星の寿命

星の寿命は、星の質量の3乗に反比例する。
太陽の寿命は約100億年とされており、そのため、太陽の2倍質量の恒星の寿命は、8分の1の約12億年ということになる。
太陽の10倍の恒星では寿命は約1000万年となり、20倍となると100万年と少々、巨大な星ほど極端に短命である。
星の形成は水素を含むガスが重力により収縮することから始まり、収縮したガスはさらに周囲のガスを取り込み成長する。
収縮した中心部の温度が核融合反応を始めるのに十分な温度になると、星は光り輝き誕生する。
星が巨大になるほど、星の中心部分の核融合反応は激しくなり、核融合反応により星の成分のほとんどを占める水素は、
ヘリウムに変換され、星の中心部分ではヘリウムのコアが成長する。
ヘリウムのコアは成長し中心部分の温度がさらに上昇すると、ヘリウムの核融合反応が始まり、
炭素と水素を生成するようになる。
巨大な質量の恒星になるほど、元素の変換・生成反応は急速に進み、重い元素が次々に中心部で生成される。


20世紀の終わりの頃から急成長を始めた中国は、21世紀になるとその勢いをさらに加速し、
巨大な労働力と、国民の購買力、高度な技術力に支えられ、外へ外へと成長を続けた。
成長を続けることが、生き続けるための必要条件であり、立ち止まることは許されない。
国家中心の幹部政治家の思いがダイレクトに政策につながり、
政治闘争にあけくれる民主主義国家を横目で見ながら、中国は急成長を続けた。
当然のこととして、国民ひとりひとりの思いは、全体主義国家の中では制限され、
政策に意見することについては厳しく禁止された。
民主主義国家であれば、大規模なストライキ、議会へのデモ行進活動で民意を示すこともできるが、
高度にシステム化された、国民ひとりひとりに対する強固な監視体制に支えられて、反乱の芽はことごとく潰された。
また、生活の不安が払しょくされ、生活サービスが充実し、賃金が増えている世の中であれば、不満はない。
国内に対しては安定した生活。国外に対しては強固な軍事力を背景とした発言力。
それらの裏付けに支えられ、中国は勢力範囲を広げていった。


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重い元素が次々に生成され、恒星の中心コア部分には、生成された元素が層のような状態になり重なっていった。
ヘリウムのコアは、核融合反応により炭素や酸素を生成し、さらに中心部分の温度は上昇した。
太陽程度の恒星であれば、ここまでの反応で元素変換の反応は止まり、その後は中心部の温度上昇により
星全体の膨張、その後はゆるやかに巨星の状態を経て、最後には外側のガスの部分を吹き飛ばして中心コアのみが
白色矮星として残ることになるが、質量の大きな星にはまだその先の元素変換の反応が続く。
温度上昇により炭素や酸素の核融合反応が始まり、ネオン、続いてケイ素が生成され、
中心部分の温度が20億度から30億度になると、中心部分の構造は、ケイ素の中心部から周囲にネオン、酸素、炭素、
ヘリウムが取り巻く玉ねぎのような層の状態になる。


勢力範囲を拡大し、さらに膨張する中国。
強固な軍事力により、触手を周囲の海洋に伸ばし、資源を貪欲に吸い上げていった。
南シナ海、インド国境においては周辺国と軍事的衝突を引き起こし、台湾海峡では突然の上陸作戦により島が占領され、
台湾海峡を超えて東へ向けての進出が始まり、いくつかの島が占領された。
米軍基地ある沖縄まで触手を伸ばすことはなかったものの、
海上では揚陸艦、空母が待機し、いつでも上陸作戦が実行可能な状態。
占領された島では電撃的な勢いで生活インフラが構築され、実効支配された。
海外に向けては強硬な態度で臨んでいる中国だったが、国内においては徐々に衰退の兆候が現れ始めていた。
衛星からの高解像度の画像、また、慎重に中国国内に送り込まれた諜報員の活動により、
国内の疲弊した状態が国外に伝えられた。
15億人になろうとしている中国は、急速な高齢化により労働力人口が急激に減少していた。
20世紀に国策として行われた産児制限により、2030年代を過ぎるといびつになりすぎた人口構成の弊害があらわになった。
2020年代に制限は徐々に緩和されたものの、豊かな生活に満足してしまった国民の考えを変化させるのは困難な事だった。
婚姻数は減少し、その数値は直接に出生数の減少につながり、
親世代が高齢化するとともに、社会保障費は増大。
そのしわ寄せは労働者世代に一気にのしかかった。
少なくなる一方の若年層、豊かな生活に味をしめてしまった労働者層、労働者層に支えられている高齢者層。
各年代は自分たちの置かれている立場に不満を抱き、各年齢層は互いに対立を深めていった。


