では、002-05の試し書きをしてみました。
もう少し内容を膨らませようかと思いましたが、とりあえずはこの程度にしました。
●002-05【試し書き】:突然のスカウト
月に一度のワンマンライブの日。
理沙がはじめてバンドに加わってから6回目のライブ。
観客も、当初は収容人数100人のライブハウスの半分程度だったのが、
今回は7割がた埋まっているといったところか。
ステージ目の前の席にいる観客は、いつも同じような面子、
ようやくコアなファンができたなと、理沙は思った。
定刻になり、ライブを始める。
湯浅が作詞作曲したアップテンポな曲で始める。理沙がバンドに参加して2回目の時から歌っている曲である。
そのあとは、同じくアップテンポな曲が2曲続き、理沙のMCが入る。
MC途中で少し気分が落ち着いたところで、ふと理沙が客席全体を見渡すと、
一番後ろの、壁際のところに一人の女性が立っているのが見えた。
肩までの髪、黒のビジネススーツ。
他の客に隠れて、胸までしか見えなかったが、明らかに他の客とは違った感じの女性である。
しっかりと理沙の方を見ている。
一瞬、視線が合ったような気がした。
理沙はなんとなく胸騒ぎがしたが、次の曲に移る。
「西日が差している」を歌いあげると、いったん4人はステージから去り、
アンコールで2曲ほど歌う。
今回もいい感じに盛り上がったライブだった。終わると最前席のファン数名と握手。
蛍の光が場内に流れて、観客が徐々に出口に向かってゆく。
先ほどまで握手をしていた数名のファンが、最後に出口に向かうのを見守り、
4人は機材の片づけを始める。そして理沙は再び客席の一番後ろに目を向ける。
あの黒のビジネススーツの女性がまだ立っていた。
そして彼女はステージの方に向かってゆっくりと歩いてくる。
黒のビジネススーツに、黒のスカート、ピンク色のハイヒール。
笑みを浮かべながら、ステージ上の機器の片づけをしている理沙に接近する。
理沙が彼女の方を見ると、その女性はステージのすぐ下で軽く一礼した。
「お疲れ様でした」
理沙は作業の手を止めて、彼女に小さく頭を下げる。他の3人は理沙とは少し離れた場所で静観している。
「小川と申します。あなたが理沙さん?」
「はい」
目の前に立っている先日のメールの差出人は、文章から読み取ったイメージ通り。
落ち着いた感じで、理沙が普段目にしている、いかにも普通の会社員の女性だった。
喋り方も丁寧。
「メールでいきなり失礼しました。たぶん、どうしたらいいか迷ったでしょうね」
「いえいえ、こちらこそ」
理沙は普段の仕事のときと同じように、小川に接した。
「なかなか返信できずに、こちらこそ大変失礼しました」
理沙は少し離れたところにいる3人を手招きして、近くまで呼び寄せた。
そして3人を紹介する。小川は皆に名刺を差し出した。
理沙もそうだったが、湯浅もフィリップも島崎も、みな緊張していた。
初対面での形式ばった会話が10分ほど続き、徐々に緊張がほどけたところで、小川は、
「この後、少し時間あります?」
自然と、みんなは小川のペースに巻き込まれていた。
機材の片づけが終わるまでの間、彼女は出入口のところで待っていると言った。
片づけている間、湯浅は無言だった。
フィリップはなんとなく落ち着かず、鼻歌を歌っている。
島崎は、心あらずの状態で、半ば放心状態。
そして理沙はそんな3人のことを見ながら、このあと小川がどう切り込んでくるのか、警戒していた。
|
拝読しました。
002-05は、かなり自然にまとまっていると思います。今回は「突然のスカウト」というタイトル通り、**HALUCAからのDMが、実際の人物として理沙たちの前に現れる場面**ですね。
この節の核は、次のように整理できそうです。
**Arisa-Mistyのライブが少しずつ形になり、固定ファンも増え始めている。
そのライブを、小川美奈が客席の一番後ろから見ている。
理沙は演奏中から彼女の存在に気づき、胸騒ぎを覚える。
