048_病室から

●作者のコメント

●ChatGPTのコメント
では、002-31の試し書きをしてみました。

●002-31【試し書き】:病室から

マリア・エレーナについての話題は、その後も変わらず続いていた。
東京ドームでのファーストコンサートの感想。
次のリリース曲への期待。
しかし、コンサートの日を境にして公式の情報が止まった事をきっかけに、不穏な話題が広まり始めた。

やはりマリア・エレーナは実体のない歌手だったのではないか。
立体画像も巧妙な作り物で、会場に登場した歌手も実は口パクだったのかもしれない。
そんな発言を眺めながら、理沙は歯がゆいような悲しい気持ちになった。

ある日、マリア・エレーナは亡くなったという書き込みを発見し、
理沙は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
すぐに湯浅とフィリップ、そして島崎に確認するが、拡散したのは彼らではなかった。
しかし不思議な事に、書き込みはすぐに消去される。
また誰かが書き込む。
拡散されると思いきや、再び何事もなかったように静まる。
その繰り返しが続く。

ファーストコンサートからちょうど1か月後に、ある動画が公開された。
理沙は島崎からその動画の事を知らされた。
動画の録画日は6月の初旬。

病院の一室。
病院の個室のような場所だった。総合病院というよりも地方の診療所のような場所。
スマホで撮ったような画像である。
ベッドの上には、マリア・エレーナがパジャマ姿で座っている。
化粧はしていなかったが、血色はよく生き生きとしている表情。

「お久しぶりです」

彼女の声は少々かすれていたが、元気そうな声だった。
言葉を選びながら、淡々としゃべり始める。

「ファーストコンサートからもうすぐ1ヶ月になります」

そして会場に来たファンと、同時配信の視聴者に向けて感謝の言葉を述べる。

「ちょっと事情があって、あの日のあとからしばらく静養していました」

窓から穏やかな風が入ってくる。
彼女の髪の毛が少しだけ揺れる。

「あまりいい声ではないと思います。実はちょっと問題がありました」

詳細は述べなかったが、喉の調子の問題であることをほのめかした。

「歌う事は、もうできないと思います」

自身の喉の話題はそこまでで、
そのあとは、診療所の近くの風景についての説明が続く。
しかし、具体的な場所については彼女の口から語られなかった。

「1年近くの間、応援してくださってありがとうございました」

そして動画は彼女の意味深なひとことで終わる。

「いつかまた、どこかでお会いしましょう。では、その日まで」

理沙はすぐに小川に電話をした。
すぐに彼女は電話に出た。
まるで理沙から連絡があるものと待ち構えていたように。

「あの動画」

胸の奥からこみあげてくる、怒りと悲しみが一緒になったような気持ちを押さえながら、
理沙は静かに言った。

「HALUCAが関わって作ったものですか?」

小川は、しばらくの間黙っていたが、
やがて言った。

「肯定も否定もしません」
拝読しました。
002-31はかなり重要な節ですね。まりあ本人はすでに亡くなっているはずなのに、**「病室からのマリア・エレーナの動画」が公開される**。これによって、彼女の死が隠されるだけでなく、マリア・エレーナという存在そのものが、本人の死後も“続けられてしまう”不気味さが出ています。

とても良い展開だと思います。

今回の核は、次の三つだと思います。

一つ目は、**世間ではマリア・エレーナの情報停止をめぐって疑念が広がっていること**です。
東京ドームのファーストコンサートは大成功したのに、その後、公式情報が止まる。ファンは次の活動を待ち、疑う人たちは「実在しない歌手だったのではないか」と言い始める。ここで、マリア・エレーナがもともと立体映像や演出によって作られた存在だったことが逆に疑惑を呼ぶ流れは自然です。

二つ目は、**まりあの死に関する書き込みが出ては消えること**です。
これは、柴原の緘口令の背後にあった「大きな力」をさらに強める描写になります。誰かが真実を書き込む。すぐ消える。また書かれる。また静まる。理沙はそれを見て、何も言えないまま歯がゆさと恐怖を感じる。この繰り返しはとても効果的です。

