あらすじ_12_19


メンタル女は長い廊下に立っていた。2年近くかけて地球から居住用モジュールを輸送し、先だってタイタンに到着した建設機械が広い土地を整地し、
居住用モジュールがタイタンに到着すると、整地された土地に次々に降ろされた。一つの小さな町に匹敵する数のモジュールが連結され、
最後に核融合動力ユニットが到着した。たったの1年ほどで何もなかったタイタンの土地に直径数百メートルの街が出現した。
マイナス百数十度の寒い場所で、核融合動力ユニットが稼働を開始すると、暗くて長い廊下には灯りがつき、エアコンが大量の温風を吐き出した。
メンタル女は行政官と一緒に、街が新たに生命活動を始めるのを見守った。あと少しすると1200人の居住者が到着するはずである。
半年間の出張は、終わりの見えない出張にすり替わっていた。地球で待っている夫と子供はどう思って毎日を過ごしているのだろう。
個室に戻ると、大統領候補者の討論会の中継を見ながら夫と子供へのメッセージを書いた。現職と新人の討論とはいえ、4年前と全く同じ面子。
地球での喧騒はここでは全く無縁である。1200人の居住者が到着すると、完全閉鎖・独立型の社会実験が始まるはずだった。表向きは。



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