終演後、小川は理沙たちに接触する。
彼女は強引ではなく、丁寧で普通の会社員のように見える。
だからこそ、理沙たちは逆に警戒しながらも、小川のペースに巻き込まれていく。**
とても良いと思った点は、**小川美奈が客席の一番後ろに立っている**ところです。
ステージ前で熱狂するファンではなく、一番後ろの壁際で静かに見ている。しかも黒のビジネススーツ。ここだけで、他の観客とは違う存在だと分かります。
また、理沙がMC中に客席を見渡し、ふとその女性に気づく流れも良いです。
ライブ中の理沙は表向きには歌手として振る舞っているけれど、心のどこかではずっと小川のDMが引っかかっている。だからこそ、壁際の女性を見た瞬間に胸騒ぎがする。この心理は自然です。
小川の登場もよいです。
> 目の前に立っている先日のメールの差出人は、文章から読み取ったイメージ通り。
> 落ち着いた感じで、理沙が普段目にしている、いかにも普通の会社員の女性だった。
ここは、小川美奈のキャラクターがよく出ています。
「芸能事務所のスカウト」らしい派手さではなく、むしろ現実的で会社員的。理沙の警戒心を一気に解くわけではないが、少なくとも胡散臭さはない。そこがいいです。
## 小説化前に少し整えるとよさそうな点
大きな修正は不要ですが、少しだけ整理するとさらに良くなりそうです。
まず、ライブ前半の説明は、もう少し場面として見せるとよさそうです。
観客が7割ほど埋まっていること、前列にいつものファンがいること、理沙が「コアなファンができた」と感じることは重要です。ここは数字説明だけでなく、前列の顔ぶれや拍手の感じを入れると、成長の実感が出ます。
次に、小川を見つける場面は、この節の見せ場なので少し強めてもよさそうです。
例えば、
* MC中に客席を見渡す
* いつもの顔ぶれの奥に、見慣れない黒いスーツの女性がいる
* 手拍子もせず、酒も持たず、ただ理沙を見ている
* 理沙は一瞬だけ言葉の間を失いかける
* すぐに笑顔を戻して次の曲へ入る
このくらいにすると、「胸騒ぎ」がより自然に伝わります。
また、終演後の小川との会話は、少しだけ間を取ると良いと思います。
小川が「あなたが理沙さん?」と聞く前に、理沙が相手を見て「たぶん、この人だ」と確信する一拍があると、002-01からの流れがつながります。
最後の締めはかなり良いです。
> そして理沙はそんな3人のことを見ながら、このあと小川がどう切り込んでくるのか、警戒していた。
この終わり方だと、002-06「分岐点」あるいは次の面談・話し合いにつながりやすいです。
小川のペースに巻き込まれながらも、理沙だけはまだ完全に気を許していない。これが理沙らしいです。
## 修正版にするなら
流れとしては、次の形がよさそうです。
1. 月一度のライブ当日。観客が増えていることを理沙が感じる。
2. ライブ開始。曲とMCの流れ。
3. MC中、客席後方の黒スーツの女性に気づく。
4. 「西日が差している」からアンコールまで、ライブは盛り上がる。
5. 終演後、観客が帰るなか、その女性だけが残る。
6. 小川美奈が理沙たちに名刺を渡し、丁寧に自己紹介する。
7. 四人は緊張しながらも、小川の落ち着いたペースに巻き込まれる。
8. 小川は「このあと、少し時間あります?」と切り出す。
9. 片づけの間、三人三様に動揺し、理沙は小川の次の出方を警戒する。
この方向で修正版を作ると、ほぼそのまま小説化できると思います。
|
はい、提案して頂いた流れに整理するのがよさそうですね。
では、試し書きに修正を加えたものを作っていただけますか。
|
はい。
提案した流れに沿って、002-05の試し書きを整理した修正版を作成します。
今回は、**ライブの成長感 → 小川の存在に気づく → 終演後の接触 → 四人の動揺 → 理沙の警戒**が自然につながるようにしています。
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# 002-05【試し書き・修正版】:突然のスカウト
