あらすじ_20_08

次の当直が終わると、理沙は会議室で大気探査船からの映像を見続けた。木星上での現在位置を示すガイド表示上では既に8万キロ飛んでいたが
木星赤道上の5分の1に満たない距離だった。自転周期が10時間に満たないので飛行中に昼と夜を何度も体験し、夜の風景は非常に神秘的だった。
レーダーによる走査でできるだけ気流の激しくない場所を飛んでいるため、雲からはかなり離れたところにいるのだが、雲の中での雷は
辺り一面を時々明るく照らした。強烈な雷のエネルギーは地球の雷とは比較にならない。雷鳴も水素とヘリウムの大気の中では異様に感じられる。
そろそろ自分の部屋に戻ろうと思った時に、直子が会議室に入ってきた。夜が明けて前方から太陽が昇るのを眺める。
ふとBGMが欲しいと思った理沙は、管制室の交信の音声を止めて、ライブラリーからちょうどよいと思われるBGMを探して流した。
ゆるやかだがスケールの大きさを感じさせる音楽は、この風景を想像して作ったものなのか。想像の世界の中での木星の空には
風船のような巨大な生物が浮遊し、エイのような生物が自由に飛び回っていた。理沙は雲の中から生物が突然に現れそうな錯覚に襲われた。



あらすじ(20)表紙へ