008_16_「私たちは駒にすぎない」(2)

土星への出発予定日を過ぎているとはいえ、まだ何か方法はあるはずだと、会議室では引き続き案出しが行われていた。
誰もがその場に残り続けていること自体が、まだ諦めていない証でもあったが、
同時に、時間が既に取り返しのつかないところまで進んでいることも、全員が理解していた。

そうなることを見越していたのか、ブレントは迷いなく端末を操作し、皆の目の前でプランの精緻化に取りかかる。

「船体重量を削減する場合の、シミュレーションをしてみます」

その声は、先ほどまでの議論の延長には聞こえなかった。
既に作業に入っている者の声だった。

生活必需品の削減は現実的ではない。そう結論づけると、ブレントは対象を機器類と装備品に絞る。
土星での作業に直接関係しないものを、木星周回軌道上に一時的に投棄する――
いくつかのパターンを、ほとんど間を置かずに書き出していく。

「無人探査機は、すでにスタンバイ状態なのでエウロパに向かわせます」

本来であれば、エウロパで土壌と水のサンプルを採取したのち、「エンデヴァー」に帰還する予定だった。
しかし、その回収を土星からの帰還途中、あるいは二回目の航海に回すことで、搭載重量を削減できる。

「その分の重量軽減を反映すると、土星までの日程がわずかに短縮されます」

数値はすぐにディスプレイに反映される。
確かに、わずかではあるが短縮されている。
誰もそれを口にしないが、その“わずか”がどれほどの意味を持つかは、全員が理解していた。

ブレントは間を置かず、次の項目に移る。

「次に、ガニメデに着陸する着陸船」

本来の計画では、3人の乗組員が搭乗し、ガニメデに着陸して調査を行い、その後「エンデヴァー」に帰還するはずだった。
しかし、その前提を外す。

「無人の状態で着陸し、調査のみを行います。その後は木星周回軌道上で待機させ、回収は後回しにする」

説明は簡潔だった。判断に迷いはない。
再び数値が更新される。わずかながら、航海日程が短縮される。

「灯台衛星についても、3基のうち2基はすでに軌道投入済みです。残り1基は、あすにでも投入できます」

ここだけは、変更がなかった。
予定通りに進めるべき項目として、淡々と処理される。
会議室には、キーボードを叩く音と、システムの応答音だけが残る。
誰も異論を挟まない。それは納得しているからではなく、他に選択肢がないことを理解しているからだった。

やがて、ブレントの手が止まる。

「残りは、この二つです」

その言葉で、空気がわずかに変わる。

まず提示されたのは、タイタンで使用する着陸船だった。
しかし、それについては説明すらなかった。
ブレントは全員の顔色を一度だけ確認し、何も言わずにその項目をリストから消す。
誰も異を唱えない。

それで十分だった。

「あとは、これですね」

次に表示された項目に、自然と全員の視線が集まる。
原子力ラムジェット機。装備品の中で、最も大きく、最も重い。

誰もすぐには目を逸らさなかった。

ブレントは、先ほどと同じように一人ひとりの表情を確認する。
しかし今度は、誰の表情からも明確な答えを読み取ることはできない。ただ、視線だけがその項目に固定されている。

沈黙。

短くはない時間が流れる。

やがてブレントは、判断を委ねるように視線を船長に向けた。
言葉にはしないが、その意図は明確だった。
それに引き寄せられるように、全員の視線が同じ方向へと動く。

船長は、ディスプレイを一度見たあと、ゆっくりと視線を上げる。誰の顔も確認しない。そのまま、静かに言った。

「これは、持っていこう」

それだけだった。
理由の説明も、補足もない。



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