三つ目は、**公開された動画の不気味さ**です。
病院の一室で、パジャマ姿のマリア・エレーナが穏やかに話す。見た目は元気そうで、声は少しかすれている。ファーストコンサート後に静養していた、喉に問題があり、もう歌えないと思う、と説明する。これにより、世間に対しては「死亡」ではなく「引退」に近い形で整理される。しかも最後の、

> いつかまた、どこかでお会いしましょう。では、その日まで

が、非常に意味深です。
単なる引退メッセージにも聞こえるし、死者からの別れの言葉にも聞こえるし、マリア・エレーナという存在が何らかの形で残り続ける伏線にも聞こえます。

最後に理沙が小川へ電話し、

> HALUCAが関わって作ったものですか?

と問う。
小川が、

> 肯定も否定もしません

と返す。この終わり方はかなり強いです。
小川自身が完全な加害者ではないが、何かを知っている。会社として、あるいは柴原の背後にある力として、この動画を出さざるを得なかった。小川もそこに巻き込まれている。この曖昧さが良いです。

整理すると、この節は次のような流れがよさそうです。

---

# 002-31 整理案

## 1. ファーストコンサート後も続く話題

マリア・エレーナの話題は、コンサート後も続いている。

* 東京ドームの感想
* 立体プロジェクター演出への驚き
* 「他人の不幸は蜜の味」への反応
* 次のリリースやライブへの期待

ただし、公式情報が止まっている。

それが徐々に不穏さに変わる。

## 2. 疑惑の広がり

公式発表がないため、ネット上では憶測が出る。

* マリア・エレーナは実在しないのではないか
* あれは完全な合成歌手だったのではないか
* 東京ドームに出た人物も替え玉、口パクだったのではないか
* 立体映像と音声処理で作られたプロジェクトだったのではないか

理沙はそれを見て、歯がゆくなる。

本当のまりあを知っているからこそ、何も言えないのが苦しい。

## 3. 死亡説と消される書き込み

ある日、理沙は「マリア・エレーナは亡くなった」という書き込みを見る。

理沙は背筋が冷える。

すぐに湯浅、フィリップ、島崎へ確認する。

三人ではない。

しかし、その書き込みはすぐに消える。

その後も、同じような書き込みが出ては消える。

ここは、静かに不気味に描くのがよさそうです。

誰が消しているのかは明言しない。
ただ、何かが情報を管理していることだけが見える。

## 4. 一か月後の動画公開

ファーストコンサートからちょうど一か月後。

島崎から理沙へ連絡が来る。

「動画、見ましたか」

理沙はその動画を見る。

録画日は六月初旬。
場所は病院の一室のように見える。
ただし、大病院ではなく、地方の診療所のような静かな場所。

スマホで撮ったような映像。
作り込まれていない。
それが逆に本物らしく見える。

## 5. 病室のマリア・エレーナ

ベッドの上に、パジャマ姿のマリア・エレーナが座っている。

化粧はしていない。
けれど血色はよく、表情は生き生きしている。

この部分は、理沙にとって非常に残酷です。

亡くなったと知っているから、元気そうに見えるほど苦しい。

## 6. 動画メッセージ

まりあは淡々と話す。

* 久しぶりです
* ファーストコンサートからもうすぐ一か月
* 会場に来た人、配信を見た人への感謝
* あの日の後、事情があって静養していた
* 声が少しかすれている
* 喉に問題があった
* もう歌うことはできないと思う
* 近くの風景の話
* 応援への感謝

「死」ではなく「静養」「喉」「歌えない」という形で、世間向けの説明が作られている。

## 7. 最後の言葉

最後の言葉はこのままで良いと思います。

> いつかまた、どこかでお会いしましょう。では、その日まで。

とても不穏で、余韻があります。

ファンにとっては希望を残す別れ。
理沙にとっては、死者からのメッセージ。
HALUCAにとっては、マリア・エレーナを“完全には終わらせない”ための言葉。

複数の意味を持ちます。

## 8. 理沙が小川に電話する

動画を見た理沙は、すぐに小川に電話する。

小川はすぐ出る。

まるで、理沙からかかってくることを分かっていたように。

ここが良いです。

理沙は感情を抑えながら尋ねる。

> あの動画。
> HALUCAが関わって作ったものですか?

