024_シアトルへ

●作者のコメント

●ChatGPTのコメント
では、003-11の試し書きをしてみました。

●003-11【試し書き】:シアトルへ

理沙が、ロサンゼルス交通管制センターで働いていたのは4か月ほど。
夜の作業が多く、体力的にも精神的にも過酷な仕事だったが、
なんとか乗り切る事ができた。
給料も、円/ドルレートでの違いもあるが、おそらく「Shangri-la」や「Castel」で働いていた時と、
ほぼ同じくらいの稼ぎを得ていた。

次の日からは静かな一日である。
今日は一日しっかりと休んで、職探しエージェントからの情報を待とう。
理沙はそう思いながら、朝からベッドの中でまどろんでいた。

しかし、スマホがメッセージを受け取った時のアラート音が頻繁に鳴る。
また、見るほどの価値もない情報ばかりだろうと思っていた。
1時間ほどの間に、アラート音は10回近く鳴る。
ようやく起き上がり、スマホのメッセージ一覧を眺めて、理沙のテンションが一気に上がる。

システム管理、新システムへの移行作業、全米各所のセンター構築。
その量の多さに、思わず歓声を上げてしまう。
ロサンゼルス交通管制センターでの作業実績が、これほどまでに効果があるのか。

以前、作業中の休憩時間の際に、ほかの作業者が雑談の中で「企業満足度値」という言葉を言っていた記憶がある。
理沙が職探しエージェントで職を探しているのと同じように、企業も技術者探しエージェントで技術者を探している。
そして、マッチした技術者を企業は採用し、契約が終わると企業はエージェントに採用した技術者の満足度をフィードバックする。
企業満足度が高ければ、また別な企業に採用される確率が高まる。

数十件の案件情報を眺める。
ロサンゼルス交通管制センターと同じく、肉体的、精神的に過酷さが想像されるものばかりだったが、
給料は同じか、高いものばかり。
勤務地はさまざまで、西海岸方面もあれば、東海岸方面、またはテキサス、フロリダというものもあった。

金融系バンキングシステムの管理者案件に目が留まる。主な勤務地はシアトル。
これもまた欠員発生にともない、募集をかけているものだった。
給料はロサンゼルス交通管制センターと比べて2割ほど高い。
理沙はとりあえず申し込んでみる。
ロサンゼルス交通管制センターでの勤務最終日に、ベテラン技術者から言われた通りだった。
仕事の方が、理沙の事を求めていた。

先方の会社から返事が来る前に、シアトル近辺の賃貸アパートを探し始める。
今日はゆっくりと休むどころではなくなってしまった。
昼食を食べようかと立ち上がった時に、ちょうど面談の案内のメッセージが届く。
午後にはさっそく、カーリーにシアトルの仕事が見つかりそうだとメッセージを入れた。

