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− 連続小説掲示板 −

ここでは「理沙の物語」の詳細ストーリーを書いています。
なお、この掲示板は閲覧専用です。

最近更新が滞っていてすみません。。。。。(^_^;


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新たな決意(その5) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/15(Thu) 01:22 No.113  

こんなことを言うのもなんだけど・・・・と由紀は前置きして、
「幸子さん、昔は店のママやっていたんでしょ?」
まあ、いつかはわかることだからと理沙にも心の準備はできていた。「そうよ。」
「この店でママになるには、かなり努力しないとダメよ。」
道端で2人、タクシーを待っていた。
由紀はバス停の標識に寄りかかって、腕組みしている。
「幸子さんにはきつい言葉かもしれないけど、もしこの店でママになろうとしたら他人の3倍は努力しないと。それとプラスアルファ。」
タクシーがやってきた。
昇りかけの陽射しがビルの壁に反射して眩しい。ぼんやりした気分のまま2人の会話はそこで途絶えた。
「理沙。」由紀が呼んでいる。
気がつくと、駅に近い由紀の家の近所に来ていた。
「さっきの事だけど、これはこの店で半年間働いての結論。結果が全てじゃないけど、やっぱり店の中でいいポジションにつきたいでしょ?」
まあね・・・・理沙はそこまで言いかけて、喉の痛みに声がかすれた。
「でも、いろいろと頑張ってみるつもり。」
「いろいろって・・・・何を?」
由紀の家に到着した。
再び駅に向かうタクシーの中、理沙は一人で由紀の言葉の意味を考えながら、ぼんやりとした意識の中でまどろんでいた。



新たな決意(その4) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/14(Wed) 00:54 No.112  

「あなた、幸子さんと同じ店にいたんだ。」
由紀という娘とは店で働き始めた最初の日からうちとけて話をしていた。彼女もまだこの店では半年の新米で、年もあまり変わらなかった。
前の店のこととか、今までの仕事のことについてはあまり深く突っ込んだ話をしないのが暗黙の了解になっているが、うわさはどこからとなく広まるものだ。
まあ、由紀なら大丈夫か・・・・と、帰りに一緒に屋台でラーメンを食べながら前の仕事について2人だけで話をした。
由紀は1年ほど大学に通っていたが、学費を稼ぐために他のスナックでアルバイトをして、やがて学業と両立しなくなり学校を辞めた。
そして前の店では他の娘と喧嘩して、自分が悪いわけではないのにマスターに圧力をかけて無理やりやめさせられてしまったようである。
そして、比較的自分の家から近いこの店にきた、ということだ。
「由紀さん、今の店はどう?」
いきなりそんな質問を彼女にするのはどうかと思ったが、
「頑張った分がきちんと給料に反映するし、前の店では個人的な好みで待遇とか左右されたりもしたけどね。ここは能力がすべてだからね。」
なるほどね・・・・・理沙はラーメンの最後の汁を飲み干して小さく息をついた。
「友子ママって・・・・けっこう厳しい人?」
由紀はちょっと考えてから、
「まだ20代半ばらしいけど、成り上がってきた人だからね。でもそんなに性格きつくないと思うし、そうでないとトップは無理でしょ。」
と、実に当り障りのない返事をした。
由紀もラーメンを食べ終えて、2人は店を後にした。
「理沙さん・・・・ちょっと訊いてもいい?」



新たな決意(その3) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/14(Wed) 00:52 No.111  