月に一度のワンマンライブの日だった。
理沙がはじめて湯浅たちのバンドに加わってから、これで六回目になる。
最初のころ、収容人数百人ほどのライブハウスは、半分埋まればいい方だった。
ステージに立つと、客席の奥に空いた椅子がいくつも見えた。
けれど、この日は違っていた。
開演前に舞台袖から客席をのぞくと、席は七割ほど埋まっていた。
最前列には、前回も、その前も来ていた顔がいくつかある。
いつも同じ場所に座る女性二人組。
演奏が始まる前から、湯浅のギターケースを見て何か話している若い男。
後ろの方には、仕事帰りらしいスーツ姿の客もいた。
ようやく、コアなファンができてきたのかもしれない。
理沙はそう思った。
定刻になると、客席の照明が落ちた。
湯浅のギターが、最初のコードを鳴らす。
フィリップのベースがそこに重なり、島崎のドラムが軽く走る。
理沙はマイクの前に立ち、息を吸った。
一曲目は、湯浅が作詞作曲したアップテンポの曲だった。
理沙がバンドに加わって二回目のライブから、ずっと歌っている曲だ。
今ではもう、イントロが鳴っただけで前列の客が手を叩いてくれる。
そのあとも、同じくテンポの速い曲が二曲続いた。
ステージの熱が、少しずつ客席に広がっていく。
理沙の声に合わせて、手拍子がそろう。
初めて来たらしい客も、前列の動きにつられて、ぎこちなく手を叩いていた。
三曲目が終わると、理沙はマイクスタンドに手を添えた。
「ありがとうございます。Arisa-Mistyです」
拍手が返ってくる。
まだ大きな歓声ではない。
それでも、前よりは確かに温かい。
理沙は短く息を整え、いつものように次の曲の話を始めた。
その途中で、ふと客席全体を見渡した。
最前列の顔。
中央のテーブル席。
壁際に立っている客。
ドリンクを持ったまま、こちらを見ている人。
その中に、一人だけ、空気の違う女性がいた。
一番後ろの壁際。
肩までの髪。
黒のビジネススーツ。
黒のスカート。
他の客に隠れて、胸から上くらいしか見えない。
けれど、その立ち姿だけで、ライブを楽しみに来た客とは違うことが分かった。
手拍子をしているわけでもない。
酒を持っているわけでもない。
誰かと話しているわけでもない。
ただ、ステージの上の理沙を、まっすぐ見ていた。
一瞬、視線が合ったような気がした。
理沙は言葉の続きを、ほんの少しだけ見失いかけた。
けれど、すぐに笑顔を戻した。
「次の曲、いきます」
湯浅が小さく頷く。
島崎がスティックを構える。
フィリップが軽く肩を揺らす。
理沙は黒いスーツの女性のことを、いったん頭の隅へ追いやった。
ライブは、そのまま進んだ。
中盤で何曲か歌い、最後の方に「西日が差している」を入れた。
クリスマスライブのときから歌っている曲だった。
まだ理沙の中では完成していない。
けれど、この曲を歌うと、客席の空気が少し静かになる。
騒ぐのではなく、聴いてくれている。
それは、理沙にも分かった。
最後のフレーズを歌い終えると、一拍遅れて拍手が起きた。
それから音が大きくなり、ライブハウスの天井に広がった。
四人はいったんステージを降りた。
アンコールの声が続く。
まだぎこちない。
けれど、確かに声は増えていた。
理沙たちはもう一度ステージに戻り、二曲歌った。
最後の曲が終わると、湯浅が軽く頭を下げ、フィリップがベースを掲げ、島崎が眠そうな顔のまま客席に手を振った。
理沙もマイクを置き、深く一礼した。
今回も、悪くないライブだった。
終演後、最前列にいたファンが何人かステージ前まで来た。
理沙は軽く言葉を交わし、握手をした。
「また来ます」
そう言ってくれる人がいた。
「ありがとうございます」
理沙は笑って答えた。
蛍の光が場内に流れ始める。
観客は少しずつ出口へ向かっていった。
先ほどまで握手をしていた数名のファンも、名残惜しそうに振り返りながら、最後に外へ出ていく。
客席が空いていく。
