あらすじ_16_01


西日が窓から差し込んできて、店の中がオレンジ色に染まる頃、理沙は開店準備をしていた。ドアが開いてトランクを持った客が入ってくる。
まだ開店前だとその客に言おうとして、やめた。客は理沙に手を伸ばしてきて握手を求めてきた。かつての上司の大佐だった。
理沙は固く大佐の手を握り、彼からの退役の連絡に対してなにも返事をしなかったことを詫び、飲み物の用意をした。
上司は半年前に軍を退役し、旅行の途中で空港から理沙の店を訪ねてきたところだった。店の場所は孫娘から聞き出していた。
しばらくの間は理沙と2人きりだったので、近況の話が続いた。理沙が軍を退役してからの生活の事や、今の店の状況の事など、
開店時刻は過ぎていたが、珍しく客は来なかったので元上司のためにちょっとした食事を作り始め、手を動かしながらも彼との話は続いた。
テーブルの上にスパゲティとサラダが置かれ、元上司は食べ始める。会話は一段落して店の中は静かになった。
客はまだ来なかった。食べる元上司の姿を眺めながら理沙はグラスを磨き続ける。気まずいような異様な空気が徐々に店の中に漂い始めた。



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