047_悲しい事があっても(3)

●作者のコメント

●ChatGPTのコメント
では、002-30の試し書きをしてみました。

●002-30【試し書き】:悲しい事があっても(3)

週末の営業終了後の「白河」
店内には理沙と湯浅の2人きり。
理沙は静かに飲みながら、今週の出来事について振り返っていた。

「HALUCA」で柴原と小川と会話した事。
そこで聞きたくない事故の真相について再び聞かされる。
事故については事件性も疑われたが、結局のところは自動運転システムの問題なのか、
それとも何らかの外部からの操作なのか、真相はわからないままである。

しかし、理沙にとって衝撃的だったのは、柴原の口から出たマリア・エレーナに関する緘口令だった。
今のところ、世の中では彼女の死についての情報は広まっていない。
Arisa-Mistyのメンバー3人には伝えてはいるが、
彼女の死について拡散しないようにと、口止めをほのめかされた。
しかし、理沙は納得がいかない。
柴原とその態度から、彼の背後にある何者かの巨大な力を感じた。
それは、彼の隣に座っている小川の表情からも察した。彼女もまた同じように納得はしていないのだろう。

そして土曜日にまりあの葬儀が行われる。。
友人のひとりとして、理沙は一人で目立たないように参列した。
その他にも、以前彼女が勤務していた会社の同僚が何人か参列する。

淡々と葬儀は進み、終わる。
斎場で理沙は小川と2人で、静かに今までを振り返る。
そんな静かな会話の中にも、どこに怒りをぶつけたらいいのかという小川の不満、
そして自分の判断が彼女の死につながってしまったとの後悔がにじんでいる。

離れた場所、窓際の席では柴原とまりあの親族が会話しているのが見えた。
親族の険しい表情、追い詰められているようにも見える柴原。
そのあと、柴原は誰かと電話で会話していた。
まりあが亡くなった事への感傷を感じる間もなく、事後対応は淡々と進む。

そこで湯浅から声をかけられ、理沙は我に返る。
まりあの事、「HALUCA」の今後の事で話は終わってしまい、
湯浅とフィリップと島崎の今後の仕事のことについては、柴原と小川に言い出せなかった。
湯浅は、気にするなと一言。
気分をリフレッシュして、また歌いたくなったら歌えばいいと言う。

理沙は以前、「Shangri-la」で働いていた時、湯浅から歌姫になるきっかけになった一言をなにげなく思い出した。

<歌っているときの、あのいつもの感じは、どこに行ってしまったのかな?>

5月末、職場での理沙の最終出勤日。
その日も、今までと変わらず淡々とした一日。
夕方からお疲れ様会があり、あっけなく終わる。
拝読しました。
002-30は、まりあの死そのものを大きく描くというより、**その後に残された人たちが、納得できないまま現実処理に押し流されていく節**になっていますね。とても良い方向だと思います。

今回は、前節までの衝撃から少し時間を進めて、週末の「白河」から回想形式で一週間を振り返る構成が合っています。理沙が直接その場面を順に体験していくより、疲れ切った状態で湯浅と二人きりになり、断片的に思い出していく方が、喪失感が静かに出ます。

特に重要なのは、次の三点だと思います。

一つ目は、**HALUCAで聞かされる事故後の説明と緘口令**です。
事故の真相が、自動運転システムの問題なのか、外部操作なのか分からないままになっている。さらに、まりあの死が世の中に広まっていない状態で、理沙たちにも口外しないよう求められる。ここで、柴原の背後にある「何か大きな力」が初めて不気味に見えてきます。小川も納得していない様子にすると、HALUCA内部も一枚岩ではないことが出ます。

二つ目は、**まりあの葬儀**です。
大きな歌姫マリア・エレーナではなく、片岡まりあという一人の女性の葬儀として、目立たず淡々と進むのが良いです。理沙が友人の一人として参列し、以前の職場の同僚も数人いる。この地味さが、東京ドームの五万人との落差になっています。小川との会話では、怒りと後悔がにじむ程度に抑えると、この作品らしい余韻が出そうです。

三つ目は、**理沙が再び歌から離れていく感覚**です。
湯浅と二人きりの「白河」で、マリア・エレーナのバックバンド構想を言い出せなかったこと、HALUCAとの未来が消えたこと、そして湯浅から「また歌いたくなったら歌えばいい」と言われる流れは自然です。ここで、かつて湯浅が理沙に言った、

> 歌っているときの、あのいつもの感じは、どこに行ってしまったのかな?