店の客層も、前の店とはかなり違っている。
オフィス街に比較的近いところに位置していた前の店では、会社員、役員などが客層の多くを占めていて、落としてゆく金にはばらつきがあった。
それに対してこの店は、近所の客よりも郊外、さらには車でわざわざ2時間もかけてやってくる客もいる。
会社の経営者、それも個人で会社を起して成功した者たち、そして少々怪しい仕事を手がけている者たちも。
しかし金はたくさんあり、客単価は平均していて、しかも前の店よりも倍以上の高さである。
そして店で働く娘たちは、単価の高い客を一人でも多く確保するためにいつもしのぎを削っている。ここで支配しているのは力関係のみ。
売上に貢献すればするだけ自分の手元に入る金は多くなり、人気があれば指名は多く取れる。
そして指名が多くなり成績が上がると、指名単価まで上がるのでさらに収入は増えてゆく計算である。
そんな利権構造の中で、前の店では年収に匹敵する金額を数ヶ月、さらには一月で稼いでいる娘もいた。
そんな中で埋もれてしまわないか、顔には出さなかったが、理沙は・・・・とんでもない世界に来てしまったなぁ・・・と思った。

「ありさです、よろしくお願いします。」
今日もヘルプだったが、まあ、地道に開拓してゆくしかないと、ひたすら笑顔を売り込む。
それに対してすぐ隣のボックス席の稼ぎ頭は、客の広めるうわさだけでまた別な客が指名するといった状況。
隣の席の彼女の笑い声が絶えない。
「えっ、社長さんなの?・・・・なんとなくそんなだと思ったぁ。」
と、理沙は客の胸元に寄りかかって甘えてみる。
まだまだ道のりは遠そうだ。



新たな決意(その2) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/14(Wed) 00:49 No.110  

横浜の店で働き始めて、はやくも1週間たった。
幸子がママをしていた前の店のこじんまりした雰囲気とは対照的に、この店には常時40人以上のホステスがいて、
アルバイトの娘も含めると、その人数は100人近く。
さすがにその人数をまとめるママにはかなりの権力がある。初対面で理沙が感じたのは・・・・・一流女優のオーラ・・・といったところか。
「じゃ、がんばってね。」
友子と呼ばれているママは、幸子の見た目では20代前半とのことだったが、この道何十年もやっているような威厳が感じられた。

法律上の決まりで、面接時に個人IDを店には知らせることになっている。
もっともワケありの人間が働くところなので、個人IDですべての今までの社会生活、借金から犯罪暦までわかってしまうものだが、これはあくまでも決まりごと。
小さな店では今でも個人ID照会をしないケースが多い。
しかし、そんなことをしようとしまいと、幸子が小さなクラブのママをやっていたことは口伝えのうわさで知れてしまうこと。
「でも、どうしてこの店にしたの?」
帰りの電車の中で、理沙は幸子にきいた。
他のいい条件の店にママとして雇われる事だって可能だったかもしれない。そうすれば今の店でまた下っ端として苦労することもないだろうに。
「給料とか、条件が良かったからね。」
幸子はそう言っているが、理沙はそれが全てではないような気がしていた。



新たな決意(その1) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/14(Wed) 00:48 No.109  

「あ、直子、久しぶり。」
電車を降りて、改札をぬけて、ガード下に出る。電話で直子と話をしながら交差点を渡る。
「まあね、いろいろと話せば長くなるけど、大変だったよ。」
直子と会ってからもう半年以上になる。もうすぐ春になるというのに風が冷たい。コートの襟を立てる。
立ち止まって夜空を見上げると、巨大なビルが4つ光り輝いている。
かつては横浜再開発地区の象徴、かつ一番高い建物だったランドマークタワー。しかし8年前にはその数ブロック先にさらに高いビルが完成。
さらに同じ高さのビルが3年前に完成、もうひとつはつい先月に完成したばかり。
今立っている関内の駅前も、駅前の再開発工事中で、来年には駅前に公園のようなロータリーが完成する予定である。
しかし、それでも馬車道の風景はそのままだし、理沙が今歩いている伊勢佐木町の歓楽街の雰囲気は昔とそれほど変わってはいない。
「じゃあ、またそのうち会おうね。」
電話を切ると、理沙は急ぎ足で石畳の道を歩いた。
流しの2人組のバンドの演奏を聞きながら、彼女はやがて道のまんなかの街路樹そばに立っている幸子を見つけ、手を振った。
「ごめんごめん。」
幸子の表情が、なんとなく引き締まっているように見える。
「じゃ、行こうか。」そして彼女は足早に理沙の前を歩いた。

