037_13日の金曜日の前日は木曜日(1)

●作者のコメント

●ChatGPTのコメント
では、002-20の試し書きをしてみました。

●002-20【試し書き】:13日の金曜日の前日は木曜日(1)

「そのうち、家で2人だけで飲もうよ」

そんな誘いのメッセージを、まりあから年明けに受け取っていたが、
結局のところお互いに忙しくて日程が合わず、
ようやく実現したのは3月末だった。

仕事を終えて、理沙はまりあの家の近くまで行く。
4棟ほどの高級マンションが並んでいる住宅街。
マンションの入り口で、理沙はまりあに着いたことを知らせる。
オートロックの扉が開く。
広いエントランスホールでエレベーターに乗り、6階で降りる。
まりあの部屋の前に到着。
ベルを鳴らしてしばらくして、ドアのロックが解除される。
扉をあける。重厚な扉でいかにもセキュリティー万全といった感じ。

まりあが玄関口で待っていた。

「いらっしゃい」

まりあの案内で奥のリビングへ、壁紙と床のフローリングからは、
いかにも新築まもないといった感じの匂いがする。

リビングには既に食事の用意が整えられていて、
まりあは冷蔵庫から高級和牛と、ワインクーラーから赤ワインを運んでくる。
理沙は準備が終わるまでの間、リビングと窓の外の夜景を眺める。
自分でも経験したことのない贅沢な生活環境に、ふとため息が出てしまう。

そのあとは、赤ワインで乾杯。
和牛をプレートで焼いて、まりあはわさび醤油をつけて、理沙は岩塩をつけて食べる。
理沙が夜の仕事をしていたとき、客との同伴営業の時には、
焼肉の時には決まって岩塩をつけて食べていた。つい昔の癖が出てしまう。

まりあとメッセージで会話する時は、
たいていは仕事の苦労話と、コンサートやライブの準備での苦労話ばかり。
ふと出た昔の癖で、そのあとは理沙が夜の街で歌姫だった頃の話になる。

「そういえば、その頃の話ってしていなかったっけ?」

どうやら、まりあはまだ聞いていないようだった。
昔の友人との偶然の再会から始まり、いきなり店に連れて行かれた事。
店で目立たない存在だったのが、客に勧められてマライア・キャリーの曲を歌ったことで店の歌姫になっていった事。
楽しい事ばかりではなかった。
店長がキャストと駆け落ちして夜逃げした事。
その後の友人との苦労話。
しかし、苦労話も今になっては楽しい思い出だった。

まりあはそんな理沙の話を聞きながらも、
心の片隅では、これから先の事が気になっていた。
5月のファーストコンサートまで、あと1ヶ月少々しかない。

つい1週間前の出来事を思い出す。
あの日、ちょっとしたアクシデントがあった。
立体プロジェクターのテスト、コンサートで歌う曲のリハーサルが着々と進む中、
なぜかその日は気分が重く、歌う気になれなかった。
それでも小川に悟られないように、元気なところを見せていたつもりだったが、
ステージ上でちょっと平衡感覚を崩したと思ったら、そのまま倒れてしまった。

意識を取り戻した時には、病院のベッドの上だった。
小川に声をかけられて、自身の体の状況を知る。
どうやら精神的に疲れていたようだった。

そんなことをふと思い出していたところ、理沙から声をかけられて我に返る。
理沙の苦労話はいったん終わって、まりあはぼんやりとしていたようだった。

「疲れているんだね」

理沙から言われて、まりあはわざわざ作り笑顔を見せる。
何かを思いついたのか、理沙はスマホを取り出してまりあに手渡した。

「ちょっと、聴いてみない?」
拝読しました。
002-20は、久しぶりに理沙とまりあが直接向き合う節として、とても良い流れだと思います。

今回の節では、まりあの部屋という**私的な空間**に理沙が入ることで、二人の関係が一段近づいています。
一方で、その部屋自体はHALUCAが用意した高級マンションであり、まりあがすでに「普通の生活」から離れた場所にいることも伝わります。