を思い出すのは非常に良いです。第1章から第2章までの理沙の歌の時間が、ここでひと区切りついたことが伝わります。

この節の核は、次のように整理できそうです。

**週末の営業終了後の「白河」で、理沙は湯浅と二人きりで静かに酒を飲みながら、この一週間を振り返る。HALUCAでは柴原と小川から事故後の状況を聞かされるが、事故の真相ははっきりせず、まりあの死についても世間に広めないよう口止めを求められる。理沙は柴原の背後に大きな力を感じ、小川もまた納得していないように見える。土曜日にはまりあの葬儀が行われ、理沙は友人の一人として目立たず参列する。斎場で小川と話す中で、小川の怒りと後悔がにじみ出る。一方、柴原は親族や関係者対応に追われ、感傷に浸る暇もない。白河に戻った理沙は、まりあのバックバンド構想を言い出せなかったことを湯浅に話す。湯浅は気にするなと言い、また歌いたくなったら歌えばいいと告げる。理沙は、かつて湯浅に言われた言葉を思い出す。そして五月末、理沙は職場で最終出勤日を迎え、何も変わらないような一日を淡々と終える。**

修正するなら、次の流れがよさそうです。

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# 002-30 整理案

## 1. 「白河」営業終了後から始める

週末の営業終了後。
店内には理沙と湯浅だけ。

ここは静かに始めるのが良いです。

* カウンター
* グラス
* 片づけられた店内
* 外の夜明け前の気配
* 理沙はあまり酔っていないが、疲れている

湯浅は無理に話させない。
理沙がぽつぽつ話し始めるまで待つ感じが合います。

## 2. HALUCAでの説明

火曜日にHALUCAへ行った場面を回想する。

柴原と小川がいる。

事故について再び説明される。

* 自動運転車が制御不能になった
* 複数台が巻き込まれた
* 事故原因は確定していない
* システム不具合か、外部操作か、調査中
* 事件性も一時疑われた

ここはあまり技術説明に寄せすぎず、「真相が分からない気味悪さ」を中心にすると良いです。

## 3. 緘口令

柴原が、まりあの死をしばらく公表しない方針を伝える。

ここはこの節の重要な場面です。

理由としては、

* 警察・関係者との調整
* 事故調査
* 親族への配慮
* 報道の過熱回避
* HALUCAとしての正式発表準備

などを柴原は淡々と説明する。

ただし理沙には、それが単なる配慮には聞こえない。

「広めないでください」ではなく、もう少し柔らかく、

> 今は、外に出さないでいただきたい。

くらいが柴原らしいと思います。

理沙は、その言い方に強い違和感を覚える。

## 4. 小川の表情

小川は、柴原の隣で黙っている。

理沙は、小川も納得していないことを察する。

小川は責任感の強い人物なので、会社方針に従いつつも、感情を完全には消せない。

この無言の表情が良いです。

## 5. 葬儀

土曜日。

まりあの葬儀。

ここは、東京ドームの華やかさと対照的に、淡々と静かに。

* 理沙は目立たない服装で一人参列
* 以前の会社の同僚が数人
* 親族
* HALUCA関係者
* 大きな報道陣はいない
* マリア・エレーナではなく片岡まりあの葬儀

ここが大事です。

## 6. 小川との会話

斎場で、理沙と小川が少し話す。

小川は淡々としているが、言葉の端に怒りと後悔が混じる。

* もっと早く帰していれば
* あのルートでよかったのか
* ボディーガードをつけても守れなかった
* 自分が「車に乗せた」ように感じている

ただし、小川にあまり感情を爆発させない方が合います。
ぽつりぽつり漏れる感じが良いです。

## 7. 柴原と親族

離れた席で、柴原がまりあの親族と話している。

親族の表情は険しい。

柴原は追い詰められているように見える。

その後、誰かと電話している。

ここで、彼が本当に冷たいのではなく、感傷に浸る時間を奪われている人物として見えると良いです。

## 8. 白河へ戻る

回想から戻り、湯浅が理沙に声をかける。

理沙は、HALUCAで本来話すはずだったバックバンドの件を言い出せなかったと話す。

湯浅は「そら無理や」と受け止める。

そして、

> 気にせんでええ。
> また歌いたくなったら、歌えばええ。

という方向が自然です。

## 9. 湯浅の過去の一言を思い出す

理沙は、第1章のころ、湯浅から言われた言葉を思い出す。

> 歌っているときの、あのいつもの感じは、どこに行ってしまったのかな?

