あらすじ_08_16
土星大気突入時は理沙は当直だった。指令室のシートに座り強烈な減速Gに耐える。減速が終わると「エンデヴァー」はタイタンへの軌道に乗った。
船内の機器の状態を確認すると、理沙は通路を通って後部の動力区画へ向かう。途中、通路の外部シールドを開けると、
土星の輪の壮大な姿が窓一面に広がっていた。窓一面というのは表現としては正しくない。窓の端から端まで３０万キロの巨大構造物である。
窓に顔を寄せて、土星の雲海を下に見ながら、巨大なアーチ状の輪に見とれていた。中国との一番乗りレースの喧騒をしばし忘れ
理沙はポケットからタブレット端末を取り出して、土星の雲海の上に広がる輪の写真を撮った。
はじめてテキサスの空港からシャトルで飛び立って、短い時間の弾道飛行をしたときの感動は今でも忘れられないが、
地球とは違った異様な世界の美しさに、理沙は深い感動とも畏敬の念ともいえる新鮮な気持ちを感じた。
作業開始の船内アナウンスが流れ、理沙は再び現実の世界に引き戻され、動力区画へ向かう。