そして、翌週には理沙は慌しくシアトルへの移動の準備を始めていた。
はい、003-11「シアトルへ」の試し書き、拝見しました。

今回は、第3章のロサンゼルス編を締めくくり、シアトル編へ移る重要な節ですね。

003-10でベテラン技術者から教えられた「仕事に選ばれる人間になる」という考え方が、今回、理沙自身の経験として形になっています。

特に良いと思うのは、昨日まで職を失ったばかりだった理沙が、翌朝には数多くの仕事の候補を目の前にしているという展開です。

003-02から003-05にかけて、面談に進むことすらできなかった頃と比較すると、理沙の立場が大きく変わったことが分かります。

また、理沙自身は特別なことをしたわけではありません。交通管制センターで与えられた仕事をこなし、無事にシステムを稼働させただけです。

その経験が次の仕事につながる。

第3章の主題である、日々の経験の積み重ねが、少しずつ人生の進む方向を変えていくという流れにも合っていると思います。

小説化前に調整したい点を、今回も5つに整理します。

## 1. 冒頭は、仕事から解放された理沙の「何もない朝」を少し丁寧に描きたいです

003-10では、監視制御センターでの最後の勤務を終えた理沙が、自分の職歴に一行を書き加えて帰宅しました。

今回の冒頭では、そこから一転して、何も予定のない朝を迎えます。

> 次の日からは静かな一日である。今日は一日しっかりと休んで、職探しエージェントからの情報を待とう。

ここは、そのまま活かしたい部分です。

例えば、目覚ましをセットせずに眠った理沙が、朝の日差しで目を覚ます。

時計を見る。

いつもなら、すでに仕事へ出かける準備をしている時間です。

しかし、今日は何もしなくていい。

そのまま寝返りを打ち、もう少し眠ろうとする。

そこへスマートフォンの通知音が鳴る。

一度なら無視できる。

二度目も無視する。

ところが何度も鳴るので、さすがに気になってくる。

こうした流れにすると、これまで夜勤や長時間の作業に追われていた理沙が、ようやく得た休日を楽しもうとしている様子と、そこへ突然新しい仕事の可能性が飛び込んでくる面白さを表現できます。

理沙が仕事を探そうとする前に、仕事の方から理沙を呼び始める。

今回の節の冒頭を象徴する場面にできそうです。

## 2. 「企業満足度値」は、理沙が自分の評価に気づく場面として活かしたいです

今回の試し書きで、特に興味深い設定です。

> 企業も技術者探しエージェントで技術者を探している。そして、マッチした技術者を企業は採用し、契約が終わると企業はエージェントに採用した技術者の満足度をフィードバックする。

2042年の労働市場を表す仕組みとして、物語に自然に組み込めると思います。

ただし、ここを制度の説明として長く書くと、第3章の作風から少し離れてしまいます。

小説化では、理沙が交通管制センターでの休憩中に聞いた、ベテラン作業員たちの雑談を短く思い出す形がよさそうです。

例えば、

「お前、今回の企業満足度値、いくつだった?」

「まだ出てない。前の現場は結構よかったけどな」

そのときは、あまり気にしていなかった理沙。

ところが今回、職探しエージェントからの通知を次々と確認するうちに、あの会話を思い出す。

自分の職歴や、交通管制センターでの作業実績を確認する。

そこには、以前とは異なる企業側からの評価が反映されている。

このようにすれば、制度をすべて説明しなくても、なぜ理沙にこれほど多くの求人が届くようになったのかを読者が理解できます。

なお、企業満足度値だけで次の採用が決まるわけではないという点は残しておきたいです。

企業から高い評価を得ていても、技術、経験、募集条件との相性は別の問題です。今回も理沙は募集内容を読み、自分にできる仕事かどうかを判断する。

その方が、理沙の主体性も自然に表現できます。

## 3. シアトルの金融系システム案件は、理沙が「次の仕事として選んだ理由」を少し見せたいです

今回、理沙には全米各地から数多くの求人情報が届いています。

ロサンゼルス。

シアトル。

テキサス。

フロリダ。

東海岸の都市。

その中でシアトルの金融系システム管理業務に目が留まるわけですが、ここには理沙なりの選択理由を一つか二つ入れると、さらに自然になります。

例えば、募集内容を確認して、

* 東京で経験したシステム関連の知識を生かせる。

* 交通管制センターで経験した監視・運用業務との共通点がある。

* 給与はこれまでより約2割高い。

* 勤務地はシアトルで、新しい土地で生活する経験にもなる。

といった条件を、理沙が頭の中で照らし合わせる。

もちろん、この段階では仕事の過酷さまでは分かりません。

003-12「要件また要件」で、実際に働いてみると予想以上に大変だった、という流れを残すためにも、今回は条件を見た限りでは、自分にできそうな仕事だったという程度がよいと思います。