椅子の隙間。
テーブルの上に残ったグラス。
床に落ちたチラシ。
照明の熱が少しずつ冷めていくステージ。
理沙は機材の片づけを始めながら、客席の一番後ろに目を向けた。
あの黒のビジネススーツの女性が、まだ立っていた。
今度は、はっきりと見えた。
肩までのナチュラルブラウンの髪。
黒のビジネススーツ。
黒のスカート。
ピンク色のハイヒール。
彼女は笑みを浮かべ、ステージの方へゆっくり歩いてきた。
フィリップが、片づけの手を止める。
島崎も顔を上げた。
湯浅はケーブルを巻きながら、黙ってその女性を見ている。
女性はステージのすぐ下まで来ると、理沙に向かって軽く一礼した。
「お疲れ様でした」
理沙は作業の手を止め、小さく頭を下げた。
「ありがとうございます」
距離が近くなった瞬間、理沙は思った。
たぶん、この人だ。
先日のダイレクトメッセージの差出人。
「HALUCA」の小川という人物。
文章から受けた印象と、目の前にいる女性は、不思議なくらいずれていなかった。
落ち着いている。
派手ではない。
いかにも芸能関係者という雰囲気でもない。
むしろ、理沙が昼の仕事で何度も見てきた、普通の会社員の女性に近かった。
「小川と申します。あなたが理沙さん?」
「はい」
「メールでいきなり失礼しました。たぶん、どうしたらいいか迷ったでしょうね」
小川は、申し訳なさそうに笑った。
その言い方があまりにも自然だったので、理沙は少しだけ返答に困った。
「いえ、こちらこそ」
普段の仕事のときと同じような声が出た。
「なかなか返信できずに、こちらこそ大変失礼しました」
小川は小さく首を振った。
「当然だと思います。知らない事務所から急に連絡が来たら、警戒しますよね」
理沙は、その言葉に一瞬だけ黙った。
そこまで先に言われると、逆に何も言えなくなる。
理沙は少し離れたところにいる三人を手招きした。
「湯浅さん。フィリップ。島崎くん」
三人が近づいてくる。
「こちら、HALUCAの小川さん」
小川は、四人に一枚ずつ名刺を差し出した。
「小川美奈です。今日はライブを拝見させていただきました」
湯浅は名刺を両手で受け取った。
「湯浅です」
「フィリップ・ウィルコックスです」
フィリップは、いつもより少し発音のいい日本語で言った。
「島崎です」
島崎は、やけに背筋を伸ばしていた。
理沙もそうだったが、湯浅もフィリップも島崎も、みな緊張していた。
ライブハウスの片隅で、形式ばった名刺交換をしている。
それだけで、場違いなほど現実味があった。
最初の数分は、ぎこちない会話が続いた。
今日のライブの感想。
いつから活動しているのか。
配信サイトに上げている曲のこと。
月に一度のライブのこと。
小川は、質問の仕方が丁寧だった。
相手の言葉を途中で遮らない。
大げさに褒めない。
けれど、見ていないと分からないことを、ところどころで口にする。
「三曲目のあと、少し客席の空気が変わりましたね」
小川がそう言ったとき、理沙は思わず顔を上げた。
たしかに、自分もそれを感じていた。
徐々に緊張がほどけてきたころ、小川は少しだけ声の調子を変えた。
「この後、少し時間あります?」
自然な言い方だった。
強引ではない。
けれど、断る間を与えないような、妙な流れの作り方だった。
湯浅が理沙を見る。
フィリップも理沙を見る。
島崎も、なぜか理沙を見る。
理沙は内心でため息をついた。
結局、決めるのは私なのか。
「機材の片づけが終わってからでよければ」
理沙が答える。
「もちろんです」
小川はすぐに頷いた。
「出入口のあたりで待っています」
そう言うと、小川はまた軽く一礼し、ステージから離れていった。
四人は、しばらく無言だった。
それから、湯浅が何事もなかったようにケーブルを巻き始めた。
けれど、その手は少しだけ遅かった。
フィリップは落ち着かない様子で、意味のない鼻歌を歌い始めた。
いつもなら誰かに軽口を叩くところなのに、その日は言葉が出てこないらしい。
