あらすじ_21_01
検疫手続きにかなり時間がかかったが、理沙と実施主任はようやく地球に戻った。ワシントンはちょうど桜の季節だった。
理沙が毎年欠かさずに続けていたメンタル女の墓への墓参りは、木星での仕事のために2年ほどできなかったが、2人で墓の前に立ち、
静かに目を閉じた。忙しい時でも、時々目を閉じて気持ちを落ち着けると、理沙が思い出すのはメンタル女との仕事の日々だった。
タイタン基地での空しい最後の時を思い出すと、理沙は胸が締め付けられる思いがした。彼女の苦しさを想えばどんな苦労も大したことはない。
墓地から官庁街に続く道を2人は歩き、歩いている間も理沙は昨日の事業団長官との会話を思い出し、まもなく始まるタフな会議を想像した。
さまざまなオプションを想定しつつ、地球へ向かう船の中でも実施主任とは資料の中身の事で議論を交わし、精査したが、
そもそもその気のない人物たちを前にして、提案する意義があるのかと、事業団長官からは改めて釘をさされていた。
事業団本部オフィスの前で2人は立ち止まり、大きく深呼吸をする。タフな闘いを無事に終えて木星へ戻ることができるのだろうか。