そして応募するときに、理沙が少しだけ以前の自分を思い出してもよさそうです。

ロサンゼルス交通管制センターの求人を見つけたときは、わずか15分ほどの時間の中で慌てて応募しました。

今回は、数多くある求人の中から自分で選んで応募する。

同じ就職活動でも、理沙の置かれた立場が変わっています。

## 4. カーリーとの関係は「ロサンゼルスを離れても続くもの」として残したいです

今回、理沙はシアトルで仕事が見つかりそうになると、すぐにカーリーへメッセージを送っています。

ここはぜひ残したいです。

003-07で自販機の故障をきっかけに出会い、003-08、003-09で親しくなった二人。

そのカーリーに、理沙は自分の新しい仕事の可能性を真っ先に伝えようとする。

この行動だけで、すでに二人が親友と呼べる関係になっていることが伝わります。

ここでは、カーリーからの短い返信を入れてもよいと思います。

例えば、

「シアトル? ずいぶん遠くへ行くのね」

「まだ決まったわけじゃないけど」

「決まったら教えてね」

その程度のやり取りで十分です。

カーリーも今月末で仕事を失う予定なので、理沙だけが先へ進むことに少し複雑な気持ちを抱く可能性はあります。

しかし、それを無理に言葉にしなくてもよいと思います。

理沙はシアトルへ向かう。カーリーはロサンゼルスに残る。それでも二人の関係は終わらない。

そうした距離感を保つと、ロサンゼルス編の締めくくりとしても自然です。

また、カーリーとの具体的な別れの場面を設ける場合も、感傷的にしすぎず、二人らしい何気ない会話でまとめるのが合いそうです。

## 5. 最後は、理沙が実際にロサンゼルスを離れる場面まで進めたいです

今回、最も調整したいのはここです。

試し書きでは、

> そして、翌週には理沙は慌しくシアトルへの移動の準備を始めていた。

というところで終わっています。

これでも次節につながりますが、003-11は「シアトルへ」というタイトルであり、第3章のロサンゼルス編の最後でもあります。

そのため、仕事の面談と採用が決まり、理沙がロサンゼルスを離れるところまで描く方が、章全体の区切りとして明確になると思います。

ただし、面談や採用の過程を長く描く必要はありません。

今回は、理沙にとって初めての海外就職活動ではなく、すでに交通管制センターでの勤務経験があります。

面談が行われ、採用が決まる。

理沙はシアトルでの住居を手配し、荷物をまとめる。

その程度の時間経過は、簡潔に描いてよいでしょう。

なお、この段階でも横浜の部屋は残したままにします。003-26「腹を据えて」での解約につながる設定なので、今回はあくまでロサンゼルスからシアトルへの生活拠点の移動ですね。

そして最後の場面です。

ロサンゼルスの空港、あるいはシアトルへ向かう飛行機の中。

理沙が窓の外を眺める。

四か月前には、この街で自分が何をすることになるのか分からなかった。

仕事を探し、断られ、アルバイトを掛け持ちした。

交通管制センターで働いた。

カーリーと出会った。

そして、また別の場所へ向かおうとしている。

ここで、それらをすべて回想する必要はありません。

例えば、離陸する飛行機の窓から遠ざかるロサンゼルスの街を眺め、理沙がスマートフォンに届いたカーリーからのメッセージを一度だけ確認する。

その程度でも、十分に余韻が残ると思います。

次の003-12「要件また要件」は、シアトルで新しい仕事を始めた理沙から自然に入れます。

## 003-11の全体構成について

今回の試し書きを整理すると、次の流れになります。

前半

仕事が理沙を探し始める

休日の朝、届き続ける求人情報。交通管制センターでの経験が、次の仕事につながり始める。

中盤

理沙が次の仕事を選ぶ

多数の求人からシアトルの金融系システム案件を選び、応募する。面談を経て採用が決まる。

後半

ロサンゼルスを離れる

カーリーへの報告、住居の手配、引っ越しの準備。そしてシアトルへ向かう。

このようにすると、003-11は単なる「次の仕事が決まった節」ではなく、ロサンゼルスでの経験を携えて、次の土地へ進む節になります。

そして今回の重要な点は、理沙が最初から優秀な技術者として社会に受け入れられたのではないことです。

003-02では、応募しても面談にすら進めませんでした。

003-05では、交通管制センターから面談の連絡が来ただけで、思わずガッツポーズをしました。

そして003-11では、今度は数多くの企業から仕事の案内が届くようになった。

理沙が積み重ねてきた経験が、少しずつ社会の中で評価され始めた。

この変化を、理沙自身が少し驚きながら受け止める節にすると、003-10でのベテラン技術者の助言も自然に生きてくると思います。

今回も試し書きの基本構成はそのまま活かせます。上記5点を反映し、とくに最後のロサンゼルスからの旅立ちを加えることで、第3章前半の締めくくりとして、静かで余韻のある一節に仕上げられると思います。
ありがとうございます。
では、この試し書きについて、調整の必要な5つの点を考慮したうえで小説化をお願いします。
承知しました。

