「でも」
彩名は理沙をまっすぐに見た。
「恵梨香のことなんだけど」
声は落ち着いている。
「最近、何か気づいたことある?」
理沙は少し考える。
「……売り上げ、伸びてるし」
「うん」
「ナンバー1だし。自信がついたとか、そういう変化なら」
彩名はゆっくり首を振った。
「そこじゃない」
壁越しに、フロアの笑い声が響く。彩名は腕を組んだまま言う。
「阿久津の動き、見てる?」
「黒服の?」
「リーダー」
短く訂正する。
「恵梨香の席に入る回数、増えてると思わない?」
理沙は一瞬、視線を落とす。
「……言われてみれば」
「仕草は?」
理沙は言葉を探す。
「気のせいかも」
彩名は頷く。
「気のせいなら、それでいい」
少し間を置く。
「でもね、店って、気のせいで崩れることがある」
その声は静かだった。
理沙は彩名を見る。
焦りも怒りもない。ただ、計算する目。
理沙は気づく。
最近、自分が恵梨香のヘルプに入る回数が増えていること。
席の流れを読むように動かされていること。
偶然ではないのかもしれない。
「……私に、見ておいてほしいってこと?」
彩名はほんの少しだけ目を細める。
「見てほしいっていうか」
一拍。
「理沙なら、気づけると思った」
沈黙。
店内の音が、遠くから聞こえる。
「何かあったら」
理沙が言う。
「すぐ言うよ」
彩名は小さく頷く。
「無理はしなくていい。ただ、覚えておいて」
それだけ言うと、彩名は腕をほどいた。
理沙は何事もなかったように歩き出す。
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