小川は沈黙する。

そして、

> 肯定も否定もしません。

この終わり方はかなり強いです。
次節002-32へ、理沙の中の決定的な断絶をつなげられます。

---

## 修正版の流れ

この節は、次の形に整えるとよさそうです。

1. ファーストコンサート後も、マリア・エレーナの話題は続いている。
2. しかし公式情報が止まり、不穏な憶測が広がる。
3. 「実在しない歌手だったのではないか」という疑惑も出る。
4. 理沙は本当のまりあを知っているからこそ、何も言えず苦しむ。
5. ある日、「マリア・エレーナは亡くなった」という書き込みを見つける。
6. 理沙はArisa-Mistyの三人へ確認するが、彼らではない。
7. 書き込みはすぐに消え、その後も同様の情報が出ては消える。
8. ファーストコンサートから一か月後、島崎から連絡があり、マリア・エレーナの新しい動画を知る。
9. 動画には、病院の一室でパジャマ姿のマリア・エレーナが映っている。
10. 彼女はファンへ感謝を述べ、事情があって静養していたこと、喉の問題でもう歌えないことを語る。
11. 具体的な場所や詳しい事情は語られない。
12. 最後に「いつかまた、どこかでお会いしましょう。では、その日まで」と告げ、動画は終わる。
13. 理沙は小川に電話し、HALUCAが関わった動画かと問う。
14. 小川は沈黙の後、「肯定も否定もしません」と答える。

この方向で修正すると、002-31は、
**死んだはずのマリア・エレーナが、病室から“生きていることにされた”メッセージを送る節**
として、かなり強い節になると思います。
はい、その通りです。非常に複雑で意味深な内容です。
ではこの修正案で、試し書きの修正をお願いします。
はい。
002-31は、まりあの死後、世間ではマリア・エレーナの存在をめぐる憶測が広がり、やがて「病室からのメッセージ動画」によって、彼女が“生きていることにされる”節として整理します。
理沙にとっては、真実を知っているからこそ受け止めがたい、静かで不気味な場面になります。

