では、008-09の以下小説化された本文の、あらすじ作成(400字程度)をお願いします。
●008-09:木星大気ブレーキ、過去の感覚(1)
会議室で船長と向かい合って話すのは、最初のブリーフィング以来だった。
テーブルを挟んで座る距離は変わらないが、その間に流れる空気はあのときとは違っていた。
理沙は一度だけ視線を落とし、それからゆっくりと顔を上げる。
「まだ、記憶が戻ったとは言えないと思います」
メリッサと通路で立ち話をした翌日、理沙はすぐに船長へと話を持ちかけた。
懸念として頭に残ったままにしておくことはできなかった。
言葉にして整理しなければ、どこに引っかかりがあるのか、自分でも見失いそうだったからだ。
「確かに、フィアンセの事は会話に出てきましたが」
あのときのやり取りを思い出す。
違和感は確かにあった。だが、それが何だったのかを明確に言葉にすることはできない。
だからといって――あそこまであっさりと、あの出来事を口にするものだろうか、という疑問だけが残る。
「それと、今回はシステムが反応していなかったこともあります」
そう付け加えながら、理沙は自分の中で並べた要素をひとつずつ確認するように言葉を選んだ。
腕を組んだまま、船長は何も言わずに頷いている。
その表情から読み取れるものは少ない。
判断を急ぐ様子もなければ、結論を示そうとする気配もない。
理沙の話が一通り終わると、船長は短く息を吐き、静かに口を開いた。
「エリシウム基地の事が話の中に出てくるとは、私も思っていなかった」
その一言で、空気がわずかに変わる。
火星の基地、空港ロビー、そして――フィアンセを殴ったという記憶。
互いに同じものを思い浮かべていることは、言葉にしなくても分かる。
それ以上の言葉は続かなかった。
2人はしばらくのあいだ黙ったまま座っていた。
結論を急ぐことも、無理に整理することもなく、ただその場に留まるようにして。
理沙は視線を逸らさずにいたが、笑うことはできなかった。ここで笑う理由は、どこにもなかった。
やがて時間は過ぎ、会話は自然に終わった。
木星到達に向けた準備作業は、その後も変わらず進み続けた。
8週間にわたるシフト生活は、気づけば終わりを迎えていた。
日々は規則正しく繰り返され、その中で作業は積み上がっていく。
特別な出来事はなく、すべては予定された通りに進んでいる。
そして、「エンデヴァー」は木星周回軌道に入るための減速フェーズに入った。
誰もいない会議室。
壁面ディスプレイに映る太陽系の軌道地図の上で、機体の位置を示す光点がゆっくりと木星へ近づいている。
到達は目前だった。
対して、「長征」は土星へ向けて直線的な航路を維持したまま航行を続けている。
位置はすでに火星と木星の中間付近に達していた。距離の差は確実に開いている。
マルチ画面の片隅では、ホワイトハウスでの定例記者会見の映像が流れている。
音声は絞られており、誰もそれを意識して見てはいない。
ただ、画面の中で口が動き、字幕が流れているだけだった。
その翌日、最終減速の段階に入る。
ある程度の速度はすでに落としていたが、木星周回軌道へ乗るためには、さらに大きな減速が必要となる。
そのために使用されるのが、船体後部に備えられたエアロブレーキシールドだった。
「エンデヴァー」は木星の上層大気すれすれまで接近する。
巨大なガスの層に触れる寸前の高度。
そこに差しかかった瞬間、船体は摩擦によって発生する熱に包まれ、外壁の周囲が光を帯び始める。
炎という表現が最も近いが、それは燃焼というよりも、圧縮された大気と速度が生む現象だった。
窓の外には、昼と夜の境界線をまたぐように広がる雲海が見えている。
その先にある木星は、もはや球体というよりも壁のようにそびえ立っていた。
視界いっぱいに広がるその存在は、距離感を失わせるほどの圧迫感を持っている。
「姿勢制御、問題なし」
アルヴィンの声が、中央通路に設置されたスピーカーから静かに流れる。
コクピットでは、パイロット席にエドガー、船長席にアルヴィンが座っていた。
手順はすべて事前に確認されており、システムとのやり取りも予定通りに進んでいる。
感情の入り込む余地はほとんどない。
「これより、非常警戒モードに入ります」
その宣言と同時に、中央通路の照明が切り替わる。
白い照明は落とされ、代わりに赤い非常灯が点灯する。船内の色温度が変わり、視界にわずかな緊張感が生まれる。
居住区画の理沙の部屋。
理沙は窓のシールドを下ろし、視界を遮断する。
机の上や棚に置かれていた細かな物品は、あらかじめバッグの中へと収めていた。
浮遊や転倒を防ぐための、決められた手順である。
シートに腰を下ろし、シートベルトをしっかりと締める。
身体を固定したあと、目の前のディスプレイを起動させる。
画面にはコクピットの様子と、船外カメラの映像が並んで表示される。
すでに木星大気との摩擦は始まっており、ブレーキシールドの周囲が明るく輝いているのが分かる。
外界の音は遮断されているが、映像だけでも十分だった。
「各セクション、異常なし」
アルヴィンの声は、先ほどと変わらない調子で続いていた。
その一定のリズムが、逆に現状の安定を示しているようにも感じられる。
そのとき、理沙の身体がわずかにシートに沈み込む感覚を覚えた。
減速Gがかかり始めている。急激ではないが、確実に負荷が増していくのが分かる。
理沙は一度だけ目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をした。
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