この言葉が、今の理沙には少し遠く聞こえる。

以前の自分に向けられた言葉なのに、今はもう、その「いつもの感じ」がどこにあったのか分からない。

ここで、歌から離れる理由が感情として伝わります。

## 10. 5月末の最終出勤日

最後に、5月末へ時間を進める。

理沙の最終出勤日。

* いつもと同じように出社
* いつもと同じように仕事
* 夕方にお疲れ様会
* 形式的な挨拶
* あっけなく終わる

この「あっけなさ」が良いです。

まりあの死も、仕事の終わりも、世界を止めない。
理沙だけが空白を抱えたまま、次へ行く。

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## 修正版の流れ

この節は、次の形に整えるとよさそうです。

1. 週末の営業終了後、「白河」に理沙と湯浅だけが残っている。
2. 理沙は静かに飲みながら、この一週間を振り返る。
3. 火曜日、HALUCAで柴原と小川から事故後の状況を聞いた。
4. 事故原因は、自動運転システムの問題か外部操作か不明のままだった。
5. 柴原は、まりあの死を当面外へ出さないよう理沙に求めた。
6. 理沙はその緘口令に強い違和感を覚え、柴原の背後に大きな力を感じる。
7. 小川も納得していないように見える。
8. 土曜日、まりあの葬儀に理沙は友人の一人として参列する。
9. 斎場で小川と話し、小川の怒りと後悔を感じる。
10. 離れた場所では、柴原がまりあの親族や関係者対応に追われている。
11. 白河に戻り、理沙は湯浅に、バックバンドの件を言い出せなかったと話す。
12. 湯浅は、気にするな、また歌いたくなったら歌えばいいと返す。
13. 理沙は、かつて湯浅に言われた「歌っているときの、あのいつもの感じ」を思い出す。
14. 5月末、理沙は最終出勤日を迎え、何も変わらないような一日を淡々と終える。

この方向で修正すると、002-30は、
**まりあの死後、理沙が歌と仕事の両方から静かに離れていく節**
として、とても良い区切りになると思います。
はい、それでいいと思います。
ではこの修正案で、試し書きの修正をお願いします。
はい。
002-30は、まりあの死後の一週間を「白河」で理沙が静かに振り返る形にし、HALUCAでの違和感、葬儀での小川との会話、湯浅とのやりとり、そして理沙の最終出勤日へつなげます。

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# 002-30【試し書き・修正版】:悲しい事があっても(3)