特に良いのは、理沙が昔の夜の店での話をする一方で、まりあの意識がふとファーストコンサートの不安や、一週間前に倒れた記憶へ流れていくところです。
会話の場は穏やかなのに、まりあの内側には疲労と不安が溜まっている。
ここが、002-18からの流れとして自然です。

この節の核は、次のように整理できそうです。

**年明けにまりあから誘われていた二人だけの飲み会が、三月末になってようやく実現する。仕事を終えた理沙は、HALUCAが用意したまりあの高級マンションを訪れ、その贅沢な生活環境に驚く。二人は赤ワインと和牛で乾杯し、理沙の昔の夜の店での話に花を咲かせる。理沙は、偶然の再会から赤坂の店に連れて行かれ、客の勧めで歌ったことをきっかけに歌姫になっていった経緯を語る。まりあはその話を聞きながらも、五月のファーストコンサートを前にした不安と、一週間前のリハーサル中に倒れた記憶を思い出していた。疲れていることを理沙に見抜かれたまりあに、理沙はスマホを差し出し、ある曲を聴かせようとする。**

構成としては、かなりまとまっています。小説化前に整理するなら、以下の流れが自然だと思います。

---

# 002-20 整理案

## 1. 年明けの誘いが、三月末にようやく実現する

冒頭の、

> 「そのうち、家で2人だけで飲もうよ」

は、とても良い入りです。

理沙とまりあがメッセージを交わす関係になっていたこと、でも互いに忙しく、なかなか会えなかったことが自然に伝わります。

ここでは、少しだけ時間の経過を出すとよさそうです。

* 年明けに誘われた
* 二月はチケット販売やライブ準備で忙しかった
* 三月も互いに予定が合わなかった
* ようやく三月末に実現した

## 2. 理沙がまりあの新居を訪れる

高級マンション群、オートロック、広いエントランス、重い扉などの描写は残したいです。

ここは、理沙の目線で「まりあが別世界へ行った」感覚を出せます。

特に、理沙が夜の仕事でそれなりに華やかな場所も見てきたのに、それでもため息が出る、という部分が良いです。

## 3. まりあの部屋と食事

新築の匂い、広いリビング、窓の外の夜景。

そこに、まりあが高級和牛と赤ワインを持ってくる。

この場面は少し生活感もあり、二人の距離を縮められます。

理沙が岩塩を選び、夜の同伴営業時代の癖が出るところは非常に良いです。
ここから自然に昔話へ入れます。

## 4. 理沙の夜の街の話

理沙の過去説明は、第1章を読んでいない読者にも分かるように、要点だけ入れるのが良さそうです。

* 昔の友人と偶然再会した
* 赤坂の店に連れて行かれた
* 最初は目立たないキャストだった
* 客に勧められてマライア・キャリーを歌った
* そこから店の歌姫になっていった
* 店長の夜逃げ、友人との苦労もあった
* でも今となっては笑って話せる思い出になっている

ここは理沙の語りにすると、少し軽さが出て良いです。

## 5. まりあの意識が現実へ戻っていく

理沙の話を聞きながら、まりあは心の片隅でファーストコンサートを気にしている。

5月まであと一か月少し。

ここで一週間前のリハーサル中の出来事へ入る。

* 立体プロジェクターのテスト
* 歌唱リハーサル
* その日はなぜか気分が重かった
* 小川に悟られないよう元気に振る舞う
* ステージ上で平衡感覚を崩す
* 倒れる
* 気づいたら病院
* 精神的な疲労だと知る

