋の中が静かになった。
小川は、何も言わなかった。
柴原は腕を組んだまま、まりあを見ていた。
やがて、視線をスマホへ戻す。
考えている。
残り四週間。
未発表曲。
強すぎるタイトル。
既存の曲順。
演出の組み直し。
観客の反応。
世間の評価。
投資リスク。
そして、その全部の向こう側にある、可能性。
しばらくして、柴原は小さく息を吐いた。
「面白いです」
それは承認ではなかった。
けれど、拒絶でもなかった。
「ただ、私一人で即答する話ではありません。演出上、どこに入れるかで意味が変わる曲です。使い方を間違えると、ただの悪目立ちになる」
「はい」
小川が頷く。
柴原はスマホをテーブルに置いた。
「ディレクターと相談します」
まりあは、少しだけ息を止めた。
「すぐにですか」
「すぐにです」
柴原は立ち上がった。
「午後のスタジアム入りまでには、いったん方向性を出します」
そう言って、柴原はスマホを小川に返した。
「音源、こちらに送っておいてください」
「分かりました」
柴原はそのまま事務所の奥へ向かった。
おそらく、静かな場所で電話をするのだろう。
小川とまりあは、応接テーブルに残された。
しばらく、二人とも何も言わなかった。
まりあは、カップの中のコーヒーを見つめていた。
湯気はもう薄くなっている。
「言えましたね」
小川が、小さく言った。
まりあは顔を上げた。
「はい」
「昨日、言おうとしていたのは、このことですか」
まりあは少し迷ってから、頷いた。
「たぶん」
「たぶん?」
「昨日は、まだ自分でもよく分かっていなかったので」
小川は、静かに頷いた。
「今は?」
まりあは、少しだけ笑った。
「今は、少し分かります」
小川も小さく笑った。
「それなら、よかったです」
その日の午後、柴原は東京ドームスタジアムへ向かう車の中で、短く結果を伝えた。
「入れましょう」
まりあは、すぐに言葉を返せなかった。
「本当ですか」
「ただし、条件があります」
柴原はいつもの冷静な声で言った。
「曲順と演出はこちらで再構成します。タイトルの出し方も考えます。中途半端に扱うくらいなら、入れない方がいい」
「はい」
「やるなら、きちんと意味を持たせます」
まりあは頷いた。
胸の奥で、何かが静かにほどけていく気がした。
小川は、運転席の隣でその表情を横目に見た。
昨日までとは、少し違う顔だった。
疲れていないわけではない。
不安が消えたわけでもない。
けれど、まりあの中に、自分で選んだものが一つ入った。
それだけで、彼女の立ち方が少し変わったように見えた。
それからの四週間は、慌ただしく過ぎていった。
「他人の不幸は蜜の味」を加えるため、曲順は一部組み直された。
照明の色が変わった。
立体プロジェクターの演出が足された。
曲前の映像が作り直された。
スタッフの手順書には、新しいページが差し込まれた。
リハーサルはさらに増えた。
確認事項も増えた。
日付が変わる頃に、まりあがマンションへ戻る日も何度もあった。
それでも、不思議なことに、まりあは以前ほど疲れを感じなかった。
身体は疲れている。
足は重い。
喉も乾く。
眠ればすぐに深く沈む。
けれど、胸の奥にあった重い雲は、少し薄くなっていた。
自分が歌いたいと言った曲がある。
それが、彼女を支えていた。
もちろん、怖さもあった。
本番でタイトルを聞いた観客がどう反応するのか。
マリア・エレーナのイメージが壊れるのではないか。
理沙の曲を、自分が本当に歌えるのか。
考えれば、不安はいくらでも出てきた。
それでも、まりあは練習を続けた。
ただ用意された歌を歌うだけではない。
自分が選んだ歌を、そこに置く。
それは、ほんの少しの反抗心だった。
けれど、まりあにとっては、大きな一歩だった。
やがて、コンサート当日が来た。
午後になると、東京ドームスタジアムの前には、少しずつ人が集まり始めた。
駅から続く歩道を、観客たちが流れてくる。
友人同士で話しながら歩く人。
チケットを何度も確認する人。
グッズ売り場の列に並ぶ人。
スマホで会場の外観を撮る人。
夕方になる頃には、スタジアムの周囲は大きなざわめきに包まれていた。
入場が始まる。
観客席が、少しずつ埋まっていく。
場内の照明は、いつもより少し暗めに落とされていた。
まだ何も始まっていない。
それでも、空気はすでに本番へ向かっていた。
音響テスト用のBGMが、低く、静かに流れている。
その音が、人々の期待を少しずつ持ち上げていく。
ステージの上には、まだ誰もいない。
上空にも、まだ光はない。
けれど、誰もが待っていた。
マリア・エレーナが現れる瞬間を。
そして、同じ頃。
新宿近くの小さなライブハウスでは、Arisa-Mistyのラストライブが始まろうとしていた。
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ありがとうございます。
では、400字程度でこの文章のあらすじの作成をお願いします。
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### 002-25「ちょっとした反抗心」あらすじ
柴原がいつもより少し遅れてHALUCAの事務所に現れると、小川はまりあと並んで応接テーブルに座り、理沙の曲「他人の不幸は蜜の味」を聴いてほしいと差し出す。
柴原は強烈なタイトルに戸惑いながらも、曲を聴くうちに可能性を感じ、盛り上がりそうな曲だと評価する。
小川は、この曲がまりあの別の可能性を引き出せるとして、ファーストコンサートへの追加を提案する。
柴原は残り四週間という時間、未発表曲であること、観客やスポンサーの反応を考え難色を示すが、まりあ自身も「この曲を歌ってみたい」と静かに願い出る。
柴原はディレクターと相談したうえで、曲順と演出を再構成する条件つきで採用を決める。
その後の四週間、準備はさらに慌ただしくなるが、まりあは自分で選んだ曲があることで以前ほど疲れを感じなくなる。
そしてコンサート当日、東京ドームスタジアムに観客が集まり始める。
同じ頃、新宿近くの小さなライブハウスでは、Arisa-Mistyのラストライブが始まろうとしていた。
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ありがとうございます。
ではまた日を改めて、引き続きの002-26の文章を作成します。
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こちらこそ、ありがとうございました。
002-25では、まりあが「他人の不幸は蜜の味」を自分の意思でファーストコンサートに持ち込み、いよいよ本番当日まで進みましたね。
次回は **002-26「ラストコンサート(1)」** ですね。
東京ドームスタジアムで始まるマリア・エレーナのファーストコンサートと、新宿近くの小さなライブハウスで始まるArisa-Mistyのラストライブを、同時進行で描く重要な節になりそうです。
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