島崎は、ケースの中にスティックを入れようとして、なぜか別のポケットに入れかけていた。
「そこじゃない」
理沙が言うと、島崎ははっとした顔をした。
「分かってた」
「嘘」
理沙は短く返した。
そのやり取りで、フィリップが少し笑った。
湯浅も口元だけで笑った。
けれど、空気は軽くならなかった。
出入口の近くに、小川は静かに立っていた。
スマホを見るでもなく、誰かと話すでもなく、ただ待っている。
理沙は片づけを続けながら、ときどきその姿を見た。
落ち着いている。
丁寧で、普通に見える。
それでも、あの人がこのあと何を言うのかは分からない。
理沙はケーブルをまとめながら、胸の奥で警戒を解かなかった。
小川美奈は、どう切り込んでくるつもりなのだろう。
|
ライブの雰囲気、ライブが終わった後の小川との会話が非常によく構成されています。ありがとうございます。
ではこの修正版の試し書きをもとに、小説の形に成型をお願いします。
|
はい。
修正版の試し書きの流れはすでにしっかりしているので、今回は場面の呼吸を少し整えながら、小説本文として成型します。
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# 002-05 突然のスカウト
月に一度のワンマンライブの日だった。
理沙がはじめて湯浅たちのバンドに加わってから、これで六回目になる。
最初のころ、収容人数百人ほどのライブハウスは、半分埋まればいい方だった。ステージに立つと、客席の奥に空いた椅子がいくつも見えた。
けれど、この日は違っていた。
開演前に舞台袖から客席をのぞくと、席は七割ほど埋まっていた。最前列には、前回も、その前も来ていた顔がいくつかある。
いつも同じ場所に座る女性二人組。
演奏が始まる前から、湯浅のギターケースを見て何か話している若い男。
後ろの方には、仕事帰りらしいスーツ姿の客もいた。
ようやく、コアなファンができてきたのかもしれない。
理沙はそう思った。
定刻になると、客席の照明が落ちた。
湯浅のギターが、最初のコードを鳴らす。フィリップのベースがそこに重なり、島崎のドラムが軽く走る。
理沙はマイクの前に立ち、息を吸った。
一曲目は、湯浅が作詞作曲したアップテンポの曲だった。理沙がバンドに加わって二回目のライブから、ずっと歌っている曲だ。
今ではもう、イントロが鳴っただけで前列の客が手を叩いてくれる。
そのあとも、同じくテンポの速い曲が二曲続いた。
ステージの熱が、少しずつ客席に広がっていく。理沙の声に合わせて、手拍子がそろう。初めて来たらしい客も、前列の動きにつられて、ぎこちなく手を叩いていた。
三曲目が終わると、理沙はマイクスタンドに手を添えた。
「ありがとうございます。Arisa-Mistyです」
拍手が返ってくる。
まだ大きな歓声ではない。
それでも、前よりは確かに温かい。
理沙は短く息を整え、いつものように次の曲の話を始めた。
その途中で、ふと客席全体を見渡した。
最前列の顔。
中央のテーブル席。
壁際に立っている客。
ドリンクを持ったまま、こちらを見ている人。
その中に、一人だけ、空気の違う女性がいた。
一番後ろの壁際。
肩までの髪。
黒のビジネススーツ。
黒のスカート。
他の客に隠れて、胸から上くらいしか見えない。けれど、その立ち姿だけで、ライブを楽しみに来た客とは違うことが分かった。
手拍子をしているわけでもない。
酒を持っているわけでもない。
誰かと話しているわけでもない。
ただ、ステージの上の理沙を、まっすぐ見ていた。
一瞬、視線が合ったような気がした。
理沙は言葉の続きを、ほんの少しだけ見失いかけた。
けれど、すぐに笑顔を戻した。
「次の曲、いきます」
湯浅が小さく頷く。
島崎がスティックを構える。
フィリップが軽く肩を揺らす。
理沙は黒いスーツの女性のことを、いったん頭の隅へ追いやった。
ライブは、そのまま進んだ。
中盤で何曲か歌い、最後の方に「西日が差している」を入れた。