これはかなり重要です。
まりあが「巨大なマリア・エレーナ」に引っ張られていた002-19の後、その反動として身体がついていかなくなる流れになります。

## 6. 理沙が疲れを見抜く

まりあがぼんやりしているところで、理沙が声をかける。

> 「疲れているんだね」

この一言は良いです。

理沙は、歌の世界の先輩というより、無理をしている人を見抜ける人物として描けます。

まりあが作り笑顔を見せるのも自然です。

## 7. 理沙がスマホを差し出す

最後の、

> 「ちょっと、聴いてみない?」

は、次節002-21につながる良い引きです。

おそらく理沙がまりあに聴かせるのは、自作の新曲、またはまりあに提供する曲ですね。
002-21「13日の金曜日の前日は木曜日(2)」で、まりあが理沙から曲を提供される流れに自然につながります。

---

## 修正版の流れ

この節は、次の形に整えると良さそうです。

1. 年明けにまりあから誘われた家飲みが、三月末にようやく実現する。
2. 理沙は仕事帰りに、まりあの高級マンションを訪れる。
3. セキュリティの厳しさ、広いエントランス、重い扉に、まりあの環境の変化を感じる。
4. まりあの部屋で、赤ワインと和牛を用意して二人で乾杯する。
5. 理沙が岩塩を選んだことから、夜の店で働いていた頃の話になる。
6. 理沙は赤坂の店で歌姫になっていった経緯と、その後の苦労を語る。
7. まりあは話を聞きながらも、五月のファーストコンサートへの不安を思い出す。
8. 一週間前、リハーサル中に倒れ、病院で目を覚ました記憶がよみがえる。
9. 理沙はまりあのぼんやりした様子に気づき、疲れているのだと言う。
10. まりあは作り笑顔を見せる。
11. 理沙はスマホを取り出し、「ちょっと、聴いてみない?」と差し出す。

この方向で修正すると、002-20は、
**理沙がまりあの世界に招かれ、まりあの疲労と不安に初めて近くから触れる節**
として、かなり良い形になると思います。
ありがとうございます。確かに形の良い文章になりそうです。
ではこの修正案で、試し書きの修正をお願いします。
はい。
002-20は、まりあの部屋での私的な時間を軸にしつつ、理沙の過去と、まりあの現在の疲労が交差する形に整理します。
最後は、002-21で理沙がまりあに曲を提供する流れへつながるようにします。

