こんなことを言うのもなんだけど・・・・と由紀は前置きして、
「幸子さん、昔は店のママやっていたんでしょ?」
まあ、いつかはわかることだからと理沙にも心の準備はできていた。「そうよ。」
「この店でママになるには、かなり努力しないとダメよ。」
道端で2人、タクシーを待っていた。
由紀はバス停の標識に寄りかかって、腕組みしている。
「幸子さんにはきつい言葉かもしれないけど、もしこの店でママになろうとしたら他人の3倍は努力しないと。それとプラスアルファ。」
タクシーがやってきた。
昇りかけの陽射しがビルの壁に反射して眩しい。ぼんやりした気分のまま2人の会話はそこで途絶えた。
「理沙。」由紀が呼んでいる。
気がつくと、駅に近い由紀の家の近所に来ていた。
「さっきの事だけど、これはこの店で半年間働いての結論。結果が全てじゃないけど、やっぱり店の中でいいポジションにつきたいでしょ?」
まあね・・・・理沙はそこまで言いかけて、喉の痛みに声がかすれた。
「でも、いろいろと頑張ってみるつもり。」
「いろいろって・・・・何を?」
由紀の家に到着した。
再び駅に向かうタクシーの中、理沙は一人で由紀の言葉の意味を考えながら、ぼんやりとした意識の中でまどろんでいた。