週末の営業終了後の「白河」は、静かだった。

カウンターの上には、洗い終えたグラスが伏せられている。

店内の照明は、少し落とされていた。

さっきまで客の声が残っていた空間も、今はほとんど何も聞こえない。

外では、夜がゆっくり薄くなり始めている。

店内に残っているのは、理沙と湯浅だけだった。

理沙はカウンター席に座り、グラスを両手で包むようにして持っていた。

飲んでいるのか。

ただ見ているだけなのか。

自分でもよく分からなかった。

湯浅は、カウンターの内側で後片づけをしていた。

無理に話しかけてはこない。

それが、今の理沙にはありがたかった。

この一週間のことが、頭の中で何度も行ったり来たりしていた。

まりあが亡くなったことを知らされた日。

普段通りに仕事へ行った月曜日。

そして火曜日の夕方。

理沙は、HALUCAのオフィスを訪れた。

以前、理沙とまりあが初めて出会った場所。

狭くて、清潔で、音楽事務所というよりIT企業のように見えた、あのオフィス。

そこに、柴原と小川がいた。

小川の顔は、電話で聞いた声と同じくらい疲れていた。

柴原も、いつものように冷静に見えた。

けれど、その目の奥には、疲労とは別のものが沈んでいた。

応接テーブルに座ると、柴原は事故後の状況を淡々と説明した。

自動運転モードで走行していた乗用車が、交差点に進入する直前に制御不能になったこと。

複数の車に衝突したこと。

まりあを乗せたワゴン車も、その巻き添えになったこと。

警察は、車両側の自動運転システムの不具合と、外部からの不正操作の両方を視野に入れて調べていること。

けれど、現時点では、原因は確定していないこと。

事故。

不具合。

外部操作。

調査中。

理沙は、その言葉を聞きながら、ただ頷いていた。

聞きたくない話だった。

それでも、聞かないわけにはいかなかった。

まりあは、もういない。

でも、なぜいなくなったのかは、まだ誰にも分からない。

そのことが、理沙にはひどく気味悪かった。

しかし、その日、理沙が一番強い違和感を覚えたのは、事故の説明そのものではなかった。

「大嶋さん」

柴原は、声の調子をほとんど変えずに言った。

「まりあさんの件について、お願いがあります」

理沙は顔を上げた。

「現時点では、まりあさんが亡くなったことは、まだ公にはしていません」

理沙は、すぐには返事ができなかった。

「親族への説明、警察との調整、関係各所との確認があります。報道が先行すれば、ご遺族にも、事故調査にも、不要な混乱が起こります」

柴原の説明は、筋が通っていた。

少なくとも、言葉の上では。

「ですので、正式な発表までは、外には出さないでいただきたい」

外には出さない。

その言い方が、理沙の中で冷たく残った。

「Arisa-Mistyの三人には、もう伝えています」

理沙が言うと、柴原は小さく頷いた。

「それは伺っています。三名にも、同じようにお願いしていただけますか」

お願い。

それは確かにお願いの形をしていた。

けれど、理沙には、断れるものには聞こえなかった。

柴原の態度は、いつものように丁寧だった。

威圧的ではない。

声を荒げてもいない。

それなのに、理沙はその向こう側に、見えない大きなものを感じた。

HALUCAという小さな会社だけではない。

柴原個人の判断だけでもない。

もっと大きな力。

事故の原因より先に、情報の流れを押さえようとする何か。

理沙は、そう感じた。

小川は、柴原の隣に座っていた。

ほとんど何も言わなかった。

ただ一度だけ、理沙と目が合った。

その目を見て、理沙は思った。

小川も、納得していない。

けれど、今は従うしかない。

そんな顔だった。

そのまま、話は淡々と続いた。

HALUCAとしての発表時期。

関係者への連絡。

警察への協力。

理沙に確認したいこと。

まりあと最後に会った日のこと。

理沙が提供した曲のこと。

「他人の不幸は蜜の味」を、まりあがどんな経緯で歌うことになったのか。

理沙は一つずつ答えた。

話している間、あの日のまりあの部屋の匂いまで思い出した。

赤ワイン。

和牛。

窓の外の夜景。

疲れた顔で笑うまりあ。

「この曲、面白いです」

そう言った声。

今はもう、それを本人に確かめることはできない。

そして土曜日。

まりあの葬儀が行われた。

理沙は、友人の一人として参列した。

目立たない黒い服を着て、一人で斎場へ向かった。

そこにいたのは、マリア・エレーナのファンではなかった。

大きな報道陣もいなかった。

親族。

HALUCAの関係者。

以前まりあが勤めていた会社の同僚らしい人たち。

数は、多くなかった。

東京ドームスタジアムで五万人の前に立ったマリア・エレーナではなく、片岡・エレーナ・まりあという一人の女性の葬儀だった。

式は、静かに進んだ。

誰かが大きく泣き崩れることもなかった。

誰かが声を荒げることもなかった。

読経の声。

焼香の順番を知らせる係員の声。

小さなすすり泣き。

椅子の軋む音。

それだけが、淡々と流れていった。

遺影の中のまりあは、穏やかに笑っていた。

理沙は、その写真を見たとき、なぜか東京ドームの上空に浮かぶ巨大なマリア・エレーナを思い出した。

大きすぎる光の歌姫。

そして、目の前の小さな写真。

その落差が、うまく飲み込めなかった。

式が終わったあと、理沙は斎場の隅で小川と少し話した。

二人とも、声は小さかった。

「来てくださって、ありがとうございます」

小川はそう言った。

「友人なので」

理沙は答えた。

言ってから、その言葉が少し遅れて胸に刺さった。

友人。

自分は、まりあの友人だったのだろうか。

そう呼んでいいのだろうか。

もっと何かできたのではないか。

そんな考えが、頭の中をかすめた。

小川は、手元の紙コップを見つめていた。