幸子は、再び一からやり直す決心をしていた。
マンションは売り払い、家はなく、とりあえず今のところは理沙の家に間借りしている。
しかしながら、幸子の表情には不安から来る暗さは全くなく、その足取りはさっそうとしていた。



生き残るために(その9) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/14(Wed) 00:47 No.108  

店にようやく買い手がついた。
2人での店番も今日で最後だった。
理沙と幸子はカウンター席でいつものように酒盛り。
「で・・・・・幸子、これからどうする?」
実は・・・と、ひとこと前置きしてから、
「また違う店で働き始めようと思って。」
「そうなんだ・・・・。」
ここ1ヶ月ほど、めまぐるしく過ぎ去った散々な日々だったが、ようやく先が見えてきたような気がして、理沙はほっとした。
「誰かの紹介?」
しかし、幸子は首を振った。
「自分で見つけて、昨日面接に行ってきた。その場で採用してくれたよ。」
場所は横浜。自宅からは今の倍の通勤時間だが、それは気にならない。
「それで・・・・理沙。」
幸子が真剣な目つきで見つめている。「なあに、幸子。」
彼女はテーブルの上の理沙の手に、自分の手のひらを重ねてきた。
「まじめに聞くよ。別に断ってもいいんだからね。」
息を止めて、理沙も彼女の目を見つめる。
「あなたも一緒に来る?来るのなら今度の店長にあなたを紹介するけど、でも覚悟してね。今の店とは全然違うところだよ。それでもいい?」



生き残るために(その8) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/14(Wed) 00:46 No.107  

幸子は声を荒げて「それじゃぁ、何のための警察なの?」
見を乗り出して突っかかろうとする彼女を、理沙はなんとかなだめた。
他人になりすまして空港まで来たマスターとれいなだったが、その足取りは空港で見事に本来の人物に入れ替わってしまった。
しかも、2人はそのあとどうなったのか、当初は調査に手間取っているという理由でなかなか状況を教えてもらえなかった。
しかし、ふたを開けてみれば・・・・・であった。
「もともとの個人コードがわかって、行き先もわかって、それなのに捕まえられなかったのは、どういうこと?」
担当者はそのあとも再び同じような説明の繰り返しだった。
外国に逃げて、そのあともホテルを転々として、
しかし、あるホテルでの宿泊を最後に、その姿がぱったりと消えてしまった。
「ちゃんと探しなさいよ、ねえ、あたし達の税金で食っているんでしょ?それだったら・・・・。」
押さえていなければ担当者に殴りかかっていたかもしれない。
まあ、まあ、と理沙は優しく彼女の肩を抱いた。
「ねえ、さ、ち、こ・・・・。」

本当に何かしたいと思っているのだろうか?
大切な人を失い、仕事も失い、そしてプレッシャーに押しつぶされそうになり、精神的にもぼろぼろの状態の幸子。
肩を抱いてよろよろと歩きながら、
本当に幸子を助けたいと思っているのか、それとも単なる同情の気持ちからただついていっているだけなのか、
このまま彼女についていっていいのだろうか、どん底まで落ちていって這い上がれなくなったらどうしよう?
理沙はそのとき、幸子を少し離れたところから見つめている自分の気持ちに気づいた。



生き残るために(その7) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/14(Wed) 00:44 No.106  

