001_02_「Shangri-la」の店内、ステージで歌う理沙、客との会話

クラブ「Shangri-la」。

照明の落ちた店内で、ステージだけが白く浮かび上がっている。
光の中心に、理沙は立っていた。

イントロが静かに流れる。
マライア・キャリーの「Vanishing」。

理沙はマイクを握る。最初の一音を丁寧に置く。

ボックス席では、歌に耳を傾ける客もいれば、
グラスを傾けながらキャストと笑い合う客もいる。
視線はまばらだ。
それでも、理沙は声を揺らさない。

サビに入る。
高音が、暗い天井へと伸びていく。

歌い終えると、理沙はゆっくりと頭を下げた。
まばらな拍手。
まだ開店して間もない時間帯だった。

ステージを降りると、客のもとへ戻る。
グラスを持ち直し、少しだけ肩の力を抜く。

「今日の最後、きれいだった」

向かいの客が言う。
理沙は笑って、「ありがとうございます」と返す。
それ以上は続けない。

30分ほど、他愛のない話が続く。
次に会う日の約束。
立ち上がる客に合わせて、理沙も席を離れる。

エレベーターの中では、2人とも言葉が少ない。
1階に着く。
自動ドアの向こうは、夜の赤坂。

「じゃあ、また」

客は人波に紛れていく。
理沙はその背中を、少しだけ見送った。
それから、店へ戻る。

入口の前で、黒服が目配せをする。
次の指名。

理沙は頷き、フロアを横切る。

二人組の客。
すでに恵梨香が席についている。理沙はその隣に、控えめに腰を下ろす。

主役は、あくまで恵梨香。
けれど、ただの背景にもならない。
視線を奪いすぎず、消えすぎない位置を探る。

グラスに氷が当たる音。
笑い声。
会話の流れを読みながら、理沙は一歩引き、時折一歩前に出る。

二十分ほど経った頃、黒服が背後に立つ。

指先で、小さな合図。

理沙は話の区切りを見つける。
「それでですね」と続きそうな客の言葉に重ならないよう、
少しだけ余韻を残して立ち上がる。

「失礼します」

笑顔は崩さない。

ステージの光とは違う、
フロアの影の中で、理沙は次の席へと向かった。



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