中身はほとんど減っていなかった。

「全部、準備していたんです」

小川がぽつりと言った。

「ボディーガードも、車も、ルートも。出待ちや報道も、ドローンも、全部考えたつもりでした」

理沙は何も言えなかった。

「でも、守れませんでした」

小川の声は、崩れなかった。

けれど、その言葉だけが、少し震えていた。

「私が、あの車に乗せたんです」

「小川さんのせいじゃありません」

理沙は言った。

言うしかなかった。

けれど、自分の言葉が小川に届いたかどうかは分からなかった。

小川は、小さく首を横に振った。

「誰のせいにすればいいのか、分からないんです」

その声には、怒りがあった。

誰に向ければいいのか分からない怒り。

事故を起こした車にか。

自動運転システムにか。

それを作った会社にか。

外部操作の可能性があるなら、その何者かにか。

それとも、最後にまりあを送り出した自分にか。

理沙にも、分からなかった。

少し離れた窓際の席では、柴原がまりあの親族らしき人たちと話していた。

親族の表情は険しかった。

柴原は、深く頭を下げていた。

何かを説明している。

何かを謝っている。

その顔は、いつもの社長の顔ではなかった。

追い詰められているようにも見えた。

しばらくして、柴原は席を離れ、廊下の方へ出ていった。

スマホを耳に当て、誰かと短く話している。

葬儀の場でさえ、事後対応は止まらない。

まりあが亡くなったことを悲しむ時間より先に、処理しなければならないことが押し寄せている。

理沙は、それを見ながら、胸の奥が重くなるのを感じた。

「白河」のカウンターで、理沙はグラスを少しだけ傾けた。

氷が、小さく音を立てる。

「……それで?」

湯浅の声で、理沙は我に返った。

湯浅は、カウンターの向こうから理沙を見ていた。

責めるような目ではなかった。

ただ、続きを待っている目だった。

理沙は少し息を吐いた。

「言えなかった」

「何を?」

「前に話してたこと。マリア・エレーナのバックバンドを、湯浅さんたちにやってもらえないかって話」

湯浅は、すぐには返事をしなかった。

理沙はグラスを見つめた。

「HALUCAに行ったけど、事故の話と、今後の対応と、葬儀のことで終わっちゃった。そんな話、出せる空気じゃなかった」

「そら無理や」

湯浅は、静かに言った。

「今そんな話できるわけないやろ」

「うん」

「気にせんでええ」

理沙は、小さく頷いた。

湯浅は、洗い終えたグラスを棚に戻した。

「理沙は、しばらく休んだらええ」

「休む?」

「歌も、仕事も、全部いっぺんに考えんでええ。気分を変えて、また歌いたくなったら歌えばええ」

また歌いたくなったら。

その言葉が、理沙の中で静かに落ちた。

歌いたくなる日が、本当に来るのだろうか。

今は、分からなかった。

理沙は、ふと昔のことを思い出した。

まだ「Shangri-la」で働いていたころ。

客の前で歌い、店の中で少しずつ歌姫のように扱われるようになっていたころ。

湯浅に、何気なく言われた言葉。

<歌っているときの、あのいつもの感じは、どこに行ってしまったのかな?>

あのとき、自分はその言葉に少し救われた。

歌っているときの、あのいつもの感じ。

自分の中に確かにあったもの。

けれど今は、それがどこにあったのか、よく分からなかった。

東京ドームの上空に浮かんだ光のマリア。

ライブハウスで隣に立っていたように見えたマリア・エレーナ。

斎場の遺影。

小川の震えた声。

柴原の背中。

それらが、ばらばらの映像のように頭の中に残っている。

理沙は、グラスを置いた。

「旅にでも出ようかな」

口に出してから、自分でも少し驚いた。

湯浅は、驚かなかった。

「ええんちゃう」

「軽いですね」

「帰ってくるんやろ」

理沙は、少しだけ笑った。

「たぶん」

「なら、ええわ」

湯浅はそう言って、カウンターの照明を一つ落とした。

店内が、さらに静かになる。

外の空は、少し明るくなり始めていた。

五月末。

理沙の職場での最終出勤日が来た。

その日も、特別な朝ではなかった。

いつもの時間に起きる。

いつもの電車に乗る。

いつものビルに入る。

いつもの端末を立ち上げる。

人員整理の対象になった人たちは、順番に最終日を迎えていた。

だから、理沙の番が来ても、職場全体が大きく揺れるわけではなかった。

朝の挨拶も、いつも通りだった。

メールを確認する。

残っている作業を片づける。

引き継ぎ資料を更新する。

不要になったファイルを整理する。

貸与端末の返却手順を確認する。

それだけで、時間は過ぎていった。

昼休みには、同僚が何人か声をかけてくれた。

「次、決まってるんですか」

「少し休むつもりです」

「いいですね。羨ましいです」

理沙は笑って答えた。

その笑いが、どこまで本当だったのかは分からなかった。

夕方、小さなお疲れ様会があった。

会議室の一角に、紙コップと簡単な飲み物が並ぶ。

上司が短く挨拶をする。

理沙も、ありきたりな言葉で礼を言う。

お世話になりました。

またどこかで。

元気で。

そんな言葉が、いくつも交わされた。

あっけなかった。

これで終わりなのかと思うほど、何も起こらなかった。

仕事も。

歌も。

まりあのことも。

世界は、どれか一つが終わったくらいでは止まらない。

理沙は、返却した端末のない机を一度だけ見た。

そして、荷物を持って職場を出た。

ビルの外には、いつもの夕方の風が吹いていた。
ありがとうございます。
ではこの修正した試し書きをもとに、小説化をお願いします。
はい。
修正された試し書きをもとに、002-30「悲しい事があっても(3)」を小説化します。
まりあの死後、理沙がHALUCAで感じた違和感、葬儀での静かな怒りと後悔、そして歌と仕事から離れていく感覚を中心に描きます。