---

# 002-20【試し書き・修正版】:13日の金曜日の前日は木曜日(1)

「そのうち、家で二人だけで飲もうよ」

そんなメッセージが、まりあから届いたのは年明けのことだった。

理沙はすぐに返事をした。

いいね。
落ち着いたら行く。

けれど、落ち着く時期はなかなか来なかった。

二月に入ると、まりあのファーストコンサートのチケット販売が始まった。
三月になると、リハーサルや打ち合わせがさらに増えた。

理沙の方も、Arisa-Mistyのライブが少しずつ増えていた。
昼の仕事も相変わらず忙しい。

予定を合わせようとしては流れ、また合わせようとしては先延ばしになる。

結局、二人だけの飲み会が実現したのは、三月末の木曜日だった。

仕事を終えたあと、理沙は電車を乗り継ぎ、まりあの新しい部屋の近くまで向かった。

駅前の賑わいから少し離れると、街の空気が変わった。

夜の住宅街は静かだった。

広い歩道。
整えられた植え込み。
低く抑えられた街灯の光。
道路沿いには、同じ系列と思われる高級マンションが四棟ほど並んでいた。

理沙は、その中の一棟の前で足を止めた。

ガラスと石材を組み合わせた、落ち着いた外観だった。
派手ではない。
けれど、明らかに普通の賃貸マンションとは違う。

理沙はスマホを取り出し、まりあに到着を知らせた。

すぐに返事が来る。

いま開けるね。

目の前のオートロックの扉が、音もなく開いた。

理沙は中に入った。

広いエントランスホールは、ホテルのロビーのようだった。

足音が、磨かれた床に小さく響く。
壁際には観葉植物が置かれ、受付のようなカウンターもある。
照明は明るすぎず、全体に静かだった。

エレベーターに乗る。

六階で降り、案内表示に従って廊下を進む。

まりあの部屋の前に着くと、理沙はベルを鳴らした。

少し間があった。

それから、内側でロックが解除される音がした。

扉は、思ったより重かった。

理沙が手をかけて開けると、その重さだけで、いかにもセキュリティがしっかりしている場所だと分かった。

玄関の奥に、まりあが立っていた。

「いらっしゃい」

柔らかく笑っている。

けれど、少しだけ顔色が悪いようにも見えた。

「お邪魔します」

理沙は靴を脱ぎ、まりあに案内されて奥へ進んだ。

廊下の壁紙も、床のフローリングも新しかった。

新築特有の、まだ生活に馴染みきっていない匂いがする。

リビングに入ると、理沙は思わず足を止めた。

広い。

大きな窓の向こうには、夜の街が見えた。

遠くに幹線道路の灯りが流れ、そのさらに向こうには、ビルの明かりが細かく瞬いている。

部屋の中には、すでに食事の用意がされていた。

低いテーブルの上に、皿やグラスが並んでいる。
卓上のプレートも用意されていた。

「すごいね、ここ」

理沙は、部屋を見回しながら言った。

まりあは少し困ったように笑った。

「まだ、自分の部屋って感じがしないんだけどね」

「分かる気がする」

理沙は窓の外を見た。

夜の街を見下ろす生活。

自分も、赤坂で働いていた頃に、何度か似たような部屋に入ったことはある。

客に連れられて行った店。
同伴で使った高級なレストラン。
上の階にある会員制のラウンジ。

華やかな場所をまったく知らないわけではなかった。

それでも、ここは違った。

ここは、まりあの部屋だった。

そのことが、理沙には少し不思議だった。

まりあは冷蔵庫を開け、高級そうな和牛の包みを取り出した。

それから、ワインクーラーから赤ワインを一本取り出す。

「今日は、ちょっと奮発した」

「これ、ちょっとどころじゃないでしょ」

「小川さんが、たまにはいいものを食べなさいって」

「小川さんらしい」

二人は準備を済ませ、グラスに赤ワインを注いだ。

「じゃあ」

まりあがグラスを持つ。

「おつかれさま」

理沙もグラスを掲げた。

「おつかれさま」

軽い音を立てて、グラスが触れた。

和牛をプレートで焼くと、すぐに脂の甘い香りが部屋に広がった。

まりあは、わさび醤油を小皿に用意する。

理沙は、自然に岩塩を取った。

「あ、岩塩派なんだ」

まりあが言った。

「昔の癖」

「昔?」

理沙は肉を一切れ皿に取り、少し考えてから笑った。

「夜の仕事してた頃、同伴で焼肉に行くことが多かったの。そういう時、だいたい岩塩で食べてた」

「そうなんだ」

まりあは、少し身を乗り出した。

「そういえば、その頃の話って、ちゃんと聞いたことなかったかも」

「してなかったっけ?」

「うん。断片的には聞いた気がするけど」

理沙はワインを一口飲んだ。

それから、少し昔を思い出すように、視線をグラスの中へ落とした。

「最初はね、偶然だったの」

まりあは黙って聞いていた。

理沙は、昔の友人と再会した日のことを話した。

その友人に誘われるまま、赤坂の店に連れて行かれたこと。
最初は、店の中でも目立たない存在だったこと。
愛想が良いわけでもなく、客あしらいが上手いわけでもなく、自分でも向いているとは思っていなかったこと。