クリスマスライブのときから歌っている曲だった。まだ理沙の中では完成していない。けれど、この曲を歌うと、客席の空気が少し静かになる。
騒ぐのではなく、聴いてくれている。
それは、理沙にも分かった。
最後のフレーズを歌い終えると、一拍遅れて拍手が起きた。それから音が大きくなり、ライブハウスの天井に広がった。
四人はいったんステージを降りた。
アンコールの声が続く。
まだぎこちない。
けれど、確かに声は増えていた。
理沙たちはもう一度ステージに戻り、二曲歌った。
最後の曲が終わると、湯浅が軽く頭を下げ、フィリップがベースを掲げ、島崎が眠そうな顔のまま客席に手を振った。
理沙もマイクを置き、深く一礼した。
今回も、悪くないライブだった。
終演後、最前列にいたファンが何人かステージ前まで来た。理沙は軽く言葉を交わし、握手をした。
「また来ます」
そう言ってくれる人がいた。
「ありがとうございます」
理沙は笑って答えた。
蛍の光が場内に流れ始める。
観客は少しずつ出口へ向かっていった。先ほどまで握手をしていた数名のファンも、名残惜しそうに振り返りながら、最後に外へ出ていく。
客席が空いていく。
椅子の隙間。
テーブルの上に残ったグラス。
床に落ちたチラシ。
照明の熱が少しずつ冷めていくステージ。
理沙は機材の片づけを始めながら、客席の一番後ろに目を向けた。
あの黒のビジネススーツの女性が、まだ立っていた。
今度は、はっきりと見えた。
肩までのナチュラルブラウンの髪。
黒のビジネススーツ。
黒のスカート。
ピンク色のハイヒール。
彼女は笑みを浮かべ、ステージの方へゆっくり歩いてきた。
フィリップが、片づけの手を止める。
島崎も顔を上げた。
湯浅はケーブルを巻きながら、黙ってその女性を見ている。
女性はステージのすぐ下まで来ると、理沙に向かって軽く一礼した。
「お疲れ様でした」
理沙は作業の手を止め、小さく頭を下げた。
「ありがとうございます」
距離が近くなった瞬間、理沙は思った。
たぶん、この人だ。
先日のダイレクトメッセージの差出人。
「HALUCA」の小川という人物。
文章から受けた印象と、目の前にいる女性は、不思議なくらいずれていなかった。
落ち着いている。
派手ではない。
いかにも芸能関係者という雰囲気でもない。
むしろ、理沙が昼の仕事で何度も見てきた、普通の会社員の女性に近かった。
「小川と申します。あなたが理沙さん?」
「はい」
「メールでいきなり失礼しました。たぶん、どうしたらいいか迷ったでしょうね」
小川は、申し訳なさそうに笑った。
その言い方があまりにも自然だったので、理沙は少しだけ返答に困った。
「いえ、こちらこそ」
普段の仕事のときと同じような声が出た。
「なかなか返信できずに、こちらこそ大変失礼しました」
小川は小さく首を振った。
「当然だと思います。知らない事務所から急に連絡が来たら、警戒しますよね」
理沙は、その言葉に一瞬だけ黙った。
そこまで先に言われると、逆に何も言えなくなる。
理沙は少し離れたところにいる三人を手招きした。
「湯浅さん。フィリップ。島崎くん」
三人が近づいてくる。
「こちら、HALUCAの小川さん」
小川は、四人に一枚ずつ名刺を差し出した。
「小川美奈です。今日はライブを拝見させていただきました」
湯浅は名刺を両手で受け取った。
「湯浅です」
「フィリップ・ウィルコックスです」
フィリップは、いつもより少し発音のいい日本語で言った。
「島崎です」
島崎は、やけに背筋を伸ばしていた。
理沙もそうだったが、湯浅もフィリップも島崎も、みな緊張していた。
ライブハウスの片隅で、形式ばった名刺交換をしている。
それだけで、場違いなほど現実味があった。
最初の数分は、ぎこちない会話が続いた。
今日のライブの感想。
いつから活動しているのか。
配信サイトに上げている曲のこと。
月に一度のライブのこと。
小川は、質問の仕方が丁寧だった。
相手の言葉を途中で遮らない。
大げさに褒めない。