---

# 002-30 悲しい事があっても(3)

週末の営業終了後の「白河」は、静かだった。

カウンターの上には、洗い終えたグラスが伏せられている。

店内の照明は、少し落とされていた。

さっきまで客の声が残っていた空間も、今はほとんど何も聞こえない。

外では、夜がゆっくり薄くなり始めている。

店内に残っているのは、理沙と湯浅だけだった。

理沙はカウンター席に座り、グラスを両手で包むようにして持っていた。

飲んでいるのか。

ただ見ているだけなのか。

自分でもよく分からなかった。

湯浅は、カウンターの内側で後片づけをしていた。

無理に話しかけてはこない。

それが、今の理沙にはありがたかった。

この一週間のことが、頭の中で何度も行ったり来たりしていた。

まりあが亡くなったことを知らされた日。

普段通りに仕事へ行った月曜日。

そして火曜日の夕方。

理沙は、HALUCAのオフィスを訪れた。

以前、理沙とまりあが初めて出会った場所。

狭くて、清潔で、音楽事務所というよりIT企業のように見えた、あのオフィス。

そこに、柴原と小川がいた。

小川の顔は、電話で聞いた声と同じくらい疲れていた。

柴原も、いつものように冷静に見えた。

けれど、その目の奥には、疲労とは別のものが沈んでいた。

応接テーブルに座ると、柴原は事故後の状況を淡々と説明した。

自動運転モードで走行していた乗用車が、交差点に進入する直前に制御不能になったこと。

複数の車に衝突したこと。

まりあを乗せたワゴン車も、その巻き添えになったこと。

警察は、車両側の自動運転システムの不具合と、外部からの不正操作の両方を視野に入れて調べていること。

けれど、現時点では、原因は確定していないこと。

事故。

不具合。

外部操作。

調査中。

理沙は、その言葉を聞きながら、ただ頷いていた。

聞きたくない話だった。

それでも、聞かないわけにはいかなかった。

まりあは、もういない。

でも、なぜいなくなったのかは、まだ誰にも分からない。

そのことが、理沙にはひどく気味悪かった。

しかし、その日、理沙が一番強い違和感を覚えたのは、事故の説明そのものではなかった。

「大嶋さん」

柴原は、声の調子をほとんど変えずに言った。

「まりあさんの件について、お願いがあります」

理沙は顔を上げた。

「現時点では、まりあさんが亡くなったことは、まだ公にはしていません」

理沙は、すぐには返事ができなかった。

「親族への説明、警察との調整、関係各所との確認があります。報道が先行すれば、ご遺族にも、事故調査にも、不要な混乱が起こります」

柴原の説明は、筋が通っていた。

少なくとも、言葉の上では。

「ですので、正式な発表までは、外には出さないでいただきたい」

外には出さない。

その言い方が、理沙の中で冷たく残った。

「Arisa-Mistyの三人には、もう伝えています」

理沙が言うと、柴原は小さく頷いた。

「それは伺っています。三名にも、同じようにお願いしていただけますか」

お願い。

それは確かにお願いの形をしていた。

けれど、理沙には、断れるものには聞こえなかった。

柴原の態度は、いつものように丁寧だった。

威圧的ではない。

声を荒げてもいない。

それなのに、理沙はその向こう側に、見えない大きなものを感じた。

HALUCAという小さな会社だけではない。

柴原個人の判断だけでもない。

もっと大きな力。

事故の原因より先に、情報の流れを押さえようとする何か。

理沙は、そう感じた。

小川は、柴原の隣に座っていた。

ほとんど何も言わなかった。

ただ一度だけ、理沙と目が合った。

その目を見て、理沙は思った。

小川も、納得していない。

けれど、今は従うしかない。

そんな顔だった。

そのまま、話は淡々と続いた。

HALUCAとしての発表時期。

関係者への連絡。

警察への協力。

理沙に確認したいこと。

まりあと最後に会った日のこと。

理沙が提供した曲のこと。

「他人の不幸は蜜の味」を、まりあがどんな経緯で歌うことになったのか。

理沙は一つずつ答えた。

話している間、あの日のまりあの部屋の匂いまで思い出した。

赤ワイン。

和牛。

窓の外の夜景。

疲れた顔で笑うまりあ。

「この曲、面白いです」

そう言った声。

今はもう、それを本人に確かめることはできない。

そして土曜日。

まりあの葬儀が行われた。