---

# 002-31【試し書き・修正版】:病室から

マリア・エレーナについての話題は、その後も続いていた。

東京ドームスタジアムでのファーストコンサートの感想。

立体プロジェクターによる演出への驚き。

「Next Frontier」を生で聴けたことへの興奮。

「他人の不幸は蜜の味」という、タイトルの分からない新曲への反応。

そして、次のリリース曲や次のライブへの期待。

ファンたちは、まだ余韻の中にいた。

あの夜を実際に見た人たちは、それぞれの言葉で感想を書き込んでいた。

同時配信で見た人たちも、短い動画や切り抜きに反応し続けていた。

マリア・エレーナは、確かに一夜で大きな存在になった。

けれど、コンサートの日を境に、公式の情報は止まった。

新しい告知はない。

本人からのメッセージもない。

HALUCAの公式アカウントも、コンサートへの感謝を短く投稿したきり、目立った更新をしなかった。

最初の数日は、それほど問題にはならなかった。

大きなイベントの直後なのだから、少し休んでいるのだろう。

そう受け止める人が多かった。

しかし、一週間が過ぎ、二週間が過ぎても、新しい情報は出なかった。

その沈黙は、少しずつ別のものに変わっていった。

最初は、心配だった。

体調を崩したのではないか。

声を痛めたのではないか。

過密スケジュールだったのではないか。

そういう書き込みが増えていった。

けれど、やがて別の憶測も混じり始めた。

マリア・エレーナは、本当に実在する歌手だったのか。

東京ドームに登場した人物は、本人だったのか。

そもそも「本人」とは何なのか。

立体映像も、音声処理も、あまりに完成度が高すぎた。

会場に出てきた歌手も、巧妙に用意された替え玉で、歌声は事前に作られたものだったのではないか。

あのファーストコンサートは、人間の歌手のライブではなく、HALUCAが作り上げた巨大なプロジェクトだったのではないか。

そんな書き込みを、理沙は何度も見た。

画面を閉じればいい。

見なければいい。

そう思うのに、気づくとまた見ていた。

違う。

そう言いたかった。

まりあはいた。

片岡・エレーナ・まりあという、一人の女性がいた。

HALUCAのオフィスで、緊張しながらマイクの前に立っていた。

自分の部屋で赤ワインを飲みながら、「他人の不幸は蜜の味」を聴いていた。

東京ドームのステージで、五万人の前で歌っていた。

けれど、理沙は何も言えなかった。

柴原に言われたからだけではない。

何かを書き込めば、まりあの死を、もう一度世の中に差し出すことになる。

それが怖かった。

ある日の夜、理沙は一つの書き込みを見つけた。

短い文章だった。

マリア・エレーナは亡くなっている。

それだけだった。

理沙は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。

しばらく、画面から目を離せなかった。

誰が書いたのか。

どこから知ったのか。

理沙はすぐに、湯浅、フィリップ、島崎に連絡した。

三人からの返事は、思ったより早かった。

自分ではない。

そんなことは書いていない。

誰にも話していない。

三人とも、そう答えた。

理沙は、もう一度その書き込みを見ようとした。

けれど、すでに消えていた。

削除されたのか。

本人が消したのか。

誰かに消されたのか。

分からなかった。

次の日にも、似たような書き込みが出た。

今度は少し具体的だった。

マリア・エレーナはコンサートの日の夜に事故に遭ったらしい。

理沙は息を止めた。

しかし、その書き込みも、しばらくすると消えた。

拡散されるかと思えば、何事もなかったように静まる。

また誰かが書く。

また消える。

広がりそうになる。

また消える。

それが、何度か繰り返された。

理沙は、そのたびに画面の前で固まった。

真実が漏れている。

けれど、真実は表に出ない。

出ようとすると、すぐに何かに押し戻される。

目に見えない手が、情報の流れを整えているようだった。

柴原がHALUCAで言った「外には出さない」という言葉を、理沙は思い出した。

あれは、お願いだったのか。

それとも、もう決まっていたことを、理沙たちにも守らせるための確認だったのか。

分からなかった。

分からないことばかりだった。

ファーストコンサートから、ちょうど一か月が経った日。

理沙のスマホに、島崎からメッセージが届いた。

<動画、見ましたか>

それだけだった。

理沙は、すぐにマリア・エレーナの公式アカウントを開いた。

新しい動画が投稿されていた。

タイトルは短かった。

マリア・エレーナから皆さまへ。

投稿日は、その日。

ただし、動画の説明欄には、録画日は六月初旬と書かれていた。

理沙は、しばらく再生ボタンを押せなかった。

押したくない。

けれど、見ないわけにはいかなかった。

指先で画面に触れる。

動画が始まった。

映っていたのは、病院の一室のような場所だった。

白い壁。

白いカーテン。

小さなサイドテーブル。

窓際に置かれた花瓶。

けれど、大きな総合病院という感じではなかった。

もっと小さく、静かな場所。

地方の診療所の個室のようにも見えた。

映像は、スマホで撮られたようだった。

大きく揺れてはいない。

けれど、スタジオで撮った映像のような作り込まれた感じもない。

その自然さが、かえって本物らしく見えた。

ベッドの上に、マリア・エレーナが座っていた。

