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− 連続小説掲示板 −

ここでは「理沙の物語」の詳細ストーリーを書いています。
なお、この掲示板は閲覧専用です。

最近更新が滞っていてすみません。。。。。(^_^;


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生き残るために(その4) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/14(Wed) 00:39 No.103  

どうやって明日から生活していこうか・・・という差し迫った問題に、幸子も理沙も悩んでいた。
幸子の場合、理沙と違って住んでいるマンションは買ったもので、しかも月あたりの支払いも理沙の場合のほぼ2倍あるのでなおさらだった。
「服でも売ろうかな?」と、彼女は笑っていたが、本当にそうでもしないと生活費すら手元には残らない状態である。
警察に足を運んだり、保険会社に行ったり、そしてさらには仕事探しまでかけもちで、一日はすぐに終わってしまった。
夜は条件のよさそうな店を自宅で探し、昼間は2人で手分けしてはそれぞれ事前に調べた候補の店に行く。
別に職種を選ばなければ仕事などたくさんあるのだが、家の支払いのことを考えると、そうもいかなかった。

警察から連絡があり、2人は面接を終えたその足でそのまま警察に行った。
「結論が出たようですね。」と、先日の担当者はあいかわらず他人事のように言った。
「で、つまりはですね・・・・・・。」
調査の結果、マスターとれいなは他人の個人コードを使って、その本人になりすまして生活していたということが判明した。
「でも、どうしてそんな判りきったこと調べるのに時間かかるの・・・・?」
そんな幸子の強い言い方にも、担当者はただ淡々と話す。
「先方のシステム管理者は、そんなことはないの一点張りでしたが、つい先日、先方から電話があって・・・。」
まあ、そんなものだろう・・・と、理沙もそばで聞きながら思った。
自分たちに不利になるような結論はなかなか出したくないのだろう。そして結論が出ても認めようとしない。
「結果が出ました。ある特殊な条件のもとでは、発生する可能性があるということがわかりました。」



生き残るために(その3) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/13(Tue) 23:22 No.102  

理沙も、幸子ママについて警察の窓口に行った。
「いったいどうなっているんですか?本当に捜査する気があるんですか?」
捜査セクションの管理職おぼしき人物が対応に出てきた。
「いやぁ・・・・。」と、彼は事務所にまで押しかけてきた2人に、ちょっと困ったことになったな・・・といった表情で、
「システム上ありえないと、管理センターの担当者は言っていますが、その・・・・調査自体、ここに来て暗礁に乗り上げているようなんです。」と、その説明にもあまり力がこもっていない。
「でも、こっちは悠長なことは言っていられないんです。」
そして、ママが担当者にきつい口調で訴えつづけても、全く暖簾に腕押しといった状態。
結局、2人は30分ほどその担当者と話をしたが、何の成果もなくとぼとぼと警察を後にすることになってしまった。

その後は、保険会社との打ち合わせ。
店の娘たちの今月の給料は、なんとか保険金で確保できそうだった。
しかし、彼女たちはもうこの店が長くないのを悟ってか、最後の給料をもらうと次々とやめてしまった。
幸子ママは本心では、今まで一緒に働いて気心も知れてきたみんなとどこかで店を再開したいと思っていたものの、
店の娘たちからすれば、そんなママの気持ちには関心はなく、
自分自身の生活で手一杯ということを理由に、一人また一人と去っていった。
やっぱり、その程度つながりだったのか・・・・と理沙は彼女たちの後ろ姿を見ながらやるせない心境になってきた。



生き残るために(その2) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/13(Tue) 23:21 No.101  

マスターとれいなはいったいどうやって姿を消したのか?
そもそも他人の個人コードを使って、全く他人になりすましながら、しかもその個人コードを使われた当の本人にもわからない方法。
警察の操作の途中で、その手法についておおよそのことが判明してきた。