「じゃあ、どうして歌うようになったの?」

「お客さんに勧められたの。たまたま」

「たまたま?」

「うん。マライア・キャリーの曲、歌ってみないかって」

まりあは、驚いたように目を丸くした。

「それで歌ったの?」

「歌った」

「すごい」

「いや、今考えると、だいぶ無茶だったと思う」

理沙は苦笑した。

「でも、それがきっかけで、店の中で歌う人になっていった。最初は変な感じだったよ。キャストなのに、なぜか客の前で歌ってるんだから」

「歌姫みたい」

「実際、そう呼ばれるようになった」

理沙は、少し照れたように笑った。

楽しいことばかりではなかった。

店長がキャストと駆け落ちして、突然いなくなったこと。
店が一時混乱したこと。
一緒に働いていた友人と、どうにか踏ん張ったこと。
お金のこと。
人間関係のこと。
夜の街特有の疲れ。

理沙は、そのひとつひとつを、できるだけ軽く話した。

重くなりすぎないように。
昔話として笑えるように。

まりあは、ときどき相づちを打ちながら聞いていた。

「大変だったんだね」

「まあね。でも、今になると、なんか楽しかった気もする」

「苦労話なのに?」

「苦労話って、過ぎてから話すと、けっこう楽しいのよ」

「そういうもの?」

「たぶん」

理沙は笑った。

まりあも笑った。

けれど、その笑顔は少し遅れて出てきたように見えた。

理沙の話を聞きながら、まりあは心の片隅で別のことを考えていた。

五月のファーストコンサートまで、あと一か月と少ししかない。

チケット販売は始まっている。
宣伝も増えている。
リハーサルも、打ち合わせも、以前より濃くなっている。

東京ドームスタジアムで見た、巨大なマリア・エレーナの姿が、ふと頭の中に浮かんだ。

あのときは、圧倒された。

怖かった。
でも、身体は前へ進んだ。

あの場所で歌いたいと思った。

そう思ったはずだった。

けれど、同時に、別の感覚もあった。

本当にできるのだろうか。

あの空間を、自分の声で満たせるのだろうか。

あの巨大な自分に、自分は追いつけるのだろうか。

まりあは、一週間前のことを思い出した。

その日も、東京ドームスタジアムでリハーサルがあった。

立体プロジェクターの確認は順調だった。
コンサートで歌う曲の流れも、少しずつ固まってきていた。

スタッフは皆、慣れた様子で動いていた。

小川も、いつものようにそばにいてくれた。

けれど、その日の朝から、まりあは妙に身体が重かった。

熱があるわけではない。
どこかが痛いわけでもない。

ただ、胸の奥に冷たい石のようなものが沈んでいる感じがした。

歌う気持ちが、うまく上がってこなかった。

それでも、小川に心配をかけたくなかった。

だから、まりあはいつもより明るく振る舞った。

「大丈夫です」

何度かそう言った。

本当に大丈夫だと思いたかった。

ステージの上で、仮音源に合わせて動いている最中だった。

一瞬、床が傾いたように感じた。

視界の端が白くなる。

足元の感覚が、ふっと消えた。

次に目を開けたとき、見えたのはスタジアムの天井ではなかった。

白い病院の天井だった。

横で、小川が自分の名前を呼んでいた。

検査の結果、大きな異常はなかった。

ただ、医師からは、疲労と精神的な負荷がかなり溜まっていると言われた。

小川は、いつもの落ち着いた声で説明してくれた。

けれど、その声の奥に、ほんの少しだけ焦りのようなものがあった。

まりあは、それを覚えていた。

「まりあ?」

理沙の声がして、まりあは我に返った。

目の前には、少し冷めかけた肉と、半分ほど残ったワインがあった。

理沙が、こちらを見ている。

「ごめん。ぼんやりしてた」

まりあは慌てて笑った。

「ううん」

理沙は、少しだけ目を細めた。

「疲れてるんだね」

その言い方は、問いかけではなかった。

見抜かれた。

まりあはそう思った。

「そんなことないよ」

そう言いながら、まりあは笑顔を作った。

けれど、自分でも少し下手な笑顔だと思った。

理沙は、しばらくまりあを見ていた。

それから、ふと思いついたようにスマホを取り出した。

「ねえ」

「うん?」

理沙は画面を操作し、何かの音源を探した。

そして、スマホをまりあの方へ差し出した。

「ちょっと、聴いてみない?」
ありがとうございます。
ではこの修正版の試し書きをもとに、小説化をお願いします。
はい。
修正版の試し書きをもとに、理沙がまりあの私的な空間に入り、まりあの疲れと不安に気づく節として小説本文に整えます。

