東京は、止まることを知らない。
昼間でも十分に明るい街は、夜になるとさらに光を増す。
無数のビルの窓が一斉に灯り、道路は車列の赤と白で埋め尽くされる。
遠くから見れば、それは巨大な発光体のようにも見えた。
湾岸では、次の拡張が始まっている。
海沿いには、骨組みだけの巨大な建造物が立ち並び、昼夜を問わず作業灯が揺れていた。
カジノを中心とした複合施設。
さらに沖合では、宇宙港の建設が進んでいる。
誰が決め、いつ始まったのか。
それを気にする者は、ほとんどいない。
クレーンは休まず動き、構造物は静かに背を伸ばしていく。
だが、東京のすべてが新しくなったわけではない。
政治の中心地から少し離れた赤坂。
高層ビルの足元には、古い看板のままの店が残っている。
通りには、客引きの男たちが立ち、
腕を組んだ男女がゆっくりと歩く。
ビルの中では、グラスの触れ合う小さな音。
低い笑い声。
終わりのない内緒話。
理沙が社会人として最初に足を踏み入れたのは、そんな場所だった。
店内の照明が落ち、スポットライトが点く。
グラスを置く音が止まる。
視線が集まる。
彼女はマイクを握る。
客の一人が、いつものように曲名を告げる。
理沙は小さく頷く。
イントロが流れ始める。
赤坂の夜に、澄んだ声が重なる。
それが、彼女の始まりだった。
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