個人コードの重複は、システムとしてはありえない事である。
たとえば買い物をするような場合、清算時に個人コードを入力するか、カードを使用して個人コードをシステムに照会する。
そのときにパスワード入力が要求される。
例えば1234という個人コードを持った人物がいるとする。その人物のパスワードは「ABC」だとする。
ここに2345という個人コードを持った別な人物がいる。この人物のパスワードは「BCD」だとする。
ここで、2345の人物が「個人コード1234+パスワードBCD」を入力したならば、当然としてコード不一致としてエラーとなる。
しかし、この人物が「個人コード1234+パスワードBCD」を入力した時、
システムが個人コード「2345」の人物がパスワード「BCD」を正常に入力したと認識する仕組みになっていたとしたら、果たしてどうだろうか?

警察からの捜査状況の報告がなかなか来ない。
しびれを切らしたママは警察に電話をした。
しかし、対応の窓口の人間はなぜかしどろもどろな返事しかしない。
ママはとうとう警察窓口に直接に文句を言いに行くことに決めた。



生き残るために(その1) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/13(Tue) 23:20 No.100  

冷酷だね・・・・と理沙は思った。
つい何日か前までは、和気あいあいとした雰囲気があったのが、今では殺伐とした雰囲気がこの店を覆い尽くしていた。
「私がなんと説明しても、納得してくれないのはわかってる。」
幸子ママは店の娘みんなを前にして、時々言葉を詰まらせながら、それでもなんとか懸命に声を絞り出していた。
「まず何よりも、今月の給料の件。あともう少し待ってください。こんな言葉しか出ないけど、かならず何とかします。」
理沙は、他のみんなの表情をチラ・・・・とながめる。
口元をきりり・・・・と引き締めて、何か言いたそうな。

<・・オーナー、なんとかお願いします。・・>
幸子ママがオーナーの手を握って懸命に懇願している表情が、理沙の脳裏に再びよみがえる。
<・・約束は約束だ。ここは閉鎖して売りに出す。ただでさえ赤字なのに、有り金まで持っていかれて・・>
でも・・・・と理沙は心の中で反論する。
赤字なのはあなたの管理する親会社だけでしょ・・・・?
<・・じゃ、オーナーはメンバーに同じ事を言えますか?・・>
<・・この店の責任者はあんただろう。私から話す必要はない・・>

店の最後のミーティングは終わり、メンバーみんなは帰り始めた。
・・・・でも、ママの怠慢も原因なんでしょ?・・・・
そんな会話が聞こえたような気がした。
理沙はふとあたりを見回したが、誰が言ったのかは確認できなかった。



第1部:ここまでのストーリー 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/13(Tue) 23:19 No.99  
主人公の理沙は、18歳になったある日、家を出て東京で一人暮らしをはじめる。
暑い夏のある日、彼女は何年かぶりで旧友の幸子に再会する。
幸子はあるナイトクラブのママをやっており、やがて理沙はその店で働き始めた。

店は金持ちの固定客が多く、比較的経営は安定している。
理沙もその店の中で、時には失敗もあったものの、徐々に成績を伸ばしてゆき、やがて幸子ママの勧めでお台場の高級マンションに引っ越した。
仕事がだんだん楽しくなってゆく中、店の娘たちが仕事の後に通っているクラブで、理沙は一人のバーテンと意気投合して、しだいに親しくなってゆく。

そんなある日、理沙は妹の直子と何年かぶりで会う。
家族の冷たい雰囲気に耐えかねて家を出たものの、家族の現状を妹から聞いてゆくうちに、次第に理沙は自分が身勝手な判断を下したことを反省する。

幸子ママは、自分を3年前に今の店に引き抜いてくれたマスターに淡い恋心を持っている。
なかなか表に出せなかったが、いつかは独立してマスターと2人で自分たちの店を持ちたいといつも思っていた。
しかし、店の中のベテランであるれいなは、そんな彼女の気持ちを見抜いているのかマスターとママの間に何かと横槍を入れていた。