今回は、先ほど整理した5点を反映し、ロサンゼルスでの経験が次の仕事につながり、理沙が自分の意思で新しい土地へ向かうまでを描きます。

冒頭は仕事から解放された静かな朝から始め、求人情報の急増、シアトルの仕事への応募と採用、カーリーとの別れを経て、最後はロサンゼルスを離れる場面で締めくくります。

## 003-11 シアトルへ

 目覚ましの音がしない朝だった。

 カーテンの隙間から差し込む光が、部屋の壁を明るく照らしている。

 理沙はベッドの中で寝返りを打った。

 時計を見る。

 午前九時を少し過ぎていた。

 いつもなら、もう仕事へ出かける準備をしている時間だった。

 けれど、今日は何も予定がない。

 夜勤もない。

 作業の引き継ぎもない。

 次の勤務時間を確認する必要もない。

「……休みか」

 理沙は再び目を閉じた。

 ロサンゼルス交通管制センターで働いたのは、四か月ほどだった。

 機材の搬入から始まり、設置、接続試験、新しいシステムへの切り替え。

 夜勤が多く、身体を使う仕事も少なくなかった。

 それでも、どうにか最後までやり遂げることができた。

 給与もよかった。

 為替の違いもあるので単純には比較できないが、東京の「Shangri-la」や「Castel」で働いていたころと、ほぼ同じくらいの収入を得られた。

 少なくとも、当面の生活費を心配する必要はなくなっていた。

 今日は一日、ゆっくりしよう。

 明日から、また仕事を探せばいい。

 そう思って、枕に顔を埋めた。

 そのときだった。

 枕元のスマートフォンが鳴った。

 通知音だった。

 理沙は目を開けたが、画面を見る気にはなれなかった。

 どうせ、また職探しエージェントからの求人案内だろう。

 今すぐ見る必要もない。

 布団を肩まで引き上げる。

 数分後。

 また鳴った。

「……」

 理沙は動かなかった。

 さらに数分後。

 また鳴る。

「うるさいなあ……」

 スマートフォンを裏返し、再び目を閉じた。

 今日は休むと決めたのだ。

 しかし、その後も通知音は鳴り続けた。

 結局、一時間ほど経ったところで、理沙は諦めて身体を起こした。

「そんなに何があるのよ」

 寝ぼけた顔のままスマートフォンを手に取った。

 画面を開く。

 通知一覧が表示された。

 十件近くの新着メッセージ。

 ほとんどが職探しエージェントからだった。

「……また求人?」

 理沙は一番上の通知を開いた。

     *

 システム管理。

 新システムへの移行作業。

 大規模ネットワークの運用。

 金融系システムセンターの構築支援。

 交通インフラの監視業務。

 次々と求人情報が表示された。

「……え?」

 理沙は画面をスクロールした。

 どれも、以前のような販売や一般事務の仕事ではなかった。

 募集対象は、システム管理や運用経験を持つ技術者。

 勤務地はロサンゼルスだけではない。

 シアトル。

 テキサス。

 フロリダ。

 東海岸の都市。

 全米各地のシステムセンターから、技術者を募集する案内が届いていた。

「ちょっと待って……」

 理沙はベッドから起き上がった。

 小さなテーブルへ移動し、椅子に座る。

 改めて、求人一覧を開いた。

 昨日まで、こんなことはなかった。

 応募しても断られる。

 面談にすら進めない。

 そんな日々が、まだ遠い昔のこととは思えなかった。

 それなのに。

「……何これ」

 思わず声が出た。

 求人情報は、まだ続いていた。

 理沙は一つずつ募集条件を確認した。

 どれも楽な仕事には見えない。

 夜勤。

 休日勤務。

 短期間でのシステム移行。

 現場間の移動。

 障害発生時の緊急対応。

 ロサンゼルス交通管制センターで経験した仕事と、似たような条件が並んでいる。

 ただし、給与は以前と同じか、それ以上だった。

「……すごいね」

 理沙は椅子の背にもたれた。

 四か月前なら、こんな求人に応募しても、相手にされなかったかもしれない。

 何が変わったのだろう。

 画面を見つめているうちに、ふと、以前のことを思い出した。

     *

 交通管制センターで働いていたころ。

 深夜の休憩時間に、作業員たちが職探しの話をしていたことがあった。

