人生逆転のチャンス:「暗黒水域」から得たヒント
「暗黒水域:知られざる原潜NR-1」より
リー・ヴィボニー&ドン・デイヴィス:著 三宅真理:訳
ISBN4-16-365620-0
この本は、アメリカ最初の海洋調査を目的に建造された、小型原子力潜水艦とその活躍に関する物語で、
著者は、この潜水艦の第一期の乗組員です。物語は潜水艦が建造された経緯から始まり、
主人公がこの潜水艦乗組員になるための訓練課程、潜水艦が進水したあとの様々な活躍について記されています。
軍所属の潜水艦であるゆえ、極秘ミッションがほとんどで、物語中にはその内容は記されていませんが、
かなりの制約はあるものの、深海で活躍するNR-1の物語は、夢中になってあっというまに読み終えてしまいました。
この本の内容と、私が書いた理沙についてのお話と、いったいどんな関係があるのか?
木星・土星を探査した、宇宙船「エンデヴァー」のお話を作るにあたって参考にした、
確かに、似ているところはありますが、実際に参考になったのはこの本のごくごく一部。
潜水艦とはほとんど関係のない部分になります。まったく関係がないわけではありませんが。
著者は、潜水艦NR-1に乗船するにあたり、まずは軍の潜水士学校でのトレーニングに臨むことになりました。
潜水艦に乗船する者として、必要なトレーニングではあるものの、潜水士学校に到着したときに、
あたりのクラスメートを見渡すと、まわりは自分と違っていかにも潜水士エリートのような輩ばかり。
本の中での表現を引用するのであれば、
「彼らは揃いも揃って大柄でたくましく、半分魚なのではないかと思うほどに海の水になじんでいた。そのなかには
すでに上級潜水士や深海サルヴェージ専門の潜水士に選ばれている者や、エリート・コマンドである海軍特殊部隊(SEAL)
の候補生で、全身に"ヴェトナム"の判が押してあるような猛者もいた」といったところ。
そんな中で主人公と同僚含めた3人は、軍技術者として参画した異端児のようなもの。
完全アウェーの状態からのスタートになってしまいました。
過酷な訓練の毎日、昼も夜も苦行のような訓練に明け暮れて、心折れそうになっていたところ、
主人公のちょっとした気づきが、モチベーションを一気に変える事になりました。
あるとき、主人公は教官の一人に、この学校での成績がどのように決定されるのか尋ねたところ、
成績の75パーセントは、教室で学んだこと、潜水に関する授業内容に関する筆記試験により決定され、
泳ぎや潜水のトレーニングでの成績は、わずか25パーセントであることを知り、自分たちに勝てるチャンスがあると悟り、
同僚に教官から得た情報を伝え、とにかく筆記試験でいい成績をおさめることに注力し、
泳ぎと潜水に関しては、ただ課題の達成を考えればいいという事。つまりは「ただやりとげればいい」
結果として、主人公と同僚3人チームは、卒業時に成績上位3位までを独占するという結果に至りました。
理沙の技術士官学校での経験は、この主人公の経験をもとにして書きました。
体力的にも明らかに勝ち目のない、軍隊経験者のクラスメートに囲まれて、彼女は明らかに完全アウェー状態。
早朝からのトレーニングと、軍事訓練、そして午後からの技術講義、夕方から夜にかけての軍事訓練。
ようやく床についたと思ったら、彼女のことを好ましく思わないクラスメートからの執拗ないじめ。
唯一心のよりどころとなったのは、同じチームの2人の同僚。しかし、一般人出身でいかにも頼りない。
その人選は、その後意図的にそのようにチーム分けされたのだということを、理沙は教官から知らされる事になるのですが。
理沙は身も心も疲れ果てて、それでも気持ちを切り替えて教官に、
この士官学校での成績は、どのように決定されるのか尋ねたところ、技術講義での学んだことに関する筆記試験の成績が
重要視されるということを聞き出し、自分たちが勝てるチャンスがあるということを知りました。
毎日の過酷なトレーニングは、それほど成績が良くなくてもいい。
とにかく、課題をこなして、途中で投げ出さずにやりとげればいい。3人で励まし合いながら筆記試験に向け突き進みました。
軍事訓練では、軍隊経験者の体格の違い過ぎるクラスメートと、生きるか死ぬかすれすれの格闘訓練をすることになりますが、
冷静な気持ちの理沙は、モチベーションの点でははるか上を行っていて、
弱いところを見せながらもスキをついて急所を突く戦法で、戦闘訓練で奇跡の勝利を得る事になりました。
そして、卒業試験での成績は、理沙の3人チームが成績トップ3位までを独占するという結果となり、
士官学校首席の立場を獲得し、軍での幸先のよいスタートを切る事ができました。
体格では数倍も優っているクラスメートたちを、今度は自分たちが見返す立場になり、颯爽と歩いてゆく理沙。
世の中にはいろいろな成功物語がありますが、
一発逆転の物語もまぁいいでしょう。でも本当の逆転のチャンスというものはちょっとした気づきと、
強烈なモチベーションあって成立するものだと思っています。宝くじで大金持ちというのは理沙には当てはまらない。
これが、私が「暗黒水域」から得た理沙に関するアイディアです。