では、008-23の以下小説化された本文の、あらすじ作成(400字程度)をお願いします。
●008-23:眩暈(1)
着陸船のそばを、メリッサはゆっくりと歩いていた。
タイタン到着から3日目。
予定では、あさってには「エンデヴァー」へ帰還することになっている。
エドガーとデイビッドは、昨日から続けて気象観測機器の設置作業を行っていた。
少し離れた場所に立てられたアンテナの周囲で、2人が何かやり取りをしながら作業している姿が見える。
タイタンの空は薄く曇っていた。
厚い大気を通して差し込む光は弱く、風景全体がどこか夕暮れのような色合いに沈んでいる。
メリッサは2人とは反対方向へ歩き始めた。
緩やかな斜面を登り、小高い丘の上へ向かう。
重力が地球より軽いため、歩く感覚はどこか不安定だった。
足元のメタン氷が、ざくり、と鈍い音を立てる。
丘の上に到着すると、メリッサは立ち止まり、周囲を見渡した。
遠くの地平線近くには、ぼんやりと土星の姿が浮かんでいる。空を横切る巨大な環。その光景以外には、ほとんど何もない。
荒涼とした風景。
生命の気配すら感じられない。
――なのに。
なぜか、懐かしいような感覚があった。
そんなはずはない。
ここへ来るのは初めてだ。
それでも、どこかで見たような気がしてしまう。
メリッサは無意識のうちに、少しだけ眉を寄せた。
やがて。
そこにあるはずのない風景が、ゆっくりと浮かび上がってくる。
プレハブ造りの居住棟が4つほど並び、その奥には管理設備らしき建物。小さな空港施設。三つほどの発着ポート。
さらに、その向こうには原子力発電プラントの冷却塔。
ぼんやりとした霞の向こうで、小型の旅客船が降下してくるのが見えた。
将来建設予定のタイタン基地。
最初は、そんな想像図を見ているように思えた。
しかし、違う。
景色の輪郭が、妙に現実的だった。
気づけば、メリッサはその空港施設の中に立っていた。
受付ロビー。
数名の作業員が搭乗口から出てきて、談笑しながらこちらへ歩いてくる。
その中に、1人だけ非常に見覚えのある男がいた。
そして、その隣には――メリッサ自身がいた。
ロビーの中央に立っている、気密服姿のメリッサには気づいていない。
2人は、そのまま目の前を通り過ぎていく。
笑いながら。
親しげに言葉を交わしながら。受付ロビーへ向かって歩いていく。
その時だった。
もう一人のメリッサが、不意に振り返った。
目が合う。
逃げることができなかった。
視線を外せない。
すると彼女は、隣の男をかばうように、一歩前へ出た。
まるで、“こちら側”を拒絶するように。
彼女は何かを叫んでいるように見えた。だが、声は聞こえない。
音だけが、存在しない。
そして次の瞬間。
目の前の風景が、ガラス細工のように一気に砕け散った。
「メリッサ」
イヤホンの中で、短いアラート音が鳴る。
続いて、控えめなエドガーの声。
「そろそろ昼飯にしようか」
メリッサは、すぐには返事ができなかった。視界がゆっくりと現実へ戻ってくる。
荒野。
曇った空。
遠くの観測機器。
そして、「エンデヴァー」の着陸船。
気づけば、目に涙が浮かんでいた。
何秒か遅れて、再びエドガーの声。
「メリッサ?」
「ああ……」
ようやく声が出る。
「ちょっと考え事してた」
自分でも驚くほど、かすれた声だった。
メリッサはまだ目元が潤んでいる状態のまま、何事もなかったように着陸船の方へ歩き始める。
しかし歩きながらも、胸の奥には奇妙な感覚だけが残り続けていた。
あれは何だったのか。
なぜ、自分は泣いていたのか。
その答えを、メリッサ自身はまだ知らなかった。
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