パジャマ姿だった。

化粧はしていなかった。

髪も、ステージのときのようには整えられていない。

けれど、血色はよかった。

顔色も悪くない。

目にも力がある。

少し痩せたようにも見えるが、病み上がりの人としては元気そうだった。

理沙は、胸の奥が冷えていくのを感じた。

元気そうに見える。

それが、残酷だった。

画面の中のまりあは、少しだけ照れたように笑った。

「お久しぶりです」

声は、少しかすれていた。

けれど、弱々しいというほどではなかった。

聞き慣れた、まりあの声だった。

理沙は、手の中でスマホを握りしめた。

「ファーストコンサートから、もうすぐ一か月になります」

まりあは、言葉を選ぶように、ゆっくり話し始めた。

東京ドームスタジアムに来てくれた人たちへの感謝。

同時配信を見てくれた人たちへの感謝。

メッセージを送ってくれた人たちへの感謝。

歌を聴いてくれた人たちへの感謝。

一つ一つの言葉は、丁寧だった。

いつものまりあらしい話し方だった。

「ちょっと事情があって、あの日のあとから、しばらく静養していました」

窓の外から、やわらかい風が入ってきた。

カーテンが、ほんの少し揺れる。

まりあの髪も、少しだけ揺れた。

動画の中だけ、穏やかな時間が流れているように見えた。

「あまり、いい声ではないと思います」

まりあは、小さく笑った。

「実は、ちょっと問題がありました」

そこで、少しだけ間が空いた。

「喉のことです」

詳しい病名も、経緯も語られなかった。

ただ、コンサート後に喉に深刻な問題が起きたこと。

医師と相談していること。

当面、歌うことは難しいこと。

そのようなことを、淡々と話した。

そして、少しだけ視線を落としたあと、まりあは言った。

「歌うことは、もうできないと思います」

理沙は、息を止めた。

それは、嘘だった。

少なくとも、真実ではなかった。

歌えないのではない。

もう、いない。

けれど、画面の中のまりあは、生きているように見えた。

歌えなくなった歌手として、そこにいた。

その後、まりあは話題を変えた。

診療所の近くの風景について。

朝になると、遠くで鳥の声が聞こえること。

窓から見える木々の葉が、風でよく揺れること。

近くに小さな川があるらしいこと。

夜は、とても静かなこと。

けれど、具体的な場所は言わなかった。

都道府県も、病院名も、町の名前も。

何も語られなかった。

まるで、どこかにいるようで、どこにもいない場所だった。

「一年近くの間、応援してくださって、ありがとうございました」

まりあは、画面に向かって深く頭を下げた。

「私は、本当に幸せでした」

その言葉を聞いたとき、理沙は、まりあの顔から目を離せなくなった。

幸せでした。

過去形だった。

「歌うことが好きでした」

まりあは続けた。

「自分の歌を、誰かが聴いてくれることが、こんなに嬉しいものだとは思っていませんでした」

声は、穏やかだった。

少しかすれていても、言葉ははっきりしていた。

「今は、少し休みます」

そして、最後にまりあは、少しだけ意味深に笑った。

「いつかまた、どこかでお会いしましょう」

一拍置いて、彼女は言った。

「では、その日まで」

動画は、そこで終わった。

画面が暗くなる。

理沙は、しばらく動けなかった。

何を見せられたのか、すぐには分からなかった。

いや、分かっていた。

分かっているからこそ、身体が動かなかった。

死んだはずのまりあが、生きていることにされていた。

マリア・エレーナは、歌えなくなった歌手として、ファンに別れを告げた。

世間にとっては、それで一つの物語になる。

突然消えたのではない。

死んだのでもない。

喉を痛め、静養し、歌えなくなった。

だから、表舞台から去る。

そういう話になった。

理沙は、スマホを握ったまま、小川の番号を呼び出した。

通話ボタンを押す。

呼び出し音は、ほとんど鳴らなかった。

小川は、すぐに出た。

まるで、理沙から連絡が来ることを分かっていたようだった。

「大嶋さん」

小川の声は低かった。

「小川さん」

理沙は、自分の声を抑えようとした。

怒鳴りたくはなかった。

泣きたくもなかった。

けれど、胸の奥からこみ上げてくるものがあった。

怒りなのか。

悲しみなのか。

それとも、もっと別のものなのか。

自分でも分からなかった。

「あの動画」

理沙は、静かに言った。

「はい」

小川も、短く答えた。

理沙は、少し息を吸った。

「HALUCAが関わって作ったものですか?」

電話の向こうで、沈黙があった。

長い沈黙だった。

小川は、すぐには答えなかった。

その沈黙の長さが、ほとんど答えのようにも思えた。

やがて、小川が言った。

「肯定も否定もしません」

理沙は、目を閉じた。

その言葉は、否定ではなかった。

けれど、肯定でもない。

小川の声は、感情を殺していた。

それでも、その奥に、疲れた痛みのようなものが残っていた。

理沙は、何も言えなかった。

動画の中のまりあの最後の言葉が、耳に残っていた。

いつかまた、どこかで。

では、その日まで。
ありがとうございます。
ではこの修正版の試し書きをもとに、小説化をお願いします。
はい。
修正版の試し書きをもとに、002-31「病室から」を小説化します。
マリア・エレーナが“死んだ”のではなく、“歌えなくなって去った”ことにされていく不気味さと、それを知る理沙の怒りと悲しみを中心に描きます。