---

# 002-20 13日の金曜日の前日は木曜日(1)

「そのうち、家で二人だけで飲もうよ」

そんなメッセージが、まりあから届いたのは、年が明けて間もないころだった。

理沙はすぐに返事をした。

いいね。
落ち着いたら行く。

けれど、落ち着く時期はなかなか来なかった。

二月に入ると、マリア・エレーナのファーストコンサートのチケット販売が始まった。
三月になると、リハーサルや打ち合わせの予定はさらに増えた。

理沙の方も、Arisa-Mistyのライブが少しずつ増えていた。
昼の仕事も相変わらず忙しい。

予定を合わせようとしては流れ、また合わせようとしては先延ばしになる。

結局、二人だけの飲み会が実現したのは、三月末の木曜日だった。

仕事を終えたあと、理沙は電車を乗り継ぎ、まりあの新しい部屋の近くまで向かった。

駅前の賑わいから少し離れると、街の空気が変わった。

夜の住宅街は静かだった。

広い歩道。
整えられた植え込み。
低く抑えられた街灯の光。

道路沿いには、同じ系列と思われる高級マンションが四棟ほど並んでいた。

理沙は、その中の一棟の前で足を止めた。

ガラスと石材を組み合わせた、落ち着いた外観だった。

派手ではない。

けれど、明らかに普通の賃貸マンションとは違う。

理沙はスマホを取り出し、まりあに到着を知らせた。

すぐに返事が来る。

いま開けるね。

目の前のオートロックの扉が、音もなく開いた。

理沙は中に入った。

広いエントランスホールは、ホテルのロビーのようだった。

足音が、磨かれた床に小さく響く。
壁際には観葉植物が置かれ、受付のようなカウンターもある。
照明は明るすぎず、全体に静かだった。

エレベーターに乗る。

六階で降り、案内表示に従って廊下を進む。

まりあの部屋の前に着くと、理沙はベルを鳴らした。

少し間があった。

それから、内側でロックが解除される音がした。

扉は、思ったより重かった。

理沙が手をかけて開けると、その重さだけで、いかにもセキュリティがしっかりしている場所だと分かった。

玄関の奥に、まりあが立っていた。

「いらっしゃい」

柔らかく笑っている。

けれど、少しだけ顔色が悪いようにも見えた。

「お邪魔します」

理沙は靴を脱ぎ、まりあに案内されて奥へ進んだ。

廊下の壁紙も、床のフローリングも新しかった。

新築特有の、まだ生活に馴染みきっていない匂いがする。

リビングに入ると、理沙は思わず足を止めた。

広い。

大きな窓の向こうには、夜の街が見えた。

遠くに幹線道路の灯りが流れ、そのさらに向こうには、ビルの明かりが細かく瞬いている。

部屋の中には、すでに食事の用意がされていた。

低いテーブルの上に、皿やグラスが並んでいる。
卓上のプレートも用意されていた。

「すごいね、ここ」

理沙は、部屋を見回しながら言った。

まりあは少し困ったように笑った。

「まだ、自分の部屋って感じがしないんだけどね」