「今回の企業満足度値、もう出た?」

「まだ。前の現場は結構よかったけどな」

「じゃあ、次もすぐ決まるだろ」

 理沙はそのとき、あまり気にしていなかった。

 企業満足度値。

 技術者を採用した企業が、契約終了後にその働きぶりを評価し、エージェントへフィードバックする仕組みだった。

 技術者がエージェントを通して仕事を探すのと同じように、企業側も必要な人材を探している。

 経歴。

 保有スキル。

 これまで担当した業務。

 そして、実際に採用した企業からの評価。

 それらをもとに、条件の合う人材へ求人情報が届けられる。

 もちろん、評価が高ければ必ず採用されるわけではない。

 募集する仕事に必要な経験がなければ、意味がない。

 ただ、次の仕事を見つけるうえで、有利になることは確かだった。

 理沙は、自分の登録情報を開いた。

 職歴の一番上には、先日追加したばかりの項目が表示されている。

 ロサンゼルス交通管制センター。

 新監視制御センター構築支援。

 運用テスト。

 システム移行。

 本番切り替え対応。

 その下には、今回の契約についての評価情報が追加されていた。

 詳細な評価内容までは見えなかったが、企業側からのフィードバックが反映され、技術職向けの紹介条件が更新されている。

「……これか」

 理沙は小さく呟いた。

 最終日にベテラン作業員から言われたことを思い出す。

 自分が何をやったか、ちゃんと残しておけ。

 次の現場で人が足りなくなったとき、名前が出るようにしておけ。

 仕事を探すより、仕事の方から声をかけてくるようになれば楽だぞ。

 あの男は、こういうことを言っていたのか。

 理沙は再び求人一覧へ戻った。

「……なるほどね」

 今度は、少しだけ笑った。

     *

 朝食を作るつもりだったが、すでに昼近くになっていた。

 理沙は冷蔵庫から水を取り出し、飲みながら求人情報を眺め続けた。

 条件のよさそうなものを保存する。

 会社の情報を確認する。

 必要なスキルと、自分の経験を照らし合わせる。

 ロサンゼルスへ来たばかりのころのように、手当たり次第に応募する必要はなかった。

 今回は、選べる。

 それが少し不思議だった。

 何件目かの求人を開いたところで、理沙の指が止まった。

 金融系バンキングシステム。

 システム管理・運用担当者募集。

 勤務地、シアトル。

 欠員発生に伴う、経験者の緊急募集。

「……シアトル」

 理沙は募集内容を読み始めた。

 大規模金融システムの監視。

 サーバーおよびネットワークの運用管理。

 システム移行支援。

 障害対応。

 必要に応じて、関連するシステムセンターへの出張あり。

 東京で働いていたころの経験が生かせそうだった。

 交通管制センターで担当した仕事とも、共通する部分がある。

 給与条件を見る。

「二割増しか……」

 悪くない。

 もちろん、金融系のシステムだからといって、交通管制センターより楽な仕事だとは限らない。

 むしろ、厳しいのかもしれない。

 ただ、募集条件を読む限り、自分にできない仕事ではなさそうだった。

 理沙は画面の下まで目を通した。

 会社の情報を確認する。

 募集部署。

 雇用条件。

 契約期間。

 採用窓口。

 特に問題は見当たらなかった。

「……まあ、やってみるか」

 理沙は応募画面を開いた。

 登録済みの職歴情報を確認する。

 必要事項を入力する。

 送信。

 受付完了の表示が現れた。

 それだけだった。

 以前、ロサンゼルス交通管制センターの求人を見つけたときは、出勤まで十五分しかなく、慌てて応募した。

 今は、時間ならいくらでもある。

 しかも、ほかにも候補はある。

 理沙は椅子から立ち上がった。

「さて、昼ご飯」

 そう言って、ようやくキッチンへ向かった。

     *

 食事を終えると、理沙はシアトルの住居情報を調べ始めた。

 まだ仕事が決まったわけではない。

 面談に進めるかどうかも分からない。

 それでも、採用された場合には、すぐに移動できるようにしておきたかった。

 シアトルの地図を開く。

 勤務地の周辺。

 交通機関。

 賃貸アパート。