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ケイ素の中心核をもつようになった恒星は、さらに中心部の温度を上昇させ、
40億度を超える頃になると、中心部に鉄を生成するところまで元素変換反応が進行した。
鉄の中心核ができるようになると、元素変換はそれ以上は進行しなくなった。
鉄は安定した元素であり、鉄が核融合反応を起こすことはない。
しかしながら中心部のへの圧力はさらに高まり、中心部の温度はさらに上昇した。
鉄のコアの温度が100億度になると、今までとは違う反応が起きることになる。


1つの国家を構成しているといわれている中国だが、実体は多民族の国家であり、
モンゴル、ウイグル、チベットなどの自治区は、軍事力により強制的に中国に取り込まれた別国家である。
貴重な地下資源を持ち、地政学的に重要な地域であるその3つの地域は、強制的に中国化が行われ、
強制的支配は、ある程度は成功した。
しかしながら人の心の中までは完全に支配することは不可能である。
国内を統合する強大なシステムにより、国民ひとりひとりを統制し、国民も安定した生活に満足しとりあえずは納得した。
しかし、2040年代になると、その強固な体制にもほころびが見え始めていた。
国内の、飽きる事を知らない膨大なエネルギー需要、衣食住の需要に対応するために、
国内での生産で足りない分は、全世界からの大量の輸入に頼っていた。
国家経済が成長を続ける限りは問題は全くないのだが、
成長の限界が見え始めると、徐々に国内の需要に対応することが難しくなってきた。
不満が徐々に、くすぶる火種のように国民の心の中で成長を始めた。
その不満を口にするならば、すぐに当局に連行され拷問されることを知っているので、皆黙っていたが、
沈黙はどす黒い雲のように国内を漂い、重くのしかかっていた。
国民の心理状態を分析、調査すべく、国を支えるシステムの中にあるルーチンが密かに組み込まれた。
見えないどす黒いものを可視化し、行動に起こそうとする者は、行動を起こす前に逮捕された。
逮捕はある日突然に行われ、逮捕者は国民台帳の中から抹消され、元々存在しない者とされた。
しかし、まったく思いもよらない単純な手法で、その強固な体制は一気に崩された。


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鉄の中心核は、元素変換反応が進むことはなかったが、100億度を超えたところで、原子核の分解反応が起きる事になる。
鉄の原子核はばらばらに分解し、中心部の圧力は急激に低下し、コア部分が一気に収縮した。
支えるものがなくなった中心核は、一気に収縮したことにより反発して大爆発を起こした。
超新星爆発である。
太陽程度の恒星が、コア周辺部分のガスをゆるやかに放出して白色矮星になるのに対して、
超新星爆発は、中心核含めてすべてを一気に吹き飛ばし、膨大なエネルギーが一瞬にして発生する。
中心部に残るのは、中性子星、さらにコア収縮が強烈な場合には、中心部にブラックホールが残される。


ある日突然に、中国の活動が停止した。
生活は表向きは普段通りに見えたが、社会インフラを支える中核システムが、すべて停止した。
国民の気持ちを汲み上げ、分析し、可視化するためのシステムは活動を停止し、
連動して社会インフラを支えるシステムも、何の前触れもなく突然に機能停止した。
生活は混乱し、社会のあちこちで混乱する人々が慌てふためいた。
国民は自分たちを監視し、拘束するものの実体を知らないので、混乱して慌てても当局が全く手を付けられないのを見て、
自身の思いだけで勝手に行動を始めた。
当局もシステムが停止したので統制された行動をとれないでいた。
一人一人の勝手な行動に、当局は暴力で対応した。
しかし、国民の行動は大きな雪崩のようになって止められない。
3つの周辺自治区ではさらにその動きは激しいものとなった。
統制のとれていない当局は民衆と衝突し犠牲者が多数出た。
中央政府は軍を投入して混乱を収束させようとするものの、その中央政府も内部分裂を始めていた。


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超新星爆発のような大爆発を起こして、中国は分裂した。
3つの周辺自治区は、協力する周辺国の力も借りて独立する道を選んだ。
国家を構成する各省については、混乱に乗じて覇権を狙おうとする各地方政府が、中央政府に反旗を翻した。
経済的に豊かな沿岸の省は、独立して小国家を形成する道を選んだが、
その動向には海外の企業の思いも多少入り込んでおり、民主化に向けての手続きが慎重に進められた。
北京を中心とした3つの省が、最後までしぶとく残ったが、
中国共産党の残骸の集まりのような存在となっており、中央集権時代の強固な集団ではなくなっていた。
騒乱により居住地域は荒廃し、中華人民共和国創建時の貧しい状態に戻った。
いくつかの国に分裂し、中国はいわば三国志の頃の状態になってしまった。


中国は以前の強力な中央集権国家ではなくなってしまったが、超新星爆発が鉄よりも重い元素や貴金属を生み出したように、
混乱した状態の中国国内から、たくさんの優秀な技術者が国外に脱出した。
1つの国が突然に消滅したことで、全世界が多大な影響を被ることになったが、徐々に回復が始まり、
世界各国は、国外脱出した技術者たちを喜んで迎え入れた。
木星資源開発タスクでも同様に、中国の技術者獲得に動き始めた。



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