「いいマンションがあるんだけど。」
この店で働き始めて半年、ママは理沙にそんなことを言ってきた。
「これから頑張ればなんとかなるから・・・・・」
彼女の知り合いの不動産関係の人から紹介された物件だった。場所はお台場の高層マンション。
しかし、間取りは夫婦で生活するようなもので、一人で生活するには広すぎる。
「いいじゃない。誰かといっしょになったら・・・・。」
あのね・・・・。そう簡単にそう言われても、と理沙は思った。
毎月の家賃はかなり高いものの、それでも都心に借りるよりはまだ安い。
引越しまでの日々はあわただしく過ぎてゆき、狭いアパートを出てゆく日がやってきた。
強行軍で1日で終わらせた引越しも無事に終わり、業者の人間も帰った後、理沙は一人でダイニングのテーブルに座った。
ぽつんと空いている向かいの席を見つめながら、ふとママの言ったことをまた思い出してしまった。