渚が言っていた、幸子と由紀との間での冷たい闘いについては、もう店の全員の知るところとなっていた。
後から入ってきた新入りとはいえ、自分の立場が気になり始めている由紀。
それに対して、自分のポジションをなんとかして確立したい幸子。
根無し草の気持ちについては、理沙もわからないわけでもない。しかし今の幸子は理沙の目からも異常に見えた。
最近は理沙が起きる時刻には、早々と幸子は出かける用意をしていることが多くなった。
「ねえ・・・・・・。」
ぼさぼさ頭をとりあえず整えるために鏡の前に行くと、幸子が化粧をしていた。
「毎日毎日、ほんとに大丈夫?」
背中越しに幸子は言った。事務的な口調で「ううん、大丈夫だよ。」
スプレーを軽く髪に吹いて、バッグを持って幸子は立ち上がった。
「待ってよ、そんなに毎日毎日、体壊れるんじゃないか心配。ねえ、ちょっといい?」
そしてダイニングに向かう幸子の前に入って、出かけようとするのを止めた。
幸子は怒ることもなく、しかしやんわりと理沙のことを脇によけようとする。
「心配してくれるのは嬉しいけど、でも、約束があるから。」
「そんな、すぐに終わるからさぁ。」
2人はテーブルについた。
幸子は煙草に火をつけた。「それで・・・?」