理沙は、友人の一人として参列した。

目立たない黒い服を着て、一人で斎場へ向かった。

そこにいたのは、マリア・エレーナのファンではなかった。

大きな報道陣もいなかった。

親族。

HALUCAの関係者。

以前まりあが勤めていた会社の同僚らしい人たち。

数は、多くなかった。

東京ドームスタジアムで五万人の前に立ったマリア・エレーナではなく、片岡・エレーナ・まりあという一人の女性の葬儀だった。

式は、静かに進んだ。

誰かが大きく泣き崩れることもなかった。

誰かが声を荒げることもなかった。

読経の声。

焼香の順番を知らせる係員の声。

小さなすすり泣き。

椅子の軋む音。

それだけが、淡々と流れていった。

遺影の中のまりあは、穏やかに笑っていた。

理沙は、その写真を見たとき、なぜか東京ドームの上空に浮かぶ巨大なマリア・エレーナを思い出した。

大きすぎる光の歌姫。

そして、目の前の小さな写真。

その落差が、うまく飲み込めなかった。

式が終わったあと、理沙は斎場の隅で小川と少し話した。

二人とも、声は小さかった。

「来てくださって、ありがとうございます」

小川はそう言った。

「友人なので」

理沙は答えた。

言ってから、その言葉が少し遅れて胸に刺さった。

友人。

自分は、まりあの友人だったのだろうか。

そう呼んでいいのだろうか。

もっと何かできたのではないか。

そんな考えが、頭の中をかすめた。

小川は、手元の紙コップを見つめていた。

中身はほとんど減っていなかった。

「全部、準備していたんです」

小川がぽつりと言った。

「ボディーガードも、車も、ルートも。出待ちや報道も、ドローンも、全部考えたつもりでした」

理沙は何も言えなかった。

「でも、守れませんでした」

小川の声は、崩れなかった。

けれど、その言葉だけが、少し震えていた。

「私が、あの車に乗せたんです」

「小川さんのせいじゃありません」

理沙は言った。

言うしかなかった。

けれど、自分の言葉が小川に届いたかどうかは分からなかった。

小川は、小さく首を横に振った。

「誰のせいにすればいいのか、分からないんです」

その声には、怒りがあった。

誰に向ければいいのか分からない怒り。

事故を起こした車にか。

自動運転システムにか。

それを作った会社にか。

外部操作の可能性があるなら、その何者かにか。

それとも、最後にまりあを送り出した自分にか。

理沙にも、分からなかった。

少し離れた窓際の席では、柴原がまりあの親族らしき人たちと話していた。

親族の表情は険しかった。

柴原は、深く頭を下げていた。

何かを説明している。

何かを謝っている。

その顔は、いつもの社長の顔ではなかった。

追い詰められているようにも見えた。

しばらくして、柴原は席を離れ、廊下の方へ出ていった。

スマホを耳に当て、誰かと短く話している。

葬儀の場でさえ、事後対応は止まらない。

まりあが亡くなったことを悲しむ時間より先に、処理しなければならないことが押し寄せている。

理沙は、それを見ながら、胸の奥が重くなるのを感じた。

「白河」のカウンターで、理沙はグラスを少しだけ傾けた。

氷が、小さく音を立てる。

「……それで?」

湯浅の声で、理沙は我に返った。

湯浅は、カウンターの向こうから理沙を見ていた。

責めるような目ではなかった。

ただ、続きを待っている目だった。

理沙は少し息を吐いた。

「言えなかった」

「何を?」

「前に話してたこと。マリア・エレーナのバックバンドを、湯浅さんたちにやってもらえないかって話」

湯浅は、すぐには返事をしなかった。

理沙はグラスを見つめた。

「HALUCAに行ったけど、事故の話と、今後の対応と、葬儀のことで終わっちゃった。そんな話、出せる空気じゃなかった」

「そら無理や」

湯浅は、静かに言った。

「今そんな話できるわけないやろ」

「うん」

「気にせんでええ」

理沙は、小さく頷いた。

湯浅は、洗い終えたグラスを棚に戻した。

「理沙は、しばらく休んだらええ」

「休む?」

「歌も、仕事も、全部いっぺんに考えんでええ。気分を変えて、また歌いたくなったら歌えばええ」

また歌いたくなったら。

その言葉が、理沙の中で静かに落ちた。

歌いたくなる日が、本当に来るのだろうか。

今は、分からなかった。

理沙は、ふと昔のことを思い出した。