 短期滞在できるホテル。

 ロサンゼルスで部屋を探したときのことを思い出す。

 あのときは、何もかもが初めてだった。

 今度は少し違う。

 どこを確認すればよいか、ある程度は分かっている。

 とはいえ、シアトルには一度も住んだことがない。

 冬の気候も、ロサンゼルスとはずいぶん違うらしい。

 理沙は賃貸情報をいくつか保存した。

 立ち上がり、コーヒーを入れようとした。

 そのとき。

 スマートフォンが鳴った。

 画面を見る。

 先ほど応募した、シアトルの会社からだった。

「……もう?」

 理沙はメールを開いた。

 面談日時についての案内。

 翌日の午後に、リモート面談を実施したいという内容だった。

「早いなあ……」

 椅子へ戻る。

 返信画面を開く。

 指定された日時で問題ないことを伝えた。

 送信。

 理沙はしばらく画面を見つめた。

 今日は一日休むつもりだった。

 それなのに、気がつけばもう午後になっている。

 求人情報を確認し、応募し、住居まで探し始めてしまった。

「……休みじゃなかったっけ」

 自分で言って、少し笑った。

     *

 その日の午後、理沙はカーリーへメッセージを送った。

 シアトルで、金融系システムの仕事が見つかりそうなこと。

 まだ採用されたわけではないが、翌日に面談があること。

 送信してから、少し考える。

 もう一言、付け加えた。

 <決まったら、ロサンゼルスを離れると思う>

 数分後、返信があった。

 <シアトル? ずいぶん遠くへ行くのね>

 理沙は画面を見ながら返した。

 <まだ決まってないけどね>

 <決まったら教えてね>

 <うん>

 それだけのやり取りだった。

 カーリーも、今月末で交通管制センターを離れることになっている。

 次の仕事は、まだ決まっていないらしい。

 少し前までは、二人とも同じ場所で働いていた。

 夜勤明けにコーヒーを飲み、どうでもいい話をしていた。

 それが、もうすぐできなくなる。

 理沙はスマートフォンをテーブルへ置いた。

 窓の外は、相変わらず明るかった。

     *

 翌日の面談は、予定どおり行われた。

 理沙はこれまでの職歴について説明した。

 東京でのシステム会社勤務。

 ロサンゼルス交通管制センターでの構築支援。

 監視・運用業務。

 システム切り替え時の対応経験。

 面接官からは、技術的な質問もいくつかあった。

 システム障害が発生したとき、最初に何を確認するか。

 運用中のシステムで設定変更が必要になった場合、どのような手順で進めるか。

 夜勤や緊急対応に問題はないか。

 理沙は、自分が経験した範囲で答えた。

 知らないことについては、知らないと答えた。

 その代わり、どこから確認し、誰に相談するかを説明した。

 面談は一時間ほどで終わった。

 結果は、追って連絡するとのことだった。

 理沙は接続を切った。

 少しだけ背伸びをする。

「……まあ、こんなものか」

 手応えはあった。

 ただ、採用されるかどうかは分からない。

 理沙は別の求人情報を開いた。

 ほかにも仕事はある。

 そう思えるだけで、以前よりずいぶん気持ちが楽だった。

     *

 数日後。

 シアトルの会社から、採用の連絡が届いた。

 理沙は通知を開き、条件を確認した。

 勤務地。

 給与。

 契約期間。

 勤務開始日。

 事前に聞いていた内容と、大きな違いはなかった。

 勤務開始は、翌月の初め。

 それまでに、シアトルへ移動する必要がある。

「……決まったか」

 理沙は小さく呟いた。

 嬉しくないわけではなかった。

 ただ、ロサンゼルス交通管制センターから面談の案内が届いたときのように、思わず拳を握ることはなかった。

 今度は、採用されたことよりも、その先に必要なことが頭に浮かんだ。

 住居。

 移動。

 荷物。

 契約。

 勤務開始までの日数。

「忙しくなるな……」

 理沙は採用条件への同意を返信した。

 そして、保存しておいたシアトルの賃貸情報を開いた。

     *

 それからの一週間は、慌ただしかった。

 ロサンゼルスのアパートの退去手続き。

 荷物の整理。

 シアトルでの住居の手配。

