あらすじ_14_10


体が徐々に冷たくなって、動けなくなっていくのがわかっていても、理沙はどうにもできなかった。かえって意識が遠のくのを気持ちよく感じ、
夢を見ているような気分になってきた。周囲の視野が徐々にぼやけてゆき、幻覚のように白いもやのなかに体が包まれている感覚。
遠くで会話している声が聞こえてきた。徐々にはっきりしてきて、人物像も見えてきた。メンタル女と司令官が何か議論しているようだった。
つい最近理沙も見た、タイタン基地の司令官のオフィスの風景だった。メンタル女は自分が取り組もうとしている実験のリスクについて司令官に説明し
もしなにか想定外の事態が発生した場合の責任の所在について議論をしていた。理沙が読んだメンタル女の残した記録メモの通りのことが
目の前で起きていた。それともこれは過去の出来事の再現なのか。理沙の目の前で起きていることは、メンタル女が到達した結論、つまり、
中枢システムの多重記憶パターンに起因する現実世界への影響、現実とあるべき世界とのギャップにより事故が発生する可能性の指摘だった。
理沙の目の前には目に見えない壁のようなものがあった。過去は見る事ができても変えることはできず、理沙の願いは届かない。



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