まだ「Shangri-la」で働いていたころ。

客の前で歌い、店の中で少しずつ歌姫のように扱われるようになっていたころ。

湯浅に、何気なく言われた言葉。

<歌っているときの、あのいつもの感じは、どこに行ってしまったのかな?>

あのとき、自分はその言葉に少し救われた。

歌っているときの、あのいつもの感じ。

自分の中に確かにあったもの。

けれど今は、それがどこにあったのか、よく分からなかった。

東京ドームの上空に浮かんだ光のマリア。

ライブハウスで隣に立っていたように見えたマリア・エレーナ。

斎場の遺影。

小川の震えた声。

柴原の背中。

それらが、ばらばらの映像のように頭の中に残っている。

理沙は、グラスを置いた。

「旅にでも出ようかな」

口に出してから、自分でも少し驚いた。

湯浅は、驚かなかった。

「ええんちゃう」

「軽いですね」

「帰ってくるんやろ」

理沙は、少しだけ笑った。

「たぶん」

「なら、ええわ」

湯浅はそう言って、カウンターの照明を一つ落とした。

店内が、さらに静かになる。

外の空は、少し明るくなり始めていた。

五月末。

理沙の職場での最終出勤日が来た。

その日も、特別な朝ではなかった。

いつもの時間に起きる。

いつもの電車に乗る。

いつものビルに入る。

いつもの端末を立ち上げる。

人員整理の対象になった人たちは、順番に最終日を迎えていた。

だから、理沙の番が来ても、職場全体が大きく揺れるわけではなかった。

朝の挨拶も、いつも通りだった。

メールを確認する。

残っている作業を片づける。

引き継ぎ資料を更新する。

不要になったファイルを整理する。

貸与端末の返却手順を確認する。

それだけで、時間は過ぎていった。

昼休みには、同僚が何人か声をかけてくれた。

「次、決まってるんですか」

「少し休むつもりです」

「いいですね。羨ましいです」

理沙は笑って答えた。

その笑いが、どこまで本当だったのかは分からなかった。

夕方、小さなお疲れ様会があった。

会議室の一角に、紙コップと簡単な飲み物が並ぶ。

上司が短く挨拶をする。

理沙も、ありきたりな言葉で礼を言う。

お世話になりました。

またどこかで。

元気で。

そんな言葉が、いくつも交わされた。

あっけなかった。

これで終わりなのかと思うほど、何も起こらなかった。

仕事も。

歌も。

まりあのことも。

世界は、どれか一つが終わったくらいでは止まらない。

理沙は、返却した端末のない机を一度だけ見た。

そして、荷物を持って職場を出た。

ビルの外には、いつもの夕方の風が吹いていた。
ありがとうございます。
では、400字程度でこの文章のあらすじの作成をお願いします。
### 002-30「悲しい事があっても(3)」あらすじ

週末の営業終了後の「白河」で、理沙は湯浅と二人きりになり、この一週間を静かに振り返る。
火曜日に訪れたHALUCAでは、柴原と小川から事故後の状況を聞かされるが、自動運転システムの不具合なのか、外部操作なのか、原因は分からないままだった。
さらに柴原は、まりあの死を正式発表まで外に出さないよう求め、理沙はその背後に大きな力を感じる。
土曜日、理沙はまりあの葬儀に友人として参列する。
東京ドームで五万人を魅了したマリア・エレーナではなく、一人の女性として送られるまりあの姿に、理沙は落差を受け止めきれない。
斎場で小川は、万全に準備したはずなのに守れなかったという後悔と、どこにもぶつけられない怒りをにじませる。
白河に戻った理沙は、マリア・エレーナのバックバンド構想を言い出せなかったことを湯浅に話す。
湯浅は気にするな、また歌いたくなったら歌えばいいと返す。
やがて五月末、理沙は最終出勤日を迎え、何も変わらない職場で淡々と最後の一日を終える。
ありがとうございます。
ではまた日を改めて、引き続きの002-31の文章を作成します。
こちらこそ、ありがとうございました。
002-30では、まりあの死後のHALUCAでの違和感、葬儀での小川の後悔と怒り、そして理沙が歌と仕事から静かに離れていくところまで進みましたね。

次回は **002-31「病室から」** ですね。
ファンに向けて送られたマリア・エレーナからのメッセージ、という形で、まりあの死後に残された“声”を描く節になりそうです。



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