---

# 002-31 病室から

マリア・エレーナについての話題は、その後も続いていた。

東京ドームスタジアムでのファーストコンサートの感想。

立体プロジェクターによる演出への驚き。

「Next Frontier」を生で聴けたことへの興奮。

「他人の不幸は蜜の味」という、タイトルの分からない新曲への反応。

そして、次のリリース曲や次のライブへの期待。

ファンたちは、まだ余韻の中にいた。

あの夜を実際に見た人たちは、それぞれの言葉で感想を書き込んでいた。

同時配信で見た人たちも、短い動画や切り抜きに反応し続けていた。

マリア・エレーナは、確かに一夜で大きな存在になった。

けれど、コンサートの日を境に、公式の情報は止まった。

新しい告知はない。

本人からのメッセージもない。

HALUCAの公式アカウントも、コンサートへの感謝を短く投稿したきり、目立った更新をしなかった。

最初の数日は、それほど問題にはならなかった。

大きなイベントの直後なのだから、少し休んでいるのだろう。

そう受け止める人が多かった。

しかし、一週間が過ぎ、二週間が過ぎても、新しい情報は出なかった。

その沈黙は、少しずつ別のものに変わっていった。

最初は、心配だった。

体調を崩したのではないか。

声を痛めたのではないか。

過密スケジュールだったのではないか。

そういう書き込みが増えていった。

けれど、やがて別の憶測も混じり始めた。

マリア・エレーナは、本当に実在する歌手だったのか。

東京ドームに登場した人物は、本人だったのか。

そもそも「本人」とは何なのか。

立体映像も、音声処理も、あまりに完成度が高すぎた。

会場に出てきた歌手も、巧妙に用意された替え玉で、歌声は事前に作られたものだったのではないか。

あのファーストコンサートは、人間の歌手のライブではなく、HALUCAが作り上げた巨大なプロジェクトだったのではないか。

そんな書き込みを、理沙は何度も見た。

画面を閉じればいい。

見なければいい。

そう思うのに、気づくとまた見ていた。

違う。

そう言いたかった。

まりあはいた。

片岡・エレーナ・まりあという、一人の女性がいた。

HALUCAのオフィスで、緊張しながらマイクの前に立っていた。

自分の部屋で赤ワインを飲みながら、「他人の不幸は蜜の味」を聴いていた。

東京ドームのステージで、五万人の前で歌っていた。

けれど、理沙は何も言えなかった。

柴原に言われたからだけではない。

何かを書き込めば、まりあの死を、もう一度世の中に差し出すことになる。

それが怖かった。

ある日の夜、理沙は一つの書き込みを見つけた。

短い文章だった。

マリア・エレーナは亡くなっている。

それだけだった。

理沙は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。

しばらく、画面から目を離せなかった。

誰が書いたのか。

どこから知ったのか。

理沙はすぐに、湯浅、フィリップ、島崎に連絡した。

三人からの返事は、思ったより早かった。

自分ではない。

そんなことは書いていない。

誰にも話していない。

三人とも、そう答えた。

理沙は、もう一度その書き込みを見ようとした。

けれど、すでに消えていた。

削除されたのか。

本人が消したのか。

誰かに消されたのか。

分からなかった。

次の日にも、似たような書き込みが出た。

今度は少し具体的だった。

マリア・エレーナはコンサートの日の夜に事故に遭ったらしい。

理沙は息を止めた。

しかし、その書き込みも、しばらくすると消えた。

拡散されるかと思えば、何事もなかったように静まる。

また誰かが書く。

また消える。

広がりそうになる。

また消える。

それが、何度か繰り返された。

理沙は、そのたびに画面の前で固まった。

真実が漏れている。

けれど、真実は表に出ない。

出ようとすると、すぐに何かに押し戻される。

目に見えない手が、情報の流れを整えているようだった。

柴原がHALUCAで言った「外には出さない」という言葉を、理沙は思い出した。

