「この前は、来てくれてありがとう。」画面の向こう側の男に語りかける。
髪はぼさぼさ、目もうつろ、男の言葉はあまりよく聞き取れない。
「今何時だと思ってるの・・・?」
冬の朝はまだまだ暗い、早朝、4時半であればまだまだ夜だ。
「ごめんなさいね・・・・・。」理沙はしっかりと男の目を見つめ、
「でも、いつも心配してるよ。また会いたいけど、忙しいものね。」
そうなんだよね・・・・・と男は先ほどよりも少し低いトーンで話を続けた。無理やり起こされた腹立たしさはもうすっかり冷めている。
「毎日残業で、もうすっかり疲れたよ・・・・。」
そのあと2人は20分ほど生活の中でのたあいのない話を続けた。
「今度の週末は、お休み?」理沙がそんな話を切り出した。
男は少し悩んでいた。しかし、
「どこか外で食事でもしませんか・・・・?」と理沙がちょっと背中を押すと、男は、
「いいよ、土曜日の夕方でもいいかな・・・・?」
はじめて会ってから3週間。例の中堅社員の男はすっかり理沙のペースに引きずり込まれていた。