あらすじ_25_13
管制室からの声が今まで以上に明瞭に直子には聞こえていた。聞こえるというよりは意識に直接届いているような感覚だった。
大赤斑の中心部分を目指して直子は上空から回り込むように飛行した。強烈な気流に巻き込まれながらも機体は持ちこたえて渦の中心に到達した。
渦の中心を下降するほど管制室の声は遠くなり、やがて聞こえなくなった。行けるところまで行ってやろうとさらに降下すると意識に語りかける声が。
危険を知らせるアラートのようにも思えた。なんとなく聞き覚えのある声だった。機体が大気圧力に耐える軋む音が聞こえてきて水平飛行に戻る。
異様な雲の底で、声の主に返答したが反応はなかった。限界圧力を告げるアラートが鳴ったが直子はさらに待ち続けた。
はるか遠くの方に光る何物かを見つけ、最大出力で追いかけたがそのまま逃げるように渦の中心から上昇し見えなくなってしまった。
直子はそのまま渦の中心から大赤斑を脱出し、気の向くまま軽々と周回軌道に戻り、いつの間にか操縦室に戻っていた。
大赤斑の中で限界まで機体を操作した直子はヒーロー扱いだった。しかし直子は大赤斑の底で出会った存在について話すことはしなかった。