あれは、お願いだったのか。

それとも、もう決まっていたことを、理沙たちにも守らせるための確認だったのか。

分からなかった。

分からないことばかりだった。

ファーストコンサートから、ちょうど一か月が経った日。

理沙のスマホに、島崎からメッセージが届いた。

<動画、見ましたか>

それだけだった。

理沙は、すぐにマリア・エレーナの公式アカウントを開いた。

新しい動画が投稿されていた。

タイトルは短かった。

マリア・エレーナから皆さまへ。

投稿日は、その日。

ただし、動画の説明欄には、録画日は六月初旬と書かれていた。

理沙は、しばらく再生ボタンを押せなかった。

押したくない。

けれど、見ないわけにはいかなかった。

指先で画面に触れる。

動画が始まった。

映っていたのは、病院の一室のような場所だった。

白い壁。

白いカーテン。

小さなサイドテーブル。

窓際に置かれた花瓶。

けれど、大きな総合病院という感じではなかった。

もっと小さく、静かな場所。

地方の診療所の個室のようにも見えた。

映像は、スマホで撮られたようだった。

大きく揺れてはいない。

けれど、スタジオで撮った映像のような作り込まれた感じもない。

その自然さが、かえって本物らしく見えた。

ベッドの上に、マリア・エレーナが座っていた。

パジャマ姿だった。

化粧はしていなかった。

髪も、ステージのときのようには整えられていない。

けれど、血色はよかった。

顔色も悪くない。

目にも力がある。

少し痩せたようにも見えるが、病み上がりの人としては元気そうだった。

理沙は、胸の奥が冷えていくのを感じた。

元気そうに見える。

それが、残酷だった。

画面の中のまりあは、少しだけ照れたように笑った。

「お久しぶりです」

声は、少しかすれていた。

けれど、弱々しいというほどではなかった。

聞き慣れた、まりあの声だった。

理沙は、手の中でスマホを握りしめた。

「ファーストコンサートから、もうすぐ一か月になります」

まりあは、言葉を選ぶように、ゆっくり話し始めた。

東京ドームスタジアムに来てくれた人たちへの感謝。

同時配信を見てくれた人たちへの感謝。

メッセージを送ってくれた人たちへの感謝。

歌を聴いてくれた人たちへの感謝。

一つ一つの言葉は、丁寧だった。

いつものまりあらしい話し方だった。

「ちょっと事情があって、あの日のあとから、しばらく静養していました」

窓の外から、やわらかい風が入ってきた。

カーテンが、ほんの少し揺れる。

まりあの髪も、少しだけ揺れた。

動画の中だけ、穏やかな時間が流れているように見えた。

「あまり、いい声ではないと思います」

まりあは、小さく笑った。

「実は、ちょっと問題がありました」

そこで、少しだけ間が空いた。

「喉のことです」

詳しい病名も、経緯も語られなかった。

ただ、コンサート後に喉に深刻な問題が起きたこと。

医師と相談していること。

当面、歌うことは難しいこと。

そのようなことを、淡々と話した。

そして、少しだけ視線を落としたあと、まりあは言った。

「歌うことは、もうできないと思います」

理沙は、息を止めた。

それは、嘘だった。

少なくとも、真実ではなかった。

歌えないのではない。

もう、いない。

けれど、画面の中のまりあは、生きているように見えた。

歌えなくなった歌手として、そこにいた。

その後、まりあは話題を変えた。

診療所の近くの風景について。

朝になると、遠くで鳥の声が聞こえること。

窓から見える木々の葉が、風でよく揺れること。

近くに小さな川があるらしいこと。

夜は、とても静かなこと。

けれど、具体的な場所は言わなかった。

都道府県も、病院名も、町の名前も。

何も語られなかった。

まるで、どこかにいるようで、どこにもいない場所だった。

「一年近くの間、応援してくださって、ありがとうございました」

まりあは、画面に向かって深く頭を下げた。

「私は、本当に幸せでした」

その言葉を聞いたとき、理沙は、まりあの顔から目を離せなくなった。