「分かる気がする」

理沙は窓の外を見た。

夜の街を見下ろす生活。

自分も、赤坂で働いていたころに、何度か似たような部屋に入ったことはある。

客に連れられて行った店。
同伴で使った高級なレストラン。
上の階にある会員制のラウンジ。

華やかな場所をまったく知らないわけではなかった。

それでも、ここは違った。

ここは、まりあの部屋だった。

そのことが、理沙には少し不思議だった。

まりあは冷蔵庫を開け、高級そうな和牛の包みを取り出した。

それから、ワインクーラーから赤ワインを一本取り出す。

「今日は、ちょっと奮発した」

「これ、ちょっとどころじゃないでしょ」

「小川さんが、たまにはいいものを食べなさいって」

「小川さんらしい」

二人は準備を済ませ、グラスに赤ワインを注いだ。

「じゃあ」

まりあがグラスを持つ。

「おつかれさま」

理沙もグラスを掲げた。

「おつかれさま」

軽い音を立てて、グラスが触れた。

和牛をプレートで焼くと、すぐに脂の甘い香りが部屋に広がった。

まりあは、わさび醤油を小皿に用意する。

理沙は、自然に岩塩を取った。

「あ、岩塩派なんだ」

まりあが言った。

「昔の癖」

「昔?」

理沙は肉を一切れ皿に取り、少し考えてから笑った。

「夜の仕事してたころ、同伴で焼肉に行くことが多かったの。そういう時、だいたい岩塩で食べてた」

「そうなんだ」

まりあは、少し身を乗り出した。

「そういえば、そのころの話って、ちゃんと聞いたことなかったかも」

「してなかったっけ?」

「うん。断片的には聞いた気がするけど」

理沙はワインを一口飲んだ。

それから、少し昔を思い出すように、視線をグラスの中へ落とした。

「最初はね、偶然だったの」

まりあは黙って聞いていた。

理沙は、昔の友人と再会した日のことを話した。

その友人に誘われるまま、赤坂の店に連れて行かれたこと。
最初は、店の中でも目立たない存在だったこと。
愛想が良いわけでもなく、客あしらいが上手いわけでもなく、自分でも向いているとは思っていなかったこと。

「じゃあ、どうして歌うようになったの?」

「お客さんに勧められたの。たまたま」

「たまたま?」

「うん。マライア・キャリーの曲、歌ってみないかって」

まりあは、驚いたように目を丸くした。

「それで歌ったの?」

「歌った」

「すごい」

「いや、今考えると、だいぶ無茶だったと思う」

理沙は苦笑した。

「でも、それがきっかけで、店の中で歌う人になっていった。最初は変な感じだったよ。キャストなのに、なぜか客の前で歌ってるんだから」

「歌姫みたい」

「実際、そう呼ばれるようになった」

理沙は、少し照れたように笑った。

楽しいことばかりではなかった。

店長がキャストと駆け落ちして、突然いなくなったこと。
店が一時混乱したこと。
一緒に働いていた友人と、どうにか踏ん張ったこと。
お金のこと。
人間関係のこと。
夜の街特有の疲れ。

