001_06_昼の世界の理沙、清潔なオフィス、単調な仕事とうわべだけの人間関係

朝のオフィスは静かだった。

大きな窓から均一な光が差し込み、
白い机の列を照らしている。

理沙は席に座り、画面を開いた。
作業は毎日同じだった。

データの一覧が表示される。
その中から指定された項目を選び、
「Import」のボタンを押す。

それだけだった。

ボタンを押すと、大量のデータがシステムに取り込まれる。
画面の中では線が現れる。

一つの点と点が線で結ばれる。
しばらくするとその線は消え、また別の線が引かれる。
それが何度も繰り返される。

やがて画面の中には、網の目のような構造が出来上がっていく。
それはデータモデルと呼ばれるものだった。

完成すれば、巨大なナレッジになる。
システムが判断をするための基礎になる。

そう説明されたことはある。

けれど、その過程はひどく単調だった。

理沙はその仕組みを完全には理解していない。
ただ、指定された作業を繰り返しているだけだった。

作業を続けていると、時間の感覚が少し曖昧になる。
キーボードの音。
遠くで動く空調の音。

オフィスはいつも清潔だった。

温度は一定に保たれている。机も床も整っている。

就職活動のときに見た求人広告には、
「清潔でクリエイティブな職場」と書かれていた。

その言葉は間違ってはいなかった。

確かにここは清潔だった。
そして、空調の効いた快適な場所だった。

社員食堂の食事も悪くない。

ただ、それだけだった。

理沙は作業の手を止め、少しだけ顔を上げる。
広いオフィスの中には、同じように机に向かう人たちが並んでいる。

誰もほとんど話をしていない。

しばらくして、理沙は隣の席の女性に声をかけた。

「そういえば、目の前の席の子、最近見ないね」

女性は画面から目を離さないまま答えた。

「昨日付で辞めたよ」

キーボードを打つ音は止まらない。
理由についての説明はなかった。
女性は小さく笑う。

それ以上は話す必要のないことのようだった。
理沙もそれ以上は聞かなかった。
再び画面に目を戻す。

データの線がまた組み替わっている。

やがて夕方になる。

終業時刻になると、
隣の席の女性はすぐに作業を止めた。

「お先」

短く言うと立ち上がる。

その後は早かった。

数分も経たないうちに、
広いオフィスから人の姿が消えていく。

椅子だけが整然と並んでいる。

理沙も画面を閉じる。

作業ツールをバッグに入れ、
席を立った。

エレベーターで下へ降りる。

外に出ると、
夕方の空気が少しだけ温かかった。

理沙は駅の方向へ歩き始める。
そしてそのまま、赤坂へ向かった。

**Shangri-la**へ。



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