1.プロジェクトの状況を説明するマリアン・ロザリー中佐

<過去は変える事はできませんが、これから先未来の行く先は変える事ができます。。。。>

静かな声だった。
しかし、その言葉には妙な重みがあった。

ワシントンDC、FSDD本部会議室。
長い楕円形のテーブルを挟み、会議室の空気は張りつめている。
壁面ディスプレイいっぱいに映し出されているのは、一人の女性士官の姿だった。

女性中佐、マリアン・ロザリー。
落ち着いた口調。軍服姿と肩口の階級章が、彼女が軍人であることを静かに示している。

会議テーブルの片側には、FSDD長官を筆頭に数名の管理職たち。
そしてSTU――Space Technologies United――の役員たちが並んでいる。
対して反対側には、合衆国政府官僚たち。予算局、安全保障担当、宇宙開発政策担当、皆、目の前の映像を黙って見つめていた。

ロザリー中佐は、最初に簡潔な自己紹介だけを済ませた。
今までの経歴を中心とした、必要最低限の説明だけだった。

その後は、ほぼ彼女だけが話し続けていた。
会議室側からの質問はない。いや、できないと言った方が正しかった。
彼女のいる場所は、地球から太陽を挟んで反対側。
太陽/地球L3ポイント。通信には約20分近いタイムラグが存在している。会話を成立させる距離ではない。

だからこそ、彼女は淡々と説明を続ける。

<数々の成功、数々の失敗、その上に現在が存在しています>

会議室中央の立体プロジェクターが起動し、空間上に映像群が浮かび上がる。

2040年代。「ディスカバリー」計画。
原子力推進船による外惑星探査計画。しかし結果は失敗。乗組員は瀕死の状態で生還したものの、世界中からの批判。

2050年代。「エンデヴァー」計画。
木星、土星探査。ヘリウム3調査。土星圏探査、タイタン着陸。そして、後の木星資源開発の基盤となる数々のデータ収集。

さらに映像は続く。

2060年代後半から本格化した木星資源開発。
木星周回軌道上に建設された巨大プラント群。ヘリウム3精製施設。地球/木星間の輸送インフラ。

<納税者、そして議会からの痛烈な批判を浴びた時期もありました>

ロザリー中佐は、少しだけ口元をゆるめた。
笑ったようにも見えたが、どちらかといえば苦笑に近かった。
木星開発初期。採算性への疑問。事故。予算超過。政治対立。国家間摩擦。幾度となくFSDD解体論が議会で浮上した。

しかし現在。

2080年代に入り、木星プラント群が本格稼働を開始すると、状況は一変した。
木星圏から運ばれるヘリウム3、水素、希少資源。大型タンカー群が、木星と地球圏を定期航行している。
かつて夢物語だった宇宙資源経済は、すでに現実になっていた。

投資会社。巨大企業。軍需産業。各国政府。
かつて宇宙開発を批判していた者たちまでが、今では木星圏への権益参入を競い始めている。

<まぁ、しょせんはそんなものです>

会議室にいた何人かが、わずかに表情を変えた。
しかし、誰も反論しない。
FSDD長官も、STU役員たちも、黙ったまま彼女の説明を聞いている。

ロザリー中佐は一呼吸置いたあと、画面越しに会議テーブル中央を指し示した。

<私たちは、さらにその先へ進まなければなりません>

立体映像が切り替わる。

巨大な小惑星。
表面には無数の掘削跡。光を放ちながら移動する小型作業機群。広大なソーラーパネル群と、接岸している宇宙船がいくつか。

<私たちの今の作業場所、「Metal-Seed-System」の新たな実験場です>

彼女は、「Metal-Seed-System」について説明を始めた。
STUが極秘開発を進めている自律増殖型作業ロボット群。小惑星資源を原材料として、自らを複製・増殖しながら施設建造を行うシステム。
昆虫のようにも見える小型作業機たちは、小惑星内部を掘削しつつ、自動的に自身を複製してゆく。

<最終的には、100万ユニットまで増殖し。。。>

映像が再び切り替わる。
今度は、巨大な宇宙船だった。
葉巻型船体。無数の格納デッキ。重厚な装甲構造。会議テーブルに映し出されたその艦は、圧倒的な存在感を放っている。

そして、その横に船体と同じ高さのロザリー中佐の立体映像が並ぶ。

<1つは、太陽系内の兵員輸送、作戦活動が可能な強襲揚陸艦の建造>

全長800メートル。
内部構造。輸送区画。整備ドック。揚陸艇格納庫。居住ブロック。指揮管制区画。
彼女は軍人らしく淡々と説明を続ける。

しかし説明が終わると、再び少しだけ皮肉を混ぜた声で言った。

<残念ながら、建造について議会承認は下りませんでした>

わずかに空気が緩む。
だが、その直後だった。
さらに巨大な物体が、強襲揚陸艦の横に現れる。
同じ葉巻型。しかし、そのサイズは別格だった。

全長1800メートル。

会議テーブルいっぱいの大きさの、巨大な立体映像。
会議室にいた官僚たちの何人かが、無意識に姿勢を正した。

<スタディのために考えたものですが、とりあえずはプランニングと設計は終えています>

誰の指示で進められたものなのか。軍案件なのか。STU主導なのか。それとも。。。。
ロザリー中佐は、その点については一切触れなかった。
ただ、ほんの少しだけ口元をゆるめる。

<ルーニー大統領は、こちらのプランにご興味を持たれているようです>

その瞬間、会議室の空気が変わった。
官僚たちの表情がわずかに硬くなる。
誰も口を開かない。

画面の向こう側で、ロザリー中佐は静かに彼らを見つめていた。

さて、どうなることやら。
そんな空気を、彼女は隠そうともしなかった。
そして、FSDD長官も、STU役員たちもまた、何も言わずに官僚たちへ視線を向けていた。



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