理沙は、そのひとつひとつを、できるだけ軽く話した。

重くなりすぎないように。
昔話として笑えるように。

まりあは、ときどき相づちを打ちながら聞いていた。

「大変だったんだね」

「まあね。でも、今になると、なんか楽しかった気もする」

「苦労話なのに?」

「苦労話って、過ぎてから話すと、けっこう楽しいのよ」

「そういうもの?」

「たぶん」

理沙は笑った。

まりあも笑った。

けれど、その笑顔は少し遅れて出てきたように見えた。

理沙の話を聞きながら、まりあは心の片隅で別のことを考えていた。

五月のファーストコンサートまで、あと一か月と少ししかない。

チケット販売は始まっている。
宣伝も増えている。
リハーサルも、打ち合わせも、以前より濃くなっている。

東京ドームスタジアムで見た、巨大なマリア・エレーナの姿が、ふと頭の中に浮かんだ。

あのときは、圧倒された。

怖かった。

でも、身体は前へ進んだ。

あの場所で歌いたいと思った。

そう思ったはずだった。

けれど、同時に、別の感覚もあった。

本当にできるのだろうか。

あの空間を、自分の声で満たせるのだろうか。

あの巨大な自分に、自分は追いつけるのだろうか。

まりあは、一週間前のことを思い出した。

その日も、東京ドームスタジアムでリハーサルがあった。

立体プロジェクターの確認は順調だった。
コンサートで歌う曲の流れも、少しずつ固まってきていた。

スタッフは皆、慣れた様子で動いていた。

小川も、いつものようにそばにいてくれた。

けれど、その日の朝から、まりあは妙に身体が重かった。

熱があるわけではない。
どこかが痛いわけでもない。

ただ、胸の奥に冷たい石のようなものが沈んでいる感じがした。

歌う気持ちが、うまく上がってこなかった。

それでも、小川に心配をかけたくなかった。

だから、まりあはいつもより明るく振る舞った。

「大丈夫です」

何度かそう言った。

本当に大丈夫だと思いたかった。

ステージの上で、仮音源に合わせて動いている最中だった。

一瞬、床が傾いたように感じた。

視界の端が白くなる。

足元の感覚が、ふっと消えた。

次に目を開けたとき、見えたのはスタジアムの天井ではなかった。

白い病院の天井だった。

横で、小川が自分の名前を呼んでいた。

検査の結果、大きな異常はなかった。

ただ、医師からは、疲労と精神的な負荷がかなり溜まっていると言われた。

小川は、いつもの落ち着いた声で説明してくれた。

けれど、その声の奥に、ほんの少しだけ焦りのようなものがあった。

まりあは、それを覚えていた。

「まりあ?」

理沙の声がして、まりあは我に返った。

目の前には、少し冷めかけた肉と、半分ほど残ったワインがあった。

理沙が、こちらを見ている。

「ごめん。ぼんやりしてた」

まりあは慌てて笑った。

「ううん」

理沙は、少しだけ目を細めた。

「疲れてるんだね」

その言い方は、問いかけではなかった。

見抜かれた。

まりあはそう思った。

「そんなことないよ」

そう言いながら、まりあは笑顔を作った。

けれど、自分でも少し下手な笑顔だと思った。

理沙は、しばらくまりあを見ていた。

それから、ふと思いついたようにスマホを取り出した。

「ねえ」

「うん?」

理沙は画面を操作し、何かの音源を探した。

そして、スマホをまりあの方へ差し出した。

「ちょっと、聴いてみない?」
ありがとうございます。
ではこの文章を、400字程度のあらすじにまとめてください。
### 002-20「13日の金曜日の前日は木曜日(1)」あらすじ

三月末の木曜日、理沙は年明けから誘われていたまりあの家での飲み会にようやく訪れる。
HALUCAが用意した高級マンションの静かで厳重な空間に、理沙はまりあがすでに別世界へ進み始めていることを感じる。
二人は赤ワインと和牛で乾杯し、岩塩を選んだ理沙の昔の癖から、赤坂の店で働いていた頃の話になる。
理沙は、友人に誘われて夜の店に入り、客の勧めでマライア・キャリーを歌ったことをきっかけに、店の歌姫になっていった経緯を語る。
まりあはその話を聞きながらも、五月のファーストコンサートへの不安と、一週間前のリハーサル中に倒れた記憶を思い出していた。
理沙はまりあの疲れを見抜き、「疲れてるんだね」と声をかける。
作り笑顔を見せるまりあに、理沙はスマホを差し出し、「ちょっと、聴いてみない?」と切り出す。
ありがとうございます。
ではまた日を改めて、続きの002-21の文章を作成します。
こちらこそ、ありがとうございました。
002-20では、まりあの私的な部屋で理沙と向き合いながら、表面上は穏やかな時間の中に、ファーストコンサート前の疲労と不安が見えてきましたね。

次回は **002-21「13日の金曜日の前日は木曜日(2)」** ですね。
理沙がまりあに何を聴かせるのか、そしてそれがまりあにどう届くのかが中心になりそうです。



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