けれど、見ていないと分からないことを、ところどころで口にする。
「三曲目のあと、少し客席の空気が変わりましたね」
小川がそう言ったとき、理沙は思わず顔を上げた。
たしかに、自分もそれを感じていた。
徐々に緊張がほどけてきたころ、小川は少しだけ声の調子を変えた。
「この後、少し時間あります?」
自然な言い方だった。
強引ではない。
けれど、断る間を与えないような、妙な流れの作り方だった。
湯浅が理沙を見る。
フィリップも理沙を見る。
島崎も、なぜか理沙を見る。
理沙は内心でため息をついた。
結局、決めるのは私なのか。
「機材の片づけが終わってからでよければ」
理沙が答える。
「もちろんです」
小川はすぐに頷いた。
「出入口のあたりで待っています」
そう言うと、小川はまた軽く一礼し、ステージから離れていった。
四人は、しばらく無言だった。
それから、湯浅が何事もなかったようにケーブルを巻き始めた。
けれど、その手は少しだけ遅かった。
フィリップは落ち着かない様子で、意味のない鼻歌を歌い始めた。
いつもなら誰かに軽口を叩くところなのに、その日は言葉が出てこないらしい。
島崎は、ケースの中にスティックを入れようとして、なぜか別のポケットに入れかけていた。
「そこじゃない」
理沙が言うと、島崎ははっとした顔をした。
「分かってた」
「嘘」
理沙は短く返した。
そのやり取りで、フィリップが少し笑った。
湯浅も口元だけで笑った。
けれど、空気は軽くならなかった。
出入口の近くに、小川は静かに立っていた。
スマホを見るでもなく、誰かと話すでもなく、ただ待っている。
理沙は片づけを続けながら、ときどきその姿を見た。
落ち着いている。
丁寧で、普通に見える。
それでも、あの人がこのあと何を言うのかは分からない。
理沙はケーブルをまとめながら、胸の奥で警戒を解かなかった。
小川美奈は、どう切り込んでくるつもりなのだろう。
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ありがとうございます。
では400字程度で、あらすじの作成をお願いします。
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### 002-05「突然のスカウト」あらすじ
月に一度のワンマンライブの日、Arisa-Mistyの客席は以前よりも埋まり、理沙は固定ファンが少しずつ増えていることを感じていた。
ライブは順調に進み、手拍子や拍手も前より温かくなっている。
MCの途中、理沙は客席の一番後ろに立つ黒いビジネススーツの女性に気づく。
その女性は他の客とは違う空気をまとい、ステージ上の理沙をまっすぐ見つめていた。
終演後、観客が帰っていく中、その女性だけが残り、理沙たちに近づいてくる。
彼女は音楽事務所「HALUCA」の小川美奈だった。小川は丁寧に名刺を渡し、ライブの感想を具体的に語る。
強引ではないが、自然に会話の主導権を握る小川に、理沙たちは緊張しながらも引き込まれていく。
機材の片づけ後に話すことになり、理沙は小川が何を切り出すのか警戒しながら待つ。
|
ありがとうございます。
ではまた日を改めて、続きの002-06の作成をします。
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こちらこそ、ありがとうございました。
002-05で、HALUCAとの接触がいよいよ現実のものになりましたね。
次回は **002-06「分岐点」** ですね。
小川美奈からの話を受けて、Arisa-Mistyのメンバーが今後の方向性を話し合う節になると思います。ここで、理沙たちの「このまま続けるのか、事務所と関わるのか」という迷いがはっきり出てきそうです。
また日を改めて、002-06の試し書きから進めましょう。
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