年末のある日、理沙はママから衝撃的な事実を聞かされる。
店の親会社の社長であるオーナーが、親会社の経営不振を理由に、自分たちが働いているクラブを売りに出そうと計画しているというものだった。
そんなこととは知らずに、店の娘たちは店を盛り上げようと必死に働いた。
ある日、ママはマスターと2人だけになったとき、ママと2人で独立して店を持ちたいという気持ちを再確認し、嬉しく思った。

しかし、年末の給料日の日、マスターは突然姿を消してしまった。
そして店の売上金は全て消え去り、れいなの姿もマスターといっしょに消えてしまった。



逃亡(その9) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/13(Tue) 23:18 No.98  

帰りのタクシーの中、2人はほとんど無言だった。
店に戻り、オーナーとこれからのことについてママは話し合った。
被害の詳細についてのとりまとめと、警察への被害届の提出、
しかしまず何よりも、今日本来ならば店の娘みんなに渡すはずの給料について考えなくてはならない。
今月は年末キャンペーンもあって、通常の月の倍以上の売上を出していただけに、金銭的、精神的ダメージはかなりのものがある。
「とにかく、店の閉鎖は決定だ、明日でおしまい。」
オーナーはあっさりとそう言い放って、帰ってしまった。

「でもね・・・・・あきらめきれないよね。」
すっかりうつろな目でママはテーブルに頬杖をついている。
店の酒全部飲んでやるんだ・・・・と言って、ママはかれこれ2時間ずっとウィスキーをストレートで飲んでいる。
「どうしてわからなかったんだろうね、一時期はしっかり見張っていたから大丈夫と思ったのにね。」
ママに付き合って理沙も飲んでいるが、今日一日の騒動と、明日でこの店が閉鎖になることでのショックで、すっかり悪酔いしている。
「でも、幸子さ。」
すぐそばまで近寄って、理沙はママの肩を抱いた。
「やけになったらおしまいだよ。しっかりしようね。あたしも頑張る。」
うんうん・・・・とママもうなずいている。
そのあとずっと下を向いたままだったので、ママは寝てしまったのかと思った。
しかし、その肩が少し震えているのを見て、理沙は再び彼女の肩をやさしく抱いた。



逃亡(その8) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/13(Tue) 23:17 No.97  

重い足取りで、理沙と直子ママは事務室から出た。
空港ロビーの喧騒が、再び2人を現実の世界に引き戻した。
結局のところ、搭乗ゲートで引き止めた男女はマスターとれいなではないことが証明されたが、
肝心のマスターとれいなの居場所については、なにもわかってはいない。
同一の個人IDを持った人物が、2重に存在できること自体信じられない事であるし、ではそうなると昨日までのマスターとれいなは何者?
2人は空港の喫茶店に入った。
幸子ママは窓の外をぼんやりと見つめていた。
「ねえ、またマスターの家に行ってみない?」
しかし幸子ママは、窓の外の飛行機の発着の様子を見ているだけだった。
「行ってどうするの・・・・・・?」
ふぅ・・・・と、ママは重いため息をついた。
やがてポケットから煙草を取り出したものの、箱の中は空っぽ。
理沙は自分の煙草ケースの中から一本取り出して、ママに渡した。
「何か手がかりになるものがあるかもしれないし・・・・」
「でも、あの人はあの人じゃないのよ・・・・・。」
意味不明なその言葉に、理沙は次の言葉が出なかった。
それから5分ほど幸子ママは考え込んでいたが、やがて立ち上がった。
「理沙、帰ろうか。」



逃亡(その7) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/13(Tue) 23:17 No.96  

理沙は幸子ママのわきから首を突っ込んだ。
「違います・・・・・でも、どうして?」幸子ママは困惑している。
係員が困ったような表情。そして男は「だから、何も悪いことしていないですよ!」
「でも、あなたは確かに・・・。」そして幸子ママは彼のチケットに表示された名前を確認する。間違いなくそこにはマスターの本名があった。
しかし、その男はマスターではなかった。というか、マスターとは全然別人である。
そして彼に付き添っている女もれいなではない。しかし、彼女のチケットに表示された名前もれいなの本名である。
理沙も次の言葉が出なかった。

