子供のころはあまり意識はなくても、成長して将来のことを真剣に考える年頃ともなると、親のことが非常に気になっていた。
直子に対しては普通に接していても、母親との心の中での溝については、理沙としてはなかなか埋めることができなかった。
17歳になってまもないある日、理沙は親同士の深夜の会話を盗み聞きしてしまった。母親は涙声で、
<・・・頭ではわかっていても、どうしても心では理解できなくて。ねえ、あなた、今になってこんなこと言うのはなんだけど・・・>
理沙の心を、氷のように冷たいものが締めつけた。
<・・・あの娘、あたしには合わない。・・・>
何を言っているんだ、と父は母にきつい言葉をぶつけた。
声を押し殺すような母親の泣き声。
そっと理沙は自分の部屋に戻る。そして聞きたくないそのあとの会話から遮断するつもりで布団に包まって無理やりにでも寝ようとした。
しかし、気分が高まってなかなか寝つけないまま、いつの間にか朝になっていた。
そんな閉塞感に耐え切れなくて、家を出た。
だから同じようにして今一人暮らしをしようと考えている妹の気持ちが痛いほどよくわかった。
「でもね、姉さん。」
直子はまっすぐに理沙のことを見つめた。