「決めたよ。」2人だけの店の中で、幸子は言った。
「理沙、マンションは売ることにしたよ。持ち物とかもある程度売って、それである程度借金を返そうと思ってる。」
2人ともお互いにまだ職探しの途中だった。そのかたわらで週に何日かは店に戻り、とりあえず何もせずにカウンター席で雑談をする。
店にはまだ買い手がついていなかった。店が売れるまでは責任をとってもらおうというのがオーナーとしての考えだった。
「じゃ、住むところ探しているの?」
何か言いづらいことでもあるのか、しばらく考えてから、あのね・・・・と幸子はようやく切り出した。
「住むところが見つかるまででいいから・・・・・あなたのマンションの一部屋貸してもらえないかな?」
しばらくの間、理沙は言葉が出なかった。
「ごめん・・・・無理だよね。あはは、ごめん。今のは聞き流して頂戴。」
「ちょっと・・・・・。」
理沙は幸子の空いたグラスにビールを注いだ。
「荷物が・・・・・・ちょっと無理だと思うけど。」

それから2時間ほど、日付が変わる時刻まで、2人は飲んだり話をしたりしていた。
突然、幸子の電話が鳴り出した。
「はい・・・・・ええ、そうですか・・・・・それでは。」幸子はそれだけの会話ですぐに電話を切った。
幸子は席を立った。
「理沙、マスターの手がかりがつかめたらしいよ。」



生き残るために(その6) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/14(Wed) 00:44 No.105  

「もしかしたら・・・・。」
グラスをもてあそびながら、理沙は焦点の定まらない目つきで、
「この店に、しばらく来られなくなるかも。」
「え・・・・どうして?」
バーテンは手を休めて、理沙の正面までやってきた「何かあったの?」
理沙は今までの店のごたごたの経緯を話した。他の客に気にかけることもなく話してゆくうちに気持ちが高ぶってつい大声になってしまう。
「また、普通の仕事にでも戻ろうかと思っているんだけどね・・・・。」
少しの間、2人の間に沈黙の時間が。
そうですか・・・・・とバーテンはつぶやいた。そして空になった理沙のグラスをそっと取り上げる。
「理沙さんの声がきけなくなるのは、ちょっと寂しいですね。」
はっと理沙は顔をあげた。
「あ、いや・・・・それはね。」
取り繕うような笑顔で、彼の表情を確認する。
「今までみたいに、しょっちゅう来られなくなるだけで・・・・。」
理沙の前に再びカクテルの注がれたグラスが置かれた。
「また愚痴が言いたくなったら来るからね。」
彼の顔に再び笑みが戻ってくるのを、理沙は上目づかいにながめていた。



生き残るために(その5) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/14(Wed) 00:43 No.104  

「はいそうですか・・・って済まされる問題じゃないでしょ?」
幸子が酒を飲むスピードはなかなか下がらない、むしろ加速していた。
マスターの今回の横領事件と同じパターンで、他人になりすまして普通に社会生活をしている人間は、まだ少ないとはいえ、その数は確実に増えていた。
そして、その犯罪に荷担している人間がシステム管理会社の内部におり、主に多重債務者などが彼らを利用しているという組織体制までできあがっていた。
警察の捜査の手が追いかけても、次々に姿を変えては足跡を残さないように会社組織に入り込み、システムに手を加える。
「どうして早くわからなかったのよ。そのくらい、きちんとチェックすれば絶対にわかるはずでしょ。」
そして、幸子がぐちをこぼしているその間にも、他人になりすまして堂々と社会に潜入し、悪事を働こうとする人間は確実に増えつづけていた。

髪をぼさぼさに振り乱して、テーブルに突っ伏していた幸子がようやく起き上がった。
もうすぐ朝になるところ。閉店近い居酒屋から出て足を引きずりながら歩く幸子。
しかし、よろよろと足元はおぼつかない状態。
そのまま地面に座り込んでしまった彼女を、理沙は肩に腕をまわして抱き上げた。
ごめんね・・・・・と、聞こえるか聞こえないかのかぼそい声で幸子はつぶやく。
「理沙、あたし負けないよ。」
うんうん・・・・・理沙は小さくうなずいた。
「本当に、あたし・・・・・・負けないから、必ず。」すっかりがらがら声で、よろよろした足取り。
ビルの壁にもたれかかって、ぼんやりした目つきで理沙を見つめている。
「絶対に・・・・・負けないからね。」

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