幸せでした。

過去形だった。

「歌うことが好きでした」

まりあは続けた。

「自分の歌を、誰かが聴いてくれることが、こんなに嬉しいものだとは思っていませんでした」

声は、穏やかだった。

少しかすれていても、言葉ははっきりしていた。

「今は、少し休みます」

そして、最後にまりあは、少しだけ意味深に笑った。

「いつかまた、どこかでお会いしましょう」

一拍置いて、彼女は言った。

「では、その日まで」

動画は、そこで終わった。

画面が暗くなる。

理沙は、しばらく動けなかった。

何を見せられたのか、すぐには分からなかった。

いや、分かっていた。

分かっているからこそ、身体が動かなかった。

死んだはずのまりあが、生きていることにされていた。

マリア・エレーナは、歌えなくなった歌手として、ファンに別れを告げた。

世間にとっては、それで一つの物語になる。

突然消えたのではない。

死んだのでもない。

喉を痛め、静養し、歌えなくなった。

だから、表舞台から去る。

そういう話になった。

理沙は、スマホを握ったまま、小川の番号を呼び出した。

通話ボタンを押す。

呼び出し音は、ほとんど鳴らなかった。

小川は、すぐに出た。

まるで、理沙から連絡が来ることを分かっていたようだった。

「大嶋さん」

小川の声は低かった。

「小川さん」

理沙は、自分の声を抑えようとした。

怒鳴りたくはなかった。

泣きたくもなかった。

けれど、胸の奥からこみ上げてくるものがあった。

怒りなのか。

悲しみなのか。

それとも、もっと別のものなのか。

自分でも分からなかった。

「あの動画」

理沙は、静かに言った。

「はい」

小川も、短く答えた。

理沙は、少し息を吸った。

「HALUCAが関わって作ったものですか?」

電話の向こうで、沈黙があった。

長い沈黙だった。

小川は、すぐには答えなかった。

その沈黙の長さが、ほとんど答えのようにも思えた。

やがて、小川が言った。

「肯定も否定もしません」

理沙は、目を閉じた。

その言葉は、否定ではなかった。

けれど、肯定でもない。

小川の声は、感情を殺していた。

それでも、その奥に、疲れた痛みのようなものが残っていた。

理沙は、何も言えなかった。

動画の中のまりあの最後の言葉が、耳に残っていた。

いつかまた、どこかで。

では、その日まで。
ありがとうございます。
では400字程度で、この文章のあらすじの作成をお願いします。
### 002-31「病室から」あらすじ

マリア・エレーナのファーストコンサート後も、世間では彼女への関心が続いていた。
しかし公式情報が止まったことで、体調不良説や、そもそも実在しない歌手だったのではないかという憶測が広がり始める。
やがて「マリア・エレーナは亡くなっている」という書き込みが現れるが、すぐに消され、同じような情報が出ては消える状態が続く。
真実を知る理沙は何も言えず、不気味な情報統制を感じる。
ファーストコンサートから一か月後、マリア・エレーナの公式アカウントに新しい動画が投稿される。
そこには病室のような場所でパジャマ姿のまりあが映り、ファンへの感謝と、喉の問題でもう歌えないことが語られていた。
世間には彼女が生きて静養しているように見える内容だった。
動画を見た理沙は小川に電話し、HALUCAが関わったものかと問う。
小川は沈黙の後、「肯定も否定もしません」と答える。
ありがとうございます。
ではまた日を改めて、2章最後の002-32の文章を作成します。
こちらこそ、ありがとうございました。
002-31では、亡くなったはずのまりあが「病室からのメッセージ動画」によって、世間には“歌えなくなって去ったマリア・エレーナ”として扱われるところまで進みましたね。

次回はいよいよ **002-32「伝説の歌手」**、第2章の最終節ですね。
理沙が旅立つ場面、成田空港でマリア・エレーナのPVを眺める場面、そして第3章へ向かう余韻を作る締めくくりになりそうです。



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