空港警察立会いのもとに、事務室での取調べが始まった。
その男女が持っているパスポート、個人登録IDカード、それらはすべて本人のものであり、個人情報はすべて整合性がとれていた。
「でも、私の店で働いていたマスターも、同じIDで・・・・。」
こんなことってあるの・・・?彼らの会話をわきで聞きながら、理沙はすっかりきつねにつままれたような心境だった。
幸子ママにいたってはさらにショックは大きいはず。彼ら2人には全く罪はなく、あらぬ疑いをかけられてすっかり気分を害していた。
取調べは1時間ほどで終わった。
幸子ママはイスから立ち上がろうとしたが、すっかり力が抜けて、理沙が支えてようやく立ち上がった。



逃亡(その6) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/13(Tue) 23:16 No.95  

長い通路を、幸子ママのあとを追いながら、だんだん息があがってくる。
「ねえ、2人とも一緒?」
「そうだよ。・・・・ゲートで何とか止めてくれた。」
搭乗ゲートの改札で、個人コードを判別してロックをかけられたようだ。文字通り間一髪である。
その搭乗ゲートは一番遠いところにあるので、走ってもなかなか見えてこない。ようやく5分ほど走って近くまでやってきた。
そのゲートの前に、小さな人だかりが見えた。
なにやら騒がしいようである。中心の男がなにやら怒鳴っている。
マスターか・・・・・と、その姿を見て安心感とともに、直前に控えているさらに大きな騒動を理沙は想像した。
・・・・・だから、何度も言っているじゃないですか・・・・!と男が係員に対して詰め寄っている。
警備員がその騒動の中に割り込んだ。
・・・・・勘弁してくださいよ・・・・!と、制止するのもきかずにまだ男はわめいている。
幸子ママもようやくその人だかりに到着。
理沙はすっかり疲れた状態で近くの座席にへなへなと座り込んでしまった。
「えっ・・・・・そんなぁ!」
幸子ママの叫び声に、理沙は顔をあげた。



逃亡(その5) 投稿者:理沙の旦那 投稿日:2004/04/13(Tue) 23:15 No.94  

誰もがみんな、生まれながらに11桁の番号を持っている。
その番号で人はみな公共のサービスを受けることもでき、またどこで何をしているかの監視もされている。
たとえば飛行機に乗るためにチケットを買えば、買うときに提示した社会保障IDカードの番号がチケットに書き込まれ、
これによって誰がどこに行ったのかの追跡も可能になる。
このシステムが世の中に導入されたときには、世間で議論もわきおこったが、巧妙に人々は慣らされてゆき、今では社会生活には必要不可欠となった。
時には犯罪者の追跡が可能になったため、多くの事件の解決が早まり、
またあるときには、不明者の捜索に大きな威力を発揮した。
幸子ママと理沙は、その番号を頼りに逃亡したマスターとれいなを必死に追いかけている。そして後少しというところに迫っていた。

空港に到着すると、電話片手に搭乗ゲートに向かって走る。
「押さえた・・・・?何とかしてよ。お願い。」
2人は手荷物検査のゲートの前で、係員に止められた。
幸子ママは携帯電話をその係員に手渡した。そして係員は電話の向こうの人物と話している。
・・・・ちょっとこちらへ・・・・と2人は事務室に案内された。
やがて事務室に空港警察の人間が2人やってきた。理沙は息を呑んだ。
「特別措置ということで、私たちが案内します。」
ほっとしているひまはない。さっそく搭乗ゲートに向かう。
「止めてくれた?・・・・・本当に?・・・・・・ありがとう!」

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