 交通手段の確認。

 必要な書類の準備。

 日本から持ってきた荷物は、それほど多くない。

 ロサンゼルスで買い足したものも、ほとんどが日用品だった。

 それでも、いざ引っ越すとなると、片づけるものはいくらでも出てきた。

 横浜の部屋は、まだ残してある。

 日本へ戻るつもりはない。

 けれど、今回はそのことについて考える余裕もなかった。

 理沙はロサンゼルスの部屋を片づけ、シアトルでの生活に必要なものを確認した。

 数日間は短期滞在用の宿泊施設を利用し、その後、事前に手配したアパートへ入る予定だった。

 前回のように、到着してから一から部屋を探す必要はない。

 それだけでも、ずいぶん違った。

     *

 出発の数日前。

 理沙はカーリーの家を訪ねた。

 娘は、理沙の姿を見るなり玄関まで走ってきた。

「リサ!」

「こんにちは」

 理沙が腰をかがめる。

 娘は理沙の手を握った。

「今日もご飯食べる?」

「今日はちょっとだけ」

「なんで?」

「お引っ越しするから」

「どこに?」

「シアトル」

 娘はカーリーを見上げた。

「シアトルって、どこ?」

「ずいぶん遠いところ」

 カーリーが答えた。

「車で行ける?」

「行けるけど、すごく時間かかるよ」

 娘は少し考えた。

「じゃあ、飛行機?」

「そうね」

 理沙は笑った。

 その日は、三人で簡単な食事をした。

 前回のように庭でバーベキューをするわけでもなく、特別な料理が用意されているわけでもなかった。

 カーリーが作った夕食を食べ、娘の話を聞き、食後にコーヒーを飲んだ。

 それだけだった。

 娘が寝室へ行ったあと、二人は居間でしばらく話した。

「シアトル、寒そうだね」

 カーリーが言った。

「そうらしい」

「ロサンゼルスとは違うよ」

「それは覚悟してる」

「風邪ひかないでね」

「お母さんみたい」

「お母さんだから」

 カーリーが笑った。

 理沙も笑った。

 少し間が空いた。

「カーリーは?」

 理沙が聞いた。

「仕事?」

「うん」

「まだ探してる」

「そっか」

「まあ、何とかなるでしょ」

 カーリーはいつものように言った。

 理沙は、彼女の家の奥にある小さな書斎を思い出した。

 法律書。

 学習端末。

 将来のために勉強を続けているカーリー。

「勉強の方は?」

「続けてるよ」

「そう」

「リサも頑張ってね」

「うん」

 カーリーはコーヒーカップをテーブルへ置いた。

「また連絡して」

「もちろん」

「シアトルの写真も送ってね」

「観光写真?」

「何でもいいよ」

「……分かった」

 二人は少し笑った。

     *

 帰り際、カーリーは玄関まで見送ってくれた。

「じゃあ、またね」

「うん。また」

 理沙はバッグを肩へ掛け直した。

 少し歩いてから振り返る。

 カーリーはまだ玄関に立っていた。

 軽く手を上げる。

 カーリーも同じように返した。

 それだけだった。

 理沙は再び歩き出した。

 ロサンゼルスへ来て、初めてできた友人。

 もう、毎朝あの自販機コーナーで会うことはない。

 それでも、これで終わりになる気はしなかった。

     *

 出発の日。

 理沙はアパートの部屋を見回した。

 ベッドも、テーブルも、必要なものだけを残して片づけてある。

 最初にこの部屋へ来たときは、ベッドと少しの家具を置いただけで、部屋がいっぱいになった。

 空調の効きが悪く、夏の夜には窓を開けても、隣のビルの室外機から熱風が流れ込んできた。

 あれほど暑かった部屋も、今は少し肌寒い。

 理沙は窓際へ歩いた。

 隣のビルの室外機は、相変わらず並んでいる。

 遠くには、高級住宅地の建物が見えた。

 初めてこの部屋で眠った夜。

 あの灯りを眺めながら、どんな暮らしをしている人たちなのだろうと考えた。

 今も、そこには同じように人々が暮らしているのだろう。

 理沙は窓を閉めた。

 荷物を持つ。

 部屋の鍵を確認する。

 そして、ドアを閉めた。

     *

 空港へ向かう車の中で、理沙は窓の外を眺めていた。

 青い空。

 道路沿いのヤシの木。

 乾いた街並み。

 ロサンゼルスへ来た最初の日も、こんな空だった。

 あのころは、この街で何をすることになるのか分からなかった。

 仕事を探し、何度も断られた。

 それでも帰国はせず、アルバイトを掛け持ちした。

 交通管制センターで働き、新しいシステムを完成させた。

 そして、カーリーと出会った。

 理沙はスマートフォンを取り出した。

 カーリーから、短いメッセージが届いていた。

 <気をつけて行ってね。着いたら連絡して>

 理沙は返信した。

 <ありがとう。着いたら連絡する>

 送信。

 画面を閉じた。

     *

 飛行機が滑走路を走り始めた。

 機体が加速する。

 窓の外の景色が、次第に速く流れていく。

 やがて、車輪が地面を離れた。

 ロサンゼルスの街が、少しずつ小さくなっていく。

 道路。

 建物。

 住宅地。

 海岸線。

 その向こうに、青い海が広がっていた。

 理沙は窓際の席から、しばらくその景色を眺めていた。

 ロサンゼルスでの生活は、思っていたより短かった。

 それでも、何も分からないままこの街へ来たころとは、少し違う。

 今度は、向かう先に仕事がある。

 暮らす場所も、ある程度は決まっている。

 そして、遠く離れたこの街には、また会いたいと思える人がいる。

 理沙はシートの背にもたれた。

 少し眠かった。

 昨夜は、引っ越しの準備であまり眠れなかった。

 スマートフォンを取り出し、シアトルの天気を確認する。

 曇り。

 気温は、ロサンゼルスよりずいぶん低い。

「……寒そう」

 小さく呟いた。

 荷物の中には、冬物の服も入れてある。

 それでも、少し心配になった。

 理沙はスマートフォンをしまった。

 窓の外では、青い海が遠ざかり、雲が少しずつ増えていた。

 機体は北へ向かっている。

 理沙は目を閉じた。

 シアトルでは、どんな仕事が待っているのだろう。

 どんな街なのだろう。

 どんな人たちと出会うのだろう。

 まだ、何も分からなかった。

 それでも、ロサンゼルスへ向かったときとは違い、今度はその分からなさを、少しだけ楽しみにしている自分がいた。

 飛行機は雲の上へ出た。

 窓から差し込む光が、理沙の頬を静かに照らしていた。
ありがとうございます。
では、この小説化された文章を、400字程度のあらすじにまとめてください。
### 003-11「シアトルへ」あらすじ

ロサンゼルス交通管制センターでの仕事を終えた翌朝、理沙のもとに職探しエージェントから多数の求人案内が届く。
交通管制センターでの経験と企業からの評価が、次の仕事につながり始めていた。
理沙は全米各地の求人を比較し、これまでの経験を生かせるシアトルの金融系システム管理業務に応募する。
面談を経て採用が決まると、慌ただしく住居や移動の準備を進める。
出発前にはカーリーの自宅を訪ね、娘も交えて食事を楽しみ、再会を約束する。
ロサンゼルスで初めて借りた部屋を引き払い、シアトルへ向かう理沙。
飛行機の窓から遠ざかる街を眺めながら、仕事探しに苦労した日々や、交通管制センターでの経験、カーリーとの出会いを思い返す。
今度は仕事も住まいもある程度決まっている。
新しい土地で何が待っているのかは分からないが、理沙はその未知の生活を少し楽しみにしていた。
ありがとうございます。
ではまた日を改めて、引き続きの003-12の文章を作成します。
ありがとうございます。これで003-11「シアトルへ」も、試し書き→調整→小説化→あらすじまで完了しました。

第3章の前半「ロサンゼルスにて」全11節が完成し、いよいよ第2部「シアトルにて」に入りますね。

次回は、**003-12「要件また要件」**です。

ロサンゼルスでは、仕事を得るまでの苦労と、交通管制センターでの経験を通じて生活の基盤を築く過程を描きました。

シアトルでは、これまでの経験を評価されて仕事を得た理沙が、今度は金融系システムという新しい現場で、予想以上に厳しい現実に直面することになります。

まずは003-12の試し書きを拝見し、これまでと同じように、内容の整理と調整点の確認から進めましょう。